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宇宙での創薬・製薬を目指すVarda Space Industries、シリーズCで274億円を調達。軌道上の実験室を建設へ

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米国のライフサイエンス分野のスタートアップであるVarda Space Industriesは2025年7月10日、シリーズC資金調達ラウンドでの$187m(約274億円)の確保を発表した。

Vardaは2021年、カリフォルニア州エルセグンドで設立。「Wシリーズ」と名付けた、宇宙空間での軌道周回と地球への再突入が可能な宇宙船を開発した。これを利用し、無重力・微小重力の環境での医薬品生産を目指す。

創薬・製薬だけでなく米国防総省からの「実験受注」でマネタイズ

無重力・微小重力の環境下では、重力のある地上とは異なる分子の結晶化などが見られる。こうした環境とそれがもたらす影響により、地上では作れない医薬品が宇宙では生産できるとの期待がある。国際宇宙ステーションやかつてのスペースシャトル内でも、こうした宇宙ならではの医薬品を作る実験が行われてきた。

前述のように、VardaはすでにWシリーズを実証可能な段階まで開発しており、2024年から2025年3月にかけて3度、軌道投入と地球への再突入を行っている。一方、これから説明するように、宇宙での創薬は準備段階にある。

2025年3月の実証で地球に帰還した「W-3」(Vardaプレスキットより)

Vardaは、本社のあるエルセグンドに最近、900平方メートルの広さとなるラボスペースを開設したという。本件を報じるTechCrunchによると、このラボスペースで現在行われているのは、宇宙空間での創薬に適した材料は何であるかの選定だ。よって、どういった種類の、何を目的とした医薬品を作るかという本格的な取り組みは、まだ先となるであろう。

また、今回のシリーズCで調達した資金の使途は、軌道上での創薬を試す実験室の建設(製造)となっている。つまり、ハード面の構築も途上にあるということだ。

以上のように「本業」が始動するのはこれからであるものの、Vardaはある方法を用い、マネタイズを図っている。米国防総省から極超音速飛行の実験を受託することによるマネタイズだ。

Wシリーズが地球へ再突入する際のスピードは、マッハ25以上になる。つまり、極超音速飛行体である。創薬・製薬のためのプラットフォームとしてだけでなく、極超音速飛行の実験機としてもWシリーズを利用することで、Vardaは国防総省から実験費用を受け取っているのだ。

先程も触れたように2025年3月、VardaはWシリーズの3号機「W-3」の実証に成功した。カリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられ、オーストラリアのクーニバ試験場に帰還。この際のデータも、国防総省に提供している。

シリーズCにはPeter Thiel氏などが参加

シリーズCは、投資会社とベンチャーキャピタル(VC)が主導。他の投資家には、「PayPalマフィア」の中心人物であるPeter Thiel氏や彼が率いるFounders Fundなどが名を連ねる。

前述の通り、資金の使途は軌道投入する実験室の建設となる。

VardaのAdrian Radocea最高科学責任者は、実験室の建設によって「より複雑な分子の研究をサポートし、最終的には製薬業界が期待するターンアラウンドタイム(開始から結果が出るまでの時間)を達成するため、ペースを向上できる」とコメントした。




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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