はじめに|ワールドモデルが「次の生成AI」と呼ばれる理由 大規模言語モデル(LLM)が主に言語系列の次のトークンを予測するのに対し、ワールドモデルは、観測された世界の状態を内部表現として持ち、時間の経過や行動によって次に何が起きるかを予測する。映像や3D空間を生成するだけでなく、ロボットや車両がある行動を選んだとき、その結果として世界がどう変わるかを試すための技術である。
2025年までは、操作できる動画や探索可能な3D空間が注目の中心だった。2026年に入ると、Google DeepMindやWorld Labsによるリアルタイム・空間生成、NVIDIAによる推論・世界生成・行動生成の統合、Wayveによる実走行データに接地した閉ループ評価が並行して進み始めた。競争の焦点は「何秒の映像を作れるか」から、「行動と結果のループをどこまで閉じられるか」へ移りつつある。
一方で、「ワールドモデル」という言葉は、動画生成モデル、3D生成、ロボット基盤モデル、デジタルツインまでを含む形で広く使われている。そこで本稿では、各社を同じ基準で順位付けするのではなく、何を入力し、何を出力し、どの産業課題を解こうとしているかを整理する。あわせて、資金調達と提携関係、日本企業が持つ実世界データとの接点から、2026年8月時点の競争構造を読み解く。
01|ワールドモデルとは何か 1-1.世界の状態と行動結果を学習するモデル 技術的には、エージェントが受け取る観測、世界の潜在状態、エージェントの行動、次の状態・観測の関係を学ぶモデルを指す。重要なのは、静止した3Dデータを保持するだけでなく、「この行動を取れば、次に何が起きるか」を扱えることである。カメラ画像やセンサー値は世界そのものではなく、エージェントが得られる一部の観測にすぎない。ワールドモデルは、その観測から見えない状態を推定し、未来を予測する。
World Labsは2026年6月、ワールドモデルが担う機能を、Renderer、Simulator、Plannerの三つに分類した。Rendererは人や機械が受け取る観測を生成し、Simulatorは幾何・物理・動態を含む計算可能な状態を再現する。Plannerは観測と目標から、エージェントが次に取る行動を出力する。これは市場全体を整理するための機能分類であり、同社製品だけを分類したものではない。
1-2.動画生成、デジタルツイン、VLAとの違い
VLAは、視覚情報と言語指示を基にロボットの動作を出力するモデルであり、主にPlanner側に位置する。ただし、近年はVLA内部に未来予測を組み込んだり、世界モデルが生成した結果をVLAの学習や評価に使ったりする研究が進んでいる。「見て動く」モデルと「予測して動く」モデルの境界は、徐々に曖昧になっている。
また、ワールドモデルと呼ばれる製品が、必ずしも明示的な3D構造や物理法則を持つわけではない。操作入力に反応して一貫した次フレームを出す映像モデルも、広い意味ではワールドモデルと呼ばれる。一方、ロボット訓練や建築設計で必要なのは、見た目のもっともらしさだけでなく、寸法、衝突、速度、荷重、素材などが計算に耐えることである。「見える世界」と「使える世界」の差は、用途を見極める重要な論点となる。
02|2026年に見られる三つの変化 2-1.固定映像から、操作可能な環境へ 第一の変化は、短い完成映像を出すモデルから、ユーザーやエージェントの入力にリアルタイムで反応する環境への移行である。Google DeepMindのGenie 3は、テキストから24fps・720pの探索可能な環境を生成し、数分間の一貫性を保つとしている。2026年5月にはProject Genieを通じてStreet View画像を起点に実在場所を変形・探索する機能を追加し、架空世界だけでなく現実の場所へ接地する方向を示した。
RunwayのGWM-1やOdysseyのモデル群も、過去フレームと行動入力から次のフレームを連続生成する。これにより、映像生成モデルは受動的なコンテンツ制作ツールから、ゲーム、訓練、ロボット評価などに使うインタラクティブ環境へ広がり始めている。ただし、リアルタイムで反応することと、正しい物理状態を持つことは別である。
2-2.生成結果を実世界へ戻す閉ループ化 第二の変化は、予測した映像や状態を眺めるだけでなく、次の行動へ接続し、その結果を再び学習へ戻す閉ループ化である。WayveのGAIA-4は、実走行ログを起点にしながら、AI Driverの操舵や加減速に応じて次のセンサー入力を変化させる。固定映像の再生では評価できなかった「別の判断をした場合の結果」を生成し、自動運転モデル全体を検証する仕組みである。
DecartのOasis 3も、プロンプトで運転環境を設定し、ステアリングなどの入力に応じて世界を変化させる。ただし、Wayveが実走行データに接地した評価を中核とするのに対し、Oasis 3は生成した操作可能環境をAPIで提供することに重心を置く。両社は同じ自動運転向けでも、現実データとの接続方法が異なる。
