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完全再使用型ロケットを開発するStoke SpaceがシリーズDの資金調達で5億 1,000 万ドルを調達

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Stoke Space Technologiesは、完全再使用型ロケット「Nova」を開発する米国の宇宙輸送企業。ロケット全段の再利用を実現し、高頻度・低コストでの宇宙アクセスを目指している。自社で設計から製造、試験まで一貫して行い、環境負荷を抑えた持続的な宇宙輸送インフラの構築を推進している。

同社は2025年10月、シリーズDで5億1,000万ドルを調達。US Innovative Technology Fund(Thomas Tull主導)がリードし、既存投資家のBreakthrough Energy、Venrock、Liquid 2 Venturesなどが参加。加えて1億ドルのデットファシリティを確保し、総資金は約9億9,000万ドルに達した。資金はNovaの量産体制拡充とケープカナベラル発射拠点整備に充当される予定。

完全再使用型ロケットを開発

宇宙輸送業界では、打上げコストの高さと機体使い捨てによる資源・時間の浪費が依然として大きな課題である。さらに、需要拡大に対して打上げ回数が追いつかず、高頻度・柔軟な運用体制の確立も求められている。環境負荷の低減や持続的な打上げサイクルの構築も、次世代宇宙開発における共通のテーマとなっている。

同社は、機体の全段再使用を前提とした完全再使用型ロケット「Nova」を開発し、整備性と打上げ頻度の大幅な向上を狙う。独自のエンジン設計と熱管理技術により、再使用時のコストと整備時間を最小化。さらに、自社製造と統合試験施設を組み合わせ、迅速な開発・量産体制を確立することで、持続的で経済的な宇宙アクセスを実現しようとしている。

「Nova」の設計思想と再突入技術の実装

同社の「Nova」は、第一段と第二段の両方を完全再使用する世界初の中型ロケットである。従来の使い捨て型や部分再使用型とは異なり、機体全体を再利用する設計思想を採用。第一段は着陸脚を用いた垂直着陸方式を採り、短期間での再整備を前提としている。第二段についても構造・推進系を再設計することで、従来の再突入時の熱・構造破壊リスクを克服し、1機体で多数回の打上げを可能にしている。

最大の特徴は、円環状エンジン(トロイダルスラスタ)と再生冷却構造にある。推進ノズルを機体底部と一体化し、再突入時の熱を機体全体に分散することで、従来は困難だった第二段の再使用を可能とした。燃料循環を利用した冷却機構により、耐熱性能と構造強度を両立させ、再使用時の整備負担とコストを大幅に軽減している。

さらに、同社は自社内に製造・試験・運用を統合した「Integrated Test Facility」を構築。モジュール化設計と一貫開発体制により、従来数週間を要していた再打上げ準備を数日規模に短縮することを目指している。こうした高頻度運用(高カデンシー)の実現により、Novaは航空機に近い再利用サイクルを持つロケットとして、次世代宇宙輸送の新たな基準を打ち立てようとしている。

量産体制を拡充し運用インフラを整備

同社は今回の資金調達により、完全再使用型ロケット「Nova」の量産体制を本格化させるとともに、2026年初頭の初飛行を目標に開発・検証を加速させている。フロリダ州ケープカナベラルのLaunch Complex 14を再整備し、高頻度打上げを支える発射インフラとして稼働させる計画である。自社製造能力とサプライチェーンの最適化を進め、安定的な生産・運用基盤の確立を目指す。

また、国家安全保障衛星や商業コンステレーションなど多様な需要に対応する運用体制を整備し、完全再使用技術を中核とする宇宙輸送サービスの事業化を推進する。CEOのAndy Lapsa氏は、「Novaは宇宙アクセスの在り方を根本から変える」と述べており、単なる打上げ手段ではなく、持続的な宇宙経済を支えるインフラとしての機能拡張を見据えている。

参考文献:
※1:Stoke Raises $510 Million to Scale Manufacturing of Fully reusable Nova Launch vehicle(リンク

※2:同社公式HP(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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