有機肥料スタートアップのNitricity、シリーズBで5,000万ドル調達

Nitricityは、スタンフォード大学の大学院生だった3人の創業者が、5,000ドルの助成金と事業計画を手に立ち上げたスタートアップだ。
創業初期は、ソーラー駆動の小型肥料生産装置を用い、自宅のレモンの木を対象に実験するところから始まった。こうした小さな実験から着実に研究を重ね、再生可能エネルギーを活用して窒素肥料を合成する独自技術を確立している。
現在は、アーモンド殻などの農業副産物と空気・水を原料に、液体有機肥料「Ash Tea」を製造。同製品は病原体や動物由来成分を含まず、灌漑システムに適した液体肥料として窒素利用効率を高め、従来の合成肥料に比べて環境負荷を大幅に低減する。フィールド試験では最大30%の収量(収穫量)増加が確認されており、農家にとっては環境負荷の削減と収益向上の両立を実現する新たな選択肢となっている。こうした成果を背景に、同社は米国西部での展開を進めるとともに、欧州市場への進出にも意欲を見せている。
2025年9月、同社はWorld FundがリードするシリーズBラウンドで5,000万ドルを調達。Khosla Ventures、Chipotle’s Cultivate Next、Change Forces、Susquehanna Sustainable Investments、Energy Impact Partners、Fine Structure Venturesも参加した。
空気とアーモンド殻から有機肥料をつくる独自プロセス
同社の肥料生産技術は、再生可能エネルギーで動くプラズマ装置を使い、空気中の窒素を肥料成分に変える仕組みが特徴だ。大気中の窒素と酸素をプラズマで活性化し、水に溶かして硝酸塩として回収する。未反応のガスは装置内で再利用されるため、エネルギー効率が高い。
生成される液体肥料「Ash Tea」は、アーモンド殻など地域の植物副産物を原料にしており、動物由来成分や病原体を含まない。有機認証(OMRIリスト、CDFA登録)を取得しており、有機農業でも使用可能だ。灌漑システムで詰まりにくいよう濾過・調整されており、既存設備からそのまま施肥できる。
これまでに複数のフィールド試験を実施しており、葉物野菜やナッツ類で最大30%の収穫量増加が確認されたほか、初期生育のスピードや作物の均一性も改善。窒素利用効率が高いため施肥量を減らしても生産性を維持でき、農家のコスト削減や土壌流出による水質汚染リスクの低減にもつながっている。現在、パイロット施設では年間80トンの生産量で80エーカー以上の農地に供給している。
小規模実験から量産体制へ
今回のシリーズB資金調達により、Nitricityはパイロット段階から商業レベルへの移行を一気に加速させる構えだ。建設中のカリフォルニア州デリーの新工場では現行比100倍の生産能力を実現し、すでに2028年までの出荷分は契約済み。地域ごとに分散配置できるモジュール型生産設備を活用し、米国西部での供給を拡大するとともに、ヨーロッパ市場への進出も視野に入れている。
共同創業者兼CEOのNicolas Pinkowski氏は、今回の調達について次のように語る。
「今回のラウンドは、Nitricityにとって大きな転換点です。米国内での供給体制を本格的に拡大すると同時に、ヨーロッパ市場への進出を本格化させるつもりです。」
リード投資家であるWorld FundのNadine Geiser氏もこう評価する。
「Nitricityの有機肥料は価格競争力が高く、従来の窒素肥料と比べて平均で92%以上の温室効果ガス排出削減を実現することがわかりました。世界的な農業の脱炭素化を進める上で、極めて重要な存在になると考えています。」
参考文献:
※1:Nitricity raises $50M to go global with unique tech transforming almond waste into organic fertilizer ( リンク)
※2:同社特許 Systems and processes for producing fixed-nitrogen compounds(リンク)
※2:同社公式HP(リンク)
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