2-3.推論、世界生成、行動生成の統合 第三の変化は、個別モデルの連携から、推論、世界生成、行動生成を一つの基盤へ統合する動きである。NVIDIAは2026年5月にCosmos 3を発表し、テキスト、画像、動画、音、行動を入力・出力として扱う共通アーキテクチャを提示した。物理的な状況を理解し、未来の観測や行動列を生成するまでを同一モデルで扱う構想である。
World Labsも、Marbleによる3D生成だけでなく、生成世界をNVIDIA Isaac SimやMuJoCoなどのシミュレーターへ接続し、ロボットのreal-to-sim-to-real、すなわち現実の環境を仮想化し、そこで学習した結果を実機へ戻す用途を進めている。ワールドモデルの価値は、モデル単体の出力品質よりも、現実と仮想を往復する開発工程全体の中で測られるようになりつつある。
03|主要プレイヤーの現在地 ワールドモデル市場には、同じ基準で単純比較できない企業が混在する。ここでは、汎用の世界生成・予測基盤、領域特化シミュレーター、現実の基準データを提供する層、ロボットの行動を出すPlanner層に分けて整理する。
3-1.汎用・基盤モデル
3-2.領域特化・現実接地・Planner層
04|有力プレイヤーの技術と戦略 4-1.Google DeepMind|世界を大量に生成できる学習環境へ Genie 3の特徴は、3Dアセットを事前に組み上げなくても、プロンプトからリアルタイムに探索できる環境を立ち上げられる点にある。多様な世界を短時間で用意できれば、エージェントは現実では集めにくい経験を仮想環境で獲得できる。Street Viewとの接続は、完全な架空世界だけでなく、実在場所を起点にした世界生成へ進む動きと位置づけられる。
ただし、現在のGenie 3は主にピクセルを返すRendererであり、設計図やロボット制御に必要な幾何・物性を保証するSimulatorとは異なる。強みはモデル単体よりも、Googleが持つ映像、地図、エージェント、ロボティクス研究を横断できることにある。
VIDEO
4-2.World Labs|3D空間を生成物から計算資産へ Fei-Fei Li氏らが設立したWorld Labsは、空間知能を中核に掲げる。Marbleは、テキスト、画像、動画、粗い3Dレイアウトから、ユーザーが歩き回り、編集し、拡張できる永続的な3D世界を生成する。Gaussian Splattingによる視覚表現だけでなく、物理エンジンが利用できる衝突メッシュも出力し、RendererとSimulatorの境界をまたぐ。
2026年にはWorld APIを公開し、制作・設計ツールへの組み込みと、ロボット訓練用環境の大量生成を進めた。同年2月には10億ドルを調達している。当社メディアでも以前、同社の調達とNVIDIA、AMD、Autodeskなどの出資関係を取り上げた。
VIDEO
4-3.NVIDIA|物理AI開発の統合基盤 NVIDIAの特徴は、Cosmos 3単体の性能だけではない。GPU、学習基盤、Omniverse、Isaac、GR00T、車載プラットフォームまで、物理AIの開発工程を幅広く持つ。Cosmos 3は物理推論、世界生成、行動生成を一つのオープンモデルで扱い、企業が自社のロボットや車両データで追加学習する前提の基盤である。
同社は、ABB Robotics、FANUC、安川電機、KUKAなどの産業ロボット企業に加え、Skild AI、Figure AI、World Labsなどのモデル・ロボット企業を自社基盤へ接続している。NVIDIAが目指すのは、単一の完成モデルを販売することよりも、各業界が固有の世界モデルとロボット知能を構築する際の共通基盤になることだと考えられる。
VIDEO
4-4.Meta、AMI Labs|ピクセルを描かず、重要な状態を予測 MetaのV-JEPA 2は、次の画素をすべて生成するのではなく、動画を抽象表現へ変換し、その表現空間で何が起きるかを予測する。現実のセンサーデータには、細かな反射や背景の揺れなど、行動判断には不要で予測も難しい情報が多い。JEPAはそれらを捨て、物体、動作、位置関係など意思決定に必要な構造へ計算を集中させる。
V-JEPA 2は100万時間超の動画などで事前学習した後、62時間のロボットデータを追加し、未知環境・未知物体を対象とするゼロショット計画を実証した。ここでいうゼロショットとは、配備先の環境や物体に合わせた追加学習なしで計画することを指す。ただし、公開結果は研究環境での到達・把持・配置などが中心であり、長時間の実運用性能を示すものではない。
