ロボットに実装される感覚、これからロボットに必要とされるであろう感覚|触覚・嗅覚・味覚の技術を紹介

ロボットに、「感覚」を身に着けさせようする技術的な取り組みがある。本稿でその具体例を取り上げていくが、中でもすでに実装され始めているのが触覚だ。一方、嗅覚や味覚といった人間が生来、持つ感覚は、ロボットへの実装はこれからという段階であるものの、個別デバイスが産業分野で活用され始めている。
今回は、これらロボティクスに実装される触覚、将来的に実装されるであろう嗅覚と味覚の技術を紹介。なお、視覚は自動運転の分野などで開発が進み、聴覚は触覚や味覚ほどの事例が見られないことから、別の回で取り上げたい。
触覚|ロボットの指先にセンサーを搭載した2つの例
ロボットの触覚について、AmazonのVulcanというロボットと英Shadow Robotの開発したプロダクトを取り上げる。とりわけAmazonの事例は、ロボットが触覚での認知によってどう動くかを考えるところまで、技術が進んでいる。
Amazonの「Vulcan」
Amazonが自社倉庫内でピッキングなどを行うために開発したロボット「Vulcan」は、触覚と同様の機能を持たせることで把持するタイミングを正確にしたり、商品を壊さないように加える力を加減したりができる。
同社のウェブサイトにはVulcanのメカニズムについて、次のように書かれている。
Vulcanは、収納物に接触するタイミングと、どの程度の力を加えているかを把握し、損傷を与えることなく停止できるため、収納物のためのスペースを確保するために、収納物内の物体を容易に操作できます。
また、次のCNBCの報道によると、Vulcanの「神経」に当たるセンサーはグリップの表面と、そのグリップに力を加えるパーツに備えられている。グリップを動作させるパーツが把持したものの感触を認知することで、適切な力を加える、商品を壊さないようにする、などにつなげているようだ。
Vulcanを報じるCNBCの動画
グローバルな著名企業であるAmazonのロボットということで、「人間の労働者と置き換えようとしている」との批評家からの意見も出ている。これに対しAmazonは、倉庫の安全性を高めるため、ロボットへの投資や導入を行っていると主張。人体にとってリスクのある高所での作業をロボットで実施、ロボットのいるラインが止まった際には人間が必要なことは、前出の動画でも紹介されている。
Shadow Robot
Shadow Robotは、1997年設立の英国でロボットハンドを開発する企業。製品の中には、人がグローブをはめ遠隔地にあるロボットハンドを動かせるものがある。
同業のスタートアップ、HaptXのグローブでShadow Robotのロボットハンドの操作が可能。ロボットが感知する圧力、温度、振動などがグローブと装着する人の手に伝わる。グローブの中には微細な流体が動く「マイクロ流体感触アクチュエーター」という仕組みが備えられており、これが人の手に感触を伝えるものとなっている。
また、Google DeepMindと共同でDEX-EEというロボットハンドを開発。ロボットの指先にあるセンサーの触覚を、可視化した映像を公開している。
Shadow Robotが公開するDEX-EEのセンサーの感覚を可視化した動画
嗅覚|いかにVOCを検出するか
6月初め、ATXでSpotitEarly という米国のスタートアップが行った資金調達を報じた。この記事で取り上げたように、機械に嗅覚を持たせれば人間の疾患の早期発見にもつながるため、非常に有用と考えられているものの、技術的には発展途上の段階だ。
参考記事:イヌの嗅覚とAIでがんスクリーニングを行う米SpotitEarlyが30億円を調達。呼気のVOCから検出
こうした背景もあり、嗅覚に関するデバイスをロボットに組み合わせるような事例は見られなかった。
もっとも、臭いを検出、分析し、それを産業用途で活用する方法は模索されている。それらを取り上げる。
Aryballe
Aryballeは2014年、フランスで設立したスタートアップ。臭いの原因となる揮発性有機化合物(VOC)のセンサーを開発する。
それを、飲食料品や化粧品などでのユーザーエクスペリエンスに活用することを想定。「自動車」「製造業」も顧客として想定しており、たとえば車内の臭気管理によってユーザーエクスペリエンスにポジティブな影響を与えられるとしている。実際、新車特有の臭いで気分が悪くなるという人がいるが、これもVOCが要因だ。
Aryballeは2021年、NeOse Advanceというプロダクトを発表。これはVOCによるバイオセンサーの反応を、シリコンフォトニクスによって分析するものとなっている。
中央がNeOse Advance(Aryballeプレスリリースより)
RoboScientific
英国のRoboScientificも、VOCを検出、分析するデバイスを開発する。同社が主要な顧客として想定するのが、農畜産業だ。臭いから家畜の病気を予防する、傷んだ食品を臭いで判別し他の食品への影響を避けるといったことが可能だと、訴求している。
