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AIモデルの容量を最大95%削減するMultiverse Computing、最大5.7億ドルのシリーズCを発表

スペイン・サンセバスチャンに本社を置くMultiverse Computingは、AIモデルの計算量を削減する圧縮技術を開発する企業である。2019年に創業し、量子物理で使われるテンソルネットワークを応用した「CompactifAI」を展開する。大規模言語モデルを小型化し、企業内サーバーや車両、端末上での利用を支援している。

同社は2026年7月27日、最大5億7,000万ドル、約5億ユーロのシリーズCを発表した。プレマネー評価額は17億ドルで、Forgepoint Capital International、BNP Paribas Solar Impulse Venture Fund、Bullhound Capitalが共同主導する。HP、Orange Ventures、Scania Investなども参加し、完了後の累計調達額は約8億ドルとなる見込みである。なお、2025年6月のシリーズBには東芝も投資家として参加しており、日本企業との資本面での接点を持つ。

高性能なAIを少ない計算資源で動かすモデル圧縮

生成AIの高性能化に伴い、モデルのパラメータ数と計算量は増大している。大規模モデルの運用には高性能GPUや大容量メモリーが必要となり、利用企業はクラウド費用や消費電力、通信遅延の負担を抱える。機密情報を外部へ送信しにくい産業では、導入できる環境も限られる。

同社の特徴は、小型モデルを一から開発するのではなく、既存モデルの重要な情報を残しながら計算量を減らす点にある。公式発表では、CompactifAIによってモデルサイズを最大80~95%削減しつつ、精度低下を抑えられるとしている。これにより、高性能なAIを車両、工場、ドローン、カメラ、衛星などにも搭載しやすくなる。

同社は、処理内容に応じて使用するモデルや実行環境を選ぶ「CompactifAI Router」も開発している。単体モデルの圧縮にとどまらず、端末とデータセンターを組み合わせて計算資源を最適化する基盤へ事業を広げている点が、今回の大型調達の背景にあるとみられる。

重み行列を小さな構造へ分解するテンソルネットワーク

CompactifAIの中核となるテンソルネットワークは、巨大なデータ構造を複数の小さな構造の組み合わせとして表現する数学的手法である。量子物理では、多数の粒子が持つ複雑な相関を効率的に記述するために使われてきた。同社はこの考え方を、大規模言語モデル内部の重み行列の圧縮へ応用している。量子コンピュータを使うのではなく、量子物理由来の計算手法を通常のコンピュータ上で利用する仕組みである。

大規模言語モデルを構成するTransformerには、単語同士の関係を計算する自己注意層と、情報を変換する多層パーセプトロン層がある。同社は、これらの重み行列を「Matrix Product Operator」と呼ばれるテンソルネットワークへ分解する。モデルの出力に影響する相関を残し、重要度の低い部分を削ることで、パラメータ数と必要なメモリーを減らす。圧縮の強さは、テンソル間で保持する情報量を示す「ボンド次元」で調整する。

初期検証では、Llama 2 7Bを元の約30%まで圧縮し、再学習後に元モデルの精度の90%以上を回復した。Intel Xeon 6を使ったLlama 3.3 70Bの検証では、保存容量を約130GiBから約65GiBへ減らし、複数の評価指標で元モデルの97%以上の精度を維持したとしている。圧縮後の追加学習によって、削減で失われた性能を補う工程も技術の一部である。

圧縮済みモデルとAI運用ソフトウェアを拡充

今回の資金は、圧縮済みAIモデルの拡充、独自アルゴリズムの研究開発、AIデータセンター向けソフトウェアへの投資に充てられる。同社は東アジアや東南アジア、中東、北米で事業体制を強化し、端末向けモデルから企業や政府が管理するAI基盤まで対応範囲を広げる方針である。

日本では2026年4月、丸紅とCompactifAIの展開に向けた覚書を締結した。丸紅は2026年度中に国内市場の需要や用途を調査し、車載機器などのエッジ環境や、機密データを扱うオンプレミス環境への導入可能性を検証する。調査結果を踏まえ、両社は日本での本格展開を目指す。

共同創業者兼CEOのEnrique Lizaso氏は、高性能AIには高価なインフラが不可欠だという前提は崩れつつあるとの認識を示した。今後は、異なるモデルやハードウェアでも精度と処理速度を維持し、日本企業のAI運用コストや消費電力をどこまで削減できるかが焦点となる。


参考文献:

※1:Multiverse Computing Announces Series C Fundraising Targeting up to $570M (€500M) to Power Efficient AI from Edge to Cloud( リンク

※2:同社HP( リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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