Yann LeCun氏らが立ち上げたAMI Labsも、センサー情報を抽象表現で予測し、永続記憶、推論・計画、安全な制御へ接続する方針を掲げる。2026年3月に10.3億ドルを調達し、産業制御、ロボット、ウェアラブル、医療などを対象に挙げるが、現時点では製品より研究構想が中心である。
4-5.Runway、Odyssey|動画モデルをリアルタイムの世界へ RunwayのGWM-1は、Gen-4.5を基盤とする自己回帰型モデルであり、カメラ位置、音声、ロボット指令などにリアルタイムで反応する。探索環境向けのGWM Worlds、対話キャラクター向けのGWM Avatars、ロボット向けのGWM Roboticsを展開し、映像制作で得た生成能力をインタラクティブなシステムへ移している。
Odysseyは単一モデルではなく、物理精度を高めたOdyssey-2 Max、音や操作を含むStarchild-1、複数の人間・AIが同じ世界で相互作用するAgora-1、強化学習でモデルの弱点を探索するPROWL-1へ広げている。2026年6月にはシリーズBで3.1億ドルを調達し、評価額は14.5億ドルとなった。当社メディアでも以前、この調達とAmazon、GV、AMD Venturesなどの参加を取り上げた。
両社の強みは映像データの規模とリアルタイム性にある。一方、外見上の一貫性を超えて、正しい尺度、衝突、接触、物体の永続性をどこまで保証できるかが次の壁になる。動画モデルは汎用Rendererとして先行するが、産業用途ではSimulatorとしての検証が必要である。
4-6.Physical Intelligence、Skild AI、Figure AI|Plannerと実世界データ Physical IntelligenceとSkild AIは、汎用の世界を映像として生成する企業というより、画像認識、言語理解、動作生成を統合し、ロボットが次に取る行動を出すPlanner側のプレイヤーである。Physical Intelligenceのπ0は、複数種類のロボットと作業データを一つのVLAで学習し、衣類の折り畳み、食器の片付け、箱の組み立てなどを扱う。
Skild AIは、異なるロボット機体を一つの基盤モデルで制御する「omni-bodied intelligence」を掲げる。2026年3月にはABB Robotics、Universal Robots、NVIDIAとの提携を発表し、工場や協働ロボットへ展開する方針を示した。モデルが複数機体からデータを集め、配備が増えるほど次のモデル改善へ使えるデータが増える循環を狙う。
Figure AIは、VLA「Helix」とヒューマノイドを一体で開発する完成品型に近い。2026年8月にはロボット学習用の実世界動画基盤「Index」を公表し、同社発表によれば100か国超から1,600万本超の動画を収集した。ワールドモデルの性能を左右するのはモデル構造だけでなく、現実の多様な物理現象をどのようにデータ化するかであることを示す動きである。
4-7.Wayve、Decart|自動運転向け閉ループシミュレーション 自動運転では、実道路ですべての危険場面を再現することはできず、固定映像の再生では車両の判断が次の入力を変えない。WayveのGAIA-4は、実走行ログから始めながら、AI Driverの操舵・加減速に応じて次のカメラやレーダー入力を生成する。
安全評価では、他車や歩行者を実ログ通りに動かす「world-on-rails」を基準とし、必要に応じて周囲の車両が自車へ反応する条件へ広げる。生成モデルの自由度を無制限に高めるのではなく、元の走行記録を保守的な基準として残す点が特徴である。
DecartのOasis 3は、テキストで運転世界を設定し、スロットルやステアリング入力に応じて次の状態を返す。強化学習環境としてAPIから利用できる一方、CARLAやIsaac Simのような手作業で構築された物理エンジンではなく、生成モデルである。写真のように見えることと、安全評価へ使えることは同義ではなく、現実データとの誤差測定が重要になる。
VIDEO
4-8.Niantic Spatial|生成世界を現実へ接地する地理空間モデル Niantic Spatialは、生成された「ありそうな街」ではなく、地理参照された現実の街を理解するLarge Geospatial Model(LGM)を構築する。スマートフォン、ドローン、衛星、LiDARなどから3D空間を再構成し、機械へ「どこにいるか」「何を見ているか」を与える。
同社は、World Foundation Modelが起こり得る世界を生成するのに対し、LGMは正確な位置と意味を持つ現実側の基準データを与えると整理する。ワールドモデルと競合するというより、生成世界を現実へ接地し、誤差を測るための補完層とみる方が適切である。
