次世代IVF(不妊治療)企業のConceivable Life SciencesがシリーズAで5,000万ドルを調達

Conceivable Life Sciencesは、2021年に米国ニューヨークで創業された不妊治療テクノロジー企業だ。AI・ロボティクス・光学技術を組み合わせた自動化IVF(体外受精)ラボプラットフォーム「AURA」を開発し、従来200以上に分かれる手作業工程を標準化・自動化することで、治療の成功率向上とコスト削減を目指している。
このプラットフォームAURAは卵子・精子の準備、受精、胚培養、凍結保存、解凍といった全ライフサイクルをカバーし、サンプルのトレーサビリティも確保している。初期プロトタイプの検証では18人の健康な赤ちゃんが誕生しており、現在は100名規模の臨床試験を進行中で、年内にさらに120名のデータを収集する予定である。
2025年9月15日、同社はシリーズAラウンドで5,000万ドルを調達し、累計調達額は7,000万ドルに到達した。今回の資金調達はAdvance Venture Partnersが主導し、ARTIS Ventures、Stride、ACMEなど既存投資家も参加している。調達資金はAURAの商業化と米国内での展開に充てられ、2026年初頭の本格導入を目標としている。
急増する不妊治療需要にテクノロジーで応える
不妊治療、とりわけ体外受精(IVF)は、従来から高コストで結果が安定しないという課題を抱えていた。200を超える工程が手作業で行われ、技術者の熟練度やラボ環境によって成功率にばらつきが生じ、複数回の治療を余儀なくされる患者も多かった。さらに、世界的に不妊治療への需要は急増しており、既存のクリニックやラボのキャパシティでは対応しきれない状況が続いていた。
同社はこの課題に対し、AIとロボティクスを活用した自動化IVFラボプラットフォーム「AURA」というアプローチを採用した。200以上の工程を標準化し、ロボットが精密に操作、AIがリアルタイムで判断を支援することで、成功率のばらつきを低減。
さらに効率的なワークフローにより処理能力を拡張し、コストを抑えつつ短納期で治療を提供できる体制を構築。これにより、患者は治療結果の予測可能性が高まり、経済的・心理的負担を軽減しながら、より多くの人がIVFにアクセスできる環境が実現しつつある。
画像解析とロボティクスで標準化する胚培養プロセス
同社のIVFラボは、AIとロボティクスを中核とした統合プラットフォーム「AURA」が特徴である。AURAは卵子・精子の準備、受精、胚培養、凍結保存、解凍といった200を超える工程を対象に、複数の特許技術を組み合わせて自動化している。
まず、卵母細胞の成熟度判定では、光干渉断層撮影(OCT)による三次元画像を取得し、AI/機械学習モデルが極体(polar body)の有無を解析。これにより、従来は熟練培養士が顕微鏡下で目視していた成熟度評価を標準化し、未熟卵の選別精度を向上させている。
次に、卵胞液中のCOC(Cumulus-Oocyte Complex)検出では、サンプルの画像を取得し、AIが既知の光学的パターンと照合してCOCの存在確率を判定。しきい値以上の確率でCOCと判断された領域はロボットアームで自動的にピックアップされ、次工程に送られる。
脱被覆(denudation)の自動化では、ロボットピペッターが酵素処理と物理的操作を繰り返し行い、AIがリアルタイムに被覆細胞の除去状況を判定する。十分に脱被覆されたと判定されるまでプロセスを継続することで、オーバー処理や未処理のリスクを低減している。
ラボはソフトウェアで統合管理され、サンプルはデジタルIDで追跡される。工程データはリアルタイムに記録・解析され、再現性と成功率を高めつつ多数のIVFサイクルを並列処理できる体制を構築している。さらに、AIアルゴリズムや解析モジュールは更新で拡張可能であり、遠隔監視やクラウド解析にも対応できる設計となっている。
臨床試験から商業化へ、AURAが次の段階に突入
今回の資金調達により、同社はパイロット段階から商業化フェーズへの移行を加速させる。現在進行中の100名規模の臨床試験を完了し、さらに120名の追加データを収集した上で、2026年初頭には米国でAURAを用いた本格的な治療提供を開始する計画である。
共同創業者のJoshua Abram氏はポッドキャストで次のように語っている。
「IVFはノーベル賞を受賞した画期的な治療法ですが、世界の95%の患者はいまだ治療を受けられていません。これは倫理的にも臨床的にも商業的にも悲劇です。IVFを特別な治療ではなく、誰もが当たり前に受けられる医療に変えたい。」
さらに共同創業者兼CEOのAlejandro Chávez-Badiola氏は、メキシコシティのHope IVFでのパイロット導入についてこう述べている。
「AURAは、培養ディッシュ(培養皿)の準備から受精操作、胚培養、ガラス化凍結に至るまでを単一ラインで統合自動化するシステムである。これにより、3名のチームで年間約2,000サイクルの処理が可能となり、胚培養士(エンブリオロジスト)は反復的な手作業から解放され、より高度な判断や研究にリソースを振り向けられる。」
参考文献:
※1:Conceivable Life Sciences Raises $50 Million For AI Automation And Robotic Precision In IVF( リンク)
※2:特許 Autonomous Denudation in an Intelligent Automated in Vitro Fertilization and Intracytoplasmic Sperm Injection Platform(リンク)
※3:特許 Egg Preparation in an Intelligent Automated In Vitro Fertilization and Intracytoplasmic Sperm Injection Platform(リンク)
※4:特許 Optical Coherence Tomography in an Intelligent Automated in Vitro Fertilization and Intracytoplasmic Sperm Injection Platform(リンク)
※5:ポッドキャストインタビュー The Biggest Thing in IVF Right Now. Joshua Abram, Alan Murray, Dr. Alejandro Chavez-Badiola.( リンク)
※6:同社公式HP(リンク)
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