炭素ブロック熱電池のAntora Energyが5.5億ドル調達 5GWh商用設備を足掛かりに量産拡大
米国のエネルギー貯蔵企業Antora Energyは2026年7月30日、シリーズCで5億5,000万ドルを調達した。同社は、安価な電力で炭素ブロックを加熱し、数日間蓄熱して産業向けの熱・電力として供給する熱電池を開発する。
ラウンドはG2 Venture PartnersとEclipseが共同主導した。Ribbit CapitalやSalesforce Venturesが新規参加し、Breakthrough Energy Venturesなども追加出資した。資金は大型案件と生産能力の拡大、米国第2の製造拠点設置、国内サプライチェーン強化に充てる。
5GWh商用案件を実績に、製造・展開能力へ投資
今回のポイントは、ギガワット時規模の商用設備を稼働させた直後に大型資金を確保した点である。同社は2026年5月、米サウスダコタ州のバイオ燃料大手POETの工場で、蓄熱容量5GWh、連続供給能力50MWの「Project Big Stone」のコミッショニングを発表した。200基超の熱電池を設置し、着工から供給までを12カ月未満で進めたという。
設備は長期契約に基づき、POETへ24時間エネルギーを供給する。同社によれば、POETの初期設備投資はゼロである。熱電池の販売にとどまらず、電力・資金の調達、設置、運転・保守を一体化し、需要家が熱を購入するサービス型モデルを採用できる点も、大規模導入を後押しする。
当社メディアでは以前、砂や砕石へ熱を蓄えるPolar Night Energyなどを取り上げた。いずれも再生可能エネルギーの変動を熱へ変えるが、Antora Energyは熱伝導率の高い炭素を使い、熱供給に加えて蒸気タービン発電にも対応する。蓄熱材だけでなく、既存工場への導入方法や熱供給契約を含む商用化も競争軸になりつつある。
炭素ブロックを最大2,400℃まで加熱する熱電池
同社の熱電池は、電力価格が安い時間帯に電気抵抗加熱で炭素ブロックを最大2,400℃まで加熱する。断熱設備内で数日分のエネルギーを蓄え、必要時に放射で熱を取り出す。炭素は熱伝導率が高く短時間で充電でき、希少金属も必要としない。同社によれば、蓄熱材のコストはリチウムイオン電池の10分の1、体積当たりのエネルギーは電気化学式電池の4倍である。
現在提供する「HeatCore」は、1モジュール当たり熱出力300kW、最大充電入力900kWで、100〜375℃の熱需要に対応する。想定寿命は20年以上で、充放電による劣化やサイクル数の制限はないとしている。工場生産したモジュールを現地へ設置し、メガワットからギガワット規模まで拡張できる。
電力として供給する場合は、熱を既製の蒸気タービンへ渡す。標準的なパワーブロックの発電容量は50MWである。将来製品には、高温の炭素ブロックが放つ光を熱光起電力変換素子で電気へ変えるTPV技術も組み込む。可動部品を使わない直接変換が実用化されれば、データセンターや電力網向けの長時間電源へ用途が広がる可能性がある。
産業熱とデータセンター向け電源の同時開拓
同社は、化学、食品、鉄鋼、セメント・石灰、製紙など、蒸気や高温熱を使う産業を対象とする。今後はProject Big Stoneで示した工場生産・短期施工モデルを他地域へ展開し、データセンター向け供給も進める。
共同創業者兼CEOのAndrew Ponec氏は、エネルギーが産業成長の制約になっていると指摘し、今回の資金で米国の製造投資を強化すると述べた。EclipseのJoe Fath氏は、技術実証を越え、製造・導入を速度と規模の両面で示した点を評価する。
日本企業による出資や国内導入は発表されていない。ただし、鉄鋼、化学、食品、製紙などは日本でも産業熱の脱炭素が課題である。既存の蒸気設備へ接続できる熱電池と、初期投資を抑える長期契約が実績を積めば、日本の製造拠点でも燃料転換の選択肢となり得る。
参考文献:
※1:Antora Closes $550 Million in Series C Funding to Meet Surging Energy Demand and Reindustrialize America( リンク)
※2:Antora and POET Commission 5 Gigawatt-Hour Thermal Battery Project( リンク)
※3:Project Big Stone( リンク)
※4:同社HP( リンク)
【世界の蓄電池技術の動向調査やコンサルティングに興味がある方】
世界の蓄電池技術の業界動向調査、技術調査、新規事業機会の探索、参入戦略立案、パートナー探索などに興味がある方はこちら。
先端技術調査・コンサルティングサービスの詳細はこちら
CONTACT
お問い合わせ・ご相談はこちら