05|資金調達・出資・提携から見る競争構造 ワールドモデル競争では、誰が最も大きなモデルを作るかだけでなく、GPU、クラウド、設計ソフト、ロボットメーカー、実世界データを持つ企業がどの陣営へ接続するかが重要になる。資金調達と提携関係を並べると、計算基盤、産業ワークフロー、実機配備を同時に押さえようとする構造が見える。
5-1.半導体企業は顧客とモデルの両方へ投資 NVIDIAはCosmosやIsaacを自ら開発する一方、World Labs、Skild AI、Figure AIなど周辺プレイヤーへ資本・技術の両面で接続する。ワールドモデルは学習だけでなく、リアルタイム生成や大規模シミュレーションにも高い計算能力を必要とするため、モデル企業の成長がGPU需要へ直結しやすい。
AMDもWorld LabsとOdysseyに参加し、生成・シミュレーション基盤との関係を強めている。半導体企業にとってワールドモデルは、LLMに続く新しい計算需要であると同時に、自社ハードウェアを業界標準の開発環境へ組み込む機会となる。
5-2.産業ソフトと実世界データが差別化要因 AutodeskによるWorld Labsへの2億ドルの戦略投資は、生成された3D世界を建築・製造・メディアの設計工程へ接続する意図を持つ。モデル単体が優れていても、設計者が使うデータ形式、編集ツール、承認工程へ組み込めなければ、産業用途には広がりにくい。[7]
同様に、Skild AIの産業ロボット企業との提携、Figure AIとBrookfieldの関係、Wayveの自社AI Driverとの閉ループは、利用現場そのものを学習データ源へ変える。競争力はモデルのパラメーター数だけでなく、配備、データ回収、再学習を繰り返せるかによって左右される。
06|ロボット・自動運転・建築/都市での活用 6-1.ロボット|危険・高コストな経験を仮想環境で増やす ロボット開発では、実機を使ったデータ収集に時間と費用がかかり、失敗によって機体や周囲を損傷する可能性もある。ワールドモデルが多様な作業環境を生成し、行動結果を予測できれば、実機では集めにくい失敗例や例外条件を仮想環境で増やせる。
ただし、生成映像の中で成功した動作が現実でも成功するとは限らない。摩擦、接触、柔らかい物体、センサー遅延などの差が、sim-to-real gapを生む。そのため、World Labsの3D環境、NVIDIAの物理シミュレーション、VLAの行動生成、実機から戻るデータを一つのループとして扱う必要がある。
6-2.自動運転|走行距離では集めにくい危険場面を検証 自動運転では、性能が高まるほど重大な失敗が起きる頻度は下がり、安全性を統計的に確認するために必要な実走行距離が増える。閉ループ型ワールドモデルは、実際に起きた介入場面を起点に、制御判断を変えた場合の反実仮想を繰り返し検証できる。
一方で、生成モデルが都合のよい未来を描けば、安全性を過大評価する危険がある。Wayveのworld-on-railsのように元ログを保守的な基準として残す仕組み、複数センサーの整合性、現実との誤差指標が不可欠になる。自動運転は、ワールドモデルの価値と限界を最も測定しやすい初期市場の一つと考えられる。
6-3.建築・都市|完成像の生成から、複数案の比較へ 建築分野でワールドモデルを「テキストからパースを作るAI」と捉えると、本質を見誤る。画像・3D生成は初期コンセプトや空間バリエーションの作成には使えるが、実際の設計、発注、施工、運営には、寸法、法規、構造、設備、コスト、工程、人流、エネルギーなどの状態を共有し、選択肢ごとの結果を比較する必要がある。
実用的な構成は、BIM、GIS、スキャン、センサーなどの現実データ、その場所の将来を生成するSimulator、要件に応じて配置や運用案を選ぶPlanner、完成後の人流・エネルギー・保全データを戻す運用ループの四層になる。World LabsとAutodeskの関係は、生成された空間を設計ワークフローへ接続する初期例と位置づけられる。
短期的には写真やラフから複数案を立ち上げ、関係者が同じ空間を歩きながら要件を詰める用途が中心となる。中長期には、実在敷地のデジタルツイン上で、人流、照明、音、熱、物流、避難、施工手順を比較し、完成後の運用データを次の設計へ戻すことが焦点になる。ワールドモデルは設計者を置き換えるというより、検討できる未来の数を増やす技術と考えられる。
07|日本企業の現在地と参入機会 7-1.汎用モデルの規模ではなく、実世界データで差別化 日本企業にとって、GoogleやNVIDIAと同じ規模の汎用モデルを正面から構築することだけが選択肢ではない。日本には自動車、ロボット、工場、建設、物流、鉄道、都市インフラなど、現実の運用と接続されたデータがある。課題は、それらを個社の実証で閉じず、シミュレーションと実機検証が往復する学習基盤へ変えられるかである。