また、人体に関係するものとして、COVID-19を臭いによって判別することも可能だという。同社はロンドン衛生熱帯医学大学院などとの共同研究により、COVID-19には独特の臭いがあることを突き止めたとしている。また、センサーによる偽陽性・偽陰性リスクの低い検出方法が見つけられたとも発表した。
もっとも、これらはパンデミックの最中であった2021年に発信があったものの、その後の進展は見られない。パンデミックの収束などにより、研究開発がストップしていると考えられる。
プロダクトとしては、「307B」など畜産向けのVOC検出・分析デバイスを発表している。
307BなどでのVOCの検出は、有機半導体センサーを使っているという。詳細な説明はないものの、考えられる方法としてポリマー膜でVOCを吸着させ、検出するなどの方法が挙げられる。
Koniku
Konikuは、2015年設立の米国のスタートアップ。機械的なセンサーとDNA、そしてマウスの幹細胞から採取したニューロンを組み合わせ、臭いを検出する。つまり、エレクトロニクスのアプローチとバイオテクノロジーのアプローチの両面から、嗅覚を再現するものだ。
なお、ニューロンは生体から切り出してしまうと、長時間、利用できないのではないかとの疑問が浮かぶ。しかしKonikuは、「2年間生存し、完全に機能する」と主張。ウェブサイトの図には温度管理などを記しており、生存させる手法として示唆する。
今のところデバイスの発表には至っていないが、Osh. Agabi創業者兼CEOは、たとえば爆発物を臭いで検知できるようになり空港の保安検査が不要になる将来像があると説明している。
航空分野のセキュリティー面での用途が見込まれることから、2017年よりKonikuはAirbus Americasからさまざまなリソースの提供を受ける。Airbus AmericasのJeff Knittel CEO(左)とKonikuのAgabi CEO(Konikuプレスリリースより)
味覚|Alpha MOSの「電子舌」
味覚も嗅覚と同様、センサーをロボットに組み合わせる段階には達していない。
しかし、ここで取り上げるフランスのAlpha MOSは、その名も「電子舌(Electronic Tongue。商品名はASTREE)」と呼ばれるプロダクトをリリースしている。すでに大塚食品など、食品メーカーや検査機関などで利用されているものだ。
以下の使用法を解説する動画の限りでは、サンプルを複数用意し容器に入れ、そのまま機械的に分析するという、方法としては非常にシンプルなものとなっている。
ASTREE Electronic Tongueの使用法解説動画
味の検出や評価の基盤となるのは、ChemFET液体センサー。サンプルの成分を分析し、人間の味覚ではどのように感じるか評価する仕組みと見られる。
食品メーカーなどで行われる官能検査を、人間以上の精度で実施できる点をAlpha MOSは訴求。なお、同社はやはり食品の官能検査用途の「電子鼻」や画像分析装置も販売する。
まとめ|周辺環境の整備も必要
今回、取り上げた中でロボットに実装された感覚は、触覚のみだった。しかし、この触覚にしても課題がある。
編集部スタッフがあるメーカーの技術者にインタビューしたところ、手術ロボットの進展には操作する人間に触覚を伝える技術とともに、通信の遅延を起こさないことも大切だとの話があった。そして、国内外の各メーカーはそのための取り組みを進める。
つまり、ロボティクスには周辺環境の整備が必要になってくるということだろう。たとえば技術的なトピック以外でも、人間がロボットに対するリテラシーを高め事故などを防ぐ必要がある。こうした側面の環境にも、注視していきたい。
参考文献:
※1:Introducing Vulcan: Amazon's first robot with a sense of touch, Alex Davies, Amazon(リンク)
※2:Amazon debuts a warehouse robot with a sense of ‘touch’, Kyle Wiggers, TechCrunch(リンク)
※3:Shadow Robot(リンク)
※4:HaptX(リンク)
※5:Aryballe(リンク)
※6:Aryballe Unveils Digital Nose to Detect Odors in Near Real-Time, Energy Monitor(リンク)
※7:RoboScientific(リンク)
※8:COVID detector can smell the virus with up to 100% accuracy, designboom(リンク)
※9:Koniku(リンク)
※10:Nigerian creates device that can detect explosives and cancer cells, Stephanie Busari,CNN(リンク)
※11:Alpha MOS(リンク)
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