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自社環境で運用可能な生成AIを開発するMistral AIが30億ユーロ調達 Samsungが主導

フランス・パリのMistral AIは、大規模言語モデルと企業向けAI基盤を開発する2023年設立の企業である。クラウド経由の利用に加え、モデルを顧客のサーバーへ置き、機密データを自社環境内に保ったまま運用する仕組みを提供する。

同社は2026年9月8日、シリーズDで30億ユーロを調達した。Samsung Electronicsが主導し、EQT運用のScaleup Europe Fundと既存投資家PSG Equityが共同主導した。投資後評価額は210億ユーロ超で、研究、計算設備、AIインフラ、海外事業を拡大する。

Samsungの半導体工場へ導入

Samsung Electronicsは出資と同時に、半導体部門で同社のAIを導入する戦略提携を発表した。大規模言語モデルをSamsungの設備内で動かし、製造データを外部へ出さずに、工場データの解析、欠陥検出、製造装置の最適化へ使う。開発期間の短縮や加工精度、歩留まりの安定化を目指すが、導入時期や効果の数値目標は公表されていない。

この関係は、同社が汎用モデルの提供から、産業別に調整したモデルと計算基盤をまとめて供給する事業へ進むことを示す。同社は現在20カ国で事業を展開し、AirbusやASMLなど125社超を支援しているという。今回の資金で学習・推論用の計算能力も増やし、企業がデータ、モデル、設備、運用を管理できる「ソブリンAI」を広げる。

日本との接点では、NTT DATAが2025年から同社と、企業向けプライベートAIの共同販売・導入を進めている。両社は専任組織も設けたが、NTT DATAは今回の出資者ではない。当社メディアでも以前、AIモデルを圧縮して端末や自社サーバーで動かすMultiverse Computingを取り上げた。Mistral AIはモデルの重みを公開し、顧客が管理する環境で調整・運用できる選択肢を重視する。

モデル全体を毎回動かさず、計算量を抑える仕組み

大規模言語モデルは、入力文を細かな単位に分け、学習した多数の数値の関係を使って次の語を予測する。同社は一部モデルの「重み」と呼ばれる数値群をApache 2.0ライセンスで公開する。企業はモデルを自社設備へ取り込み、業務データで追加学習させられるため、外部APIだけに依存せず、保存場所や更新方法を管理できる。

計算量を抑える仕組みがMixture of Experts(MoE)である。処理を担当する複数の専門部分を用意し、入力の内容に応じて必要な部分だけを選んで動かす。Mistral Small 4は128の専門部分のうち、語を処理するたびに4つを使い、全1,190億パラメーターのうち60億を稼働させる。全体を毎回動かす方式より計算を減らしつつ、用途別の知識を持たせる狙いである。

より大型のMistral Large 3も、全6,750億パラメーターに対し、処理時に使うのは410億である。文章だけでなく画像も扱い、企業は独自文書や製造データへ合わせて調整できる。ただし、モデル全体を保持するメモリーや複数のGPUは必要であり、社内運用だけで正確性や安全性が保証されるわけではない。利用企業には出力検証、アクセス制御、更新管理が残る。

モデル開発と計算基盤を一体で拡大

同社は調達資金を、次世代モデルの研究、学習・推論設備、企業向け導入、海外拠点へ投じる。大規模モデルの性能競争だけでなく、機密性の高い製造現場で、欠陥の早期発見や装置条件の改善といった測定可能な成果を示せるかが焦点となる。

共同創業者兼CEOのArthur Mensch氏は、AIがシリコンからソフトウェアまで複雑な技術の作り方を変えていると述べ、Samsungの半導体設計・製造を改善したいと説明した。Samsungの半導体部門CEO、Young Hyun Jun氏も、設計と製造の複雑化には継続的な技術革新が必要だとする。提携を実際の歩留まり向上へつなげられるかが次の検証点である。

参考文献:

※1:Mistral AIによる30億ユーロのシリーズD調達発表(リンク

※2:Samsung Electronicsによる主導出資と半導体分野での戦略提携発表(リンク

※3:同社HP(リンク

※4:NTT DATAとMistral AIによる企業向けプライベートAIの共同展開発表(リンク

※5:当社メディア「AIモデルの容量を最大95%削減するMultiverse Computing、最大5.7億ドルのシリーズCを発表」(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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