海外への資本参加では、ソフトバンクグループがSkild AIの14億ドルのシリーズCを主導した。AMI LabsにはToyota Venturesが参加し、World Labsには設計・製造領域と関係の深いAutodesk、半導体企業のNVIDIAとAMDが参加している。日本企業にとっても、完成モデルを購入するだけでなく、自社の実機や現場データを通じて開発側へ入る余地がある。[10][18]
7-2.TuringとSpaceData|領域を絞った実装 Turingは自動運転に絞り、カメラ入力から認識・判断・制御までを一気通貫で扱うE2Eモデルと、視覚言語モデル・視覚状態空間モデルを基にしたフィジカル基盤モデルを実車へ接続する。2026年6月には、SUBARUと車載E2E自動運転システム、デンソーとフィジカル基盤モデルの共同研究を開始した。モデル開発、車載適合、公道検証、走行データによる改善を循環させる方針である。
SpaceDataのPROVIDENCEは、衛星、ドローン、センサーなどを使ったデジタルツインと物理AIを統合し、都市開発、防災、インフラ、宇宙などへ展開する。海外の汎用ワールドモデルと同じ土俵で映像生成を競うのではなく、日本の都市・施設データを現実側の基準として整える基盤型の取り組みとみることができる。
7-3.Noetra|国内44社・団体による実世界ネイティブAI構想 2026年7月に本格始動したNoetraは、ソニーグループ、ソフトバンク、NEC、Hondaを中核企業・出資者とし、合計44社・団体から出資を受ける。産総研、Preferred Networksなどから参画する技術者を中心に、AIロボットや物理AIの基盤となる国産マルチモーダルモデルを開発する計画である。[25]
同社は2028年度に言語、画像、動画、音声を統合処理するオムニモーダル基盤モデル、2030年度に空間認識などの物理特性を理解する「実世界ネイティブAI」を目指す。現時点で完成したワールドモデルを持つ企業ではないが、日本企業の産業データと計算基盤を束ねる将来構想として重要である。
NVIDIAの協力により、約2万7,500基のRubin GPUを搭載する計算基盤を2027年4月から構築し、2028年6月の稼働を予定する。モデル開発だけでなく、国内企業が領域特化モデルを構築できる共通基盤を外部提供できるかが、今後の評価点になる。
08|残る技術課題と今後の展望 8-1.技術動向を見る六つの軸 時空間の一貫性:視点を変えても物体が消えず、長時間後も同じ世界が保たれるか。 行動条件付け:人やロボットの行動を入力し、その結果として未来が変わるか。 物理・幾何の正確さ:見た目だけでなく、寸法、衝突、速度、物性が計算に使えるか。 現実への接地:実世界のセンサー、地図、運用ログへ接続し、誤差を測れるか。 閉ループデータ:予測、行動、結果、改善を循環させ、学習データを継続的に増やせるか。 開発者と流通:API、オープンモデル、制作ツール、GPU、業界アプリへ組み込まれているか。 Rendererは製品化が先行し、Simulatorはロボット、自動運転、産業設計での実装が始まっている。Plannerは可能性が大きい一方、実環境での長時間・高信頼な動作検証が必要である。今後の焦点は、SimulatorとPlannerを結び、実世界の結果を改善データとして戻せるかに移る。
8-2.単一の勝者ではなく、複数レイヤーの接続競争 2026年8月時点で、ワールドモデルに単一の完成形はない。Google DeepMind、Runway、Odysseyはリアルタイム生成、World Labsは永続3D、MetaとAMI Labsは抽象予測、NVIDIAは統合基盤、WayveとDecartは領域特化シミュレーション、Niantic SpatialやSpaceDataは現実側の基準データを担う。Physical Intelligence、Skild AI、Figure AIは、その上で行動を出すPlannerと実機データの層を形成する。
これらは競合すると同時に補完関係にもある。映像を生成するRenderer、計算可能な状態を持つSimulator、行動を出すPlanner、現実へ接地するデジタルツインや地理空間モデルが接続されたとき、AIは「世界を描く」だけでなく、「複数の未来を試し、行動し、結果から学ぶ」システムへ近づく。
今後はモデル規模そのものに加え、正確な状態表現、行動への反応、長時間の一貫性、現実データによる検証、学習データを循環させる事業基盤が重要になる。日本企業にとっての機会は、汎用モデルの規模で正面から競うことだけではない。自動車、製造、ロボット、建設、都市インフラの実データを、仮想環境と実機が往復する仕組みへ変えられるかが、独自の競争力を左右すると考えられる。
関連する当社メディアの記事
空間生成AIを開発するWorld Labsが10億ドルを調達、NVIDIAやAutodeskも出資
