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メタン熱分解技術を有するTulum Energyがベンチャー資金調達ラウンドで39億円を確保。分解方法を生み出すきっかけとなった「偶然」とは

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メタン熱分解で水素をつくる技術を有するルクセンブルクのスタートアップ、Tulum Energyは2025年7月8日、ベンチャー資金調達ラウンドでの$27m(約39億円)の確保を発表した。

同社は、鉄鋼やエネルギー関連などの企業を内包するコングロマリット、Techint Group内に設けられた新企業。正確な設立時期は明らかでないものの、今回が初めての資金調達と見られ、立ち上がってから間もない企業であるようだ。

広範に利用される技術でターコイズ水素生産のコスト低減が期待

クリーンエネルギーとしての期待が高い水素だが、現時点でコストパフォーマンスのよい方法を採ろうとすると、生産時に二酸化炭素(CO2)を排出してしまう課題がある。そこで、CO2排出がなく水素をつくる方法として、メタン熱分解の研究開発が進められている。

メタンを化学式で表すと、CH4だ。C、すなわち炭素があるが、これは大気中に放出することなく、タイヤなどに利用する方法が検討されている。メタン熱分解の概要や副産物として生じるカーボンブラックについてなど、以下の記事で取り上げているので併せてご覧いただきたい。

参考記事:メタン熱分解(ターコイズ水素)技術の動向|3つの方法と商用化の現状

また、上記記事で触れているように、メタン熱分解ではプラズマや触媒を使う方法などが考えられている。では、Tulum Energyがどのような形でメタン熱分解、それによるターコイズ水素の生産を行うかというと、電気アーク炉を熱源としてメタンを分解する方法だ。

今回の資金調達を報じるTechCrunchによると、Tulum Energy の母体であるTechint Group のエンジニアたちは2000年代前半、電気アーク炉、すなわち電炉の改良を試みていた。その際、通常は消耗するはずの炭素電極が、逆に大きくなっていたという。

これは、熱分解反応によるもので、元素としては炭素と水素に分解できていた。

しかし、この偶然が見直されたのは、つい最近だったとのこと。グループ内のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がメタン熱分解の技術を求めていたのを見て、Tulum Energyの現CEOであるMassimiliano Pieri氏らが約20年前の偶然の発見を思い出した。そして、Tulum Energyの設立に至ったという流れである。

特段の説明はされていないものの、Tulum Energyは資金調達の発表でこの画像を公開。分解のプロセスを示すものと見られる(同社プレスリリースより)

メタン熱分解はCO2を排出せずに水素の生産ができる方法であるものの、コストをいかに削減できるかという壁を乗り越えなければならない。この点でTulum Energyの技術は、すでに世界のいたるところで使われている電炉をベースにしているため、低コストに生産ができる可能性を秘める。

また、Tulum Energyでは水素の生産だけでなく、副産物からグラフェンによる高付加価値な素材を生み出すなどの研究を進めていることも、ウェブサイトから読み取れる。

TDKのCVCが参加

ベンチャー資金調達ラウンドには、TDKのCVCであるTDK VenturesやTechEnergy Venturesなどが参加。TechEnergy VenturesはTechint GroupのCVCであり、前述のTulum Energy設立のきっかけとなった投資家と見られる。

資金は、水素をパイロット生産するプラント建設に利用。このプラントは、メキシコにあるTechint Groupの1社であるTerniumの製鉄所内に建設する。Terniumは水素を使った直接還元鉄(DRI)の技術開発を目論んでおり、水素の生産から利用までを同じ場所で一貫して行うことが狙いだ。

また、Pieri CEOは「パイロット試験の後、本格的な商業プラントの建設に着手する」とコメントした。




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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