Odyssey、世界モデル開発に3.1億ドル調達
ヒューマノイドロボット開発企業Figureの資金調達総額が10億ドルを突破
参考文献:
[1] World Labs, A Functional Taxonomy of World Models (2026-06-03)
[2] Google DeepMind, Genie 3: A new frontier for world models (2025-08-05)
[3] Google, Simulate real-world places with Project Genie and Street View (2026-05-19)
[4] World Labs, Marble: A Multimodal World Model (2025-11-12)
[5] World Labs, Announcing the World API (2026-01-21)
[6] World Labs, World Labs Announces New Funding (2026-02-18)
[7] Autodesk, Autodesk invests $200 million in World Labs (2026-02-18)
[8] NVIDIA, Develop Physical AI Reasoning, World, and Action Models with NVIDIA Cosmos 3 (2026-05-31)
[9] Meta, Introducing the V-JEPA 2 world model and new benchmarks for physical reasoning (2025-06-11)
[10] AMI Labs, Official launch and $1.03B funding update (2026-03-10)
[11] Runway, Introducing GWM-1 (2025-12-11)
[12] Odyssey, Our $310 Million Fundraise to Accelerate World Simulation (2026-06-17)
[13] Wayve, GAIA-4 World Model (2026-08-03)
[14] Decart, Oasis 3: The Interactive World Model for Physical AI
[15] Niantic Spatial, Niantic Spatial & The Large Geospatial Model (2026-01-13)
[16] Niantic Spatial, The Large Geospatial Model Powering Embodied AI at Scale (2026-02-19)
[17] Physical Intelligence, π0: Our First Generalist Policy (2024-10-31)
[18] Skild AI, Announcing Series C (2026-01-14)
[19] Skild AI, Partnering with ABB Robotics, Universal Robots, and NVIDIA (2026-03-19)
[20] Figure AI, Figure Exceeds $1B in Series C Funding (2025-09-16)
[21] Figure AI, Introducing Index (2026-08-25)
[22] SpaceData, 空間知能テクノロジー
[23] SpaceData PROVIDENCE, 都市開発
[24] Turing, 車載E2Eシステムおよびフィジカル基盤モデルの共同研究 (2026-06-04)
[25] Noetra, 国産マルチモーダル基盤モデルの開発に向けて本格始動 (2026-07-16)
[26] ATX Research, World Labsが10億ドルを調達
[27] ATX Research, Odysseyが世界モデル開発に3.1億ドルを調達
[28] ATX Research, Figureの資金調達総額が10億ドルを突破
[29] NVIDIA, NVIDIA and Global Robotics Leaders Take Physical AI to the Real World (2026-03-16)
【世界のワールドモデルの最新動向 やコンサルティングに興味がある方】
世界のワールドモデルの業界動向調査、技術調査、新規事業機会の探索、参入戦略立案、パートナー探索などに興味がある方はこちら。
先端技術調査・コンサルティングサービスの詳細はこちら