Addis Energy は、地下の鉄鉱石を含む岩盤を反応場として利用し、地熱と地圧を使ってアンモニアを生成する技術を開発するクリーンテック企業である。天然ガスや大型高圧設備を必要とせず、水・窒素・触媒を地中へ注入して反応を起こす方式のため、エネルギー消費と排出を抑えられる。肥料などに不可欠なアンモニアを、低コストかつ低環境負荷で生産できる点が特徴となっている。
同社は2025年12月のシードラウンドで830万ドルを調達し、累計調達額は1,730万ドルとなった。ラウンドは At One Ventures が主導し、既存投資家も参加した。資金は、地下条件を再現する実験リアクターの開発、初のフィールドパイロットの準備、研究・運用体制の拡充に充てられる。独自方式のアンモニア生産を実用段階へ進めるための開発を強化する計画だ。
化石燃料と高温高圧に依存する現行法を、自然条件で置き換える試み
アンモニアは肥料・産業利用に不可欠だが、現在の主流であるハーバー・ボッシュ法は天然ガスを大量に使い、高温・高圧を維持するため多大なエネルギーを必要とする。その結果、コストが高く、CO₂排出量も大きい。また、天然ガスへの依存度が高いため、資源やエネルギー事情に左右されやすく、特に新興国では安定供給が難しい。こうした構造的な非効率と環境負荷の高さが、アンモニア生産の大きな課題となっている。
同社は、地下の鉄鉱石を含む岩盤を反応場として活用し、地熱と地圧を利用してアンモニアを生成する独自方式を提案している。水・窒素・触媒を地中に注入し、自然条件で反応を進めるため、大型高圧設備や化石燃料を必要としない。これにより、エネルギー消費と CO₂ 排出を大幅に抑えつつ、天然ガスに依存しない地域でも生産が可能になる。
地熱と地圧を利用し、地下岩盤を反応場に変えるアンモニア生産技術
同社の技術は、地下に存在する鉄鉱石を含む岩盤そのものを“反応場”として利用し、自然の地熱と地圧を反応源とする点に特徴がある。従来のアンモニア生産が人工的な高温・高圧設備に依存するのにし、同社の方式はエネルギー投入を抑えながら反応を進められる構造を持つ。
具体的には、水・窒素・触媒を地中へ注入し、岩盤内部で反応を誘起する。反応は地下がもつ高温・高圧環境をそのまま利用して進行するため、外部の加熱・加圧設備や化石燃料の消費を大幅に削減できる。この地中反応方式は、CO₂排出や設備コストの低減に直結する特徴がある。
同社はこの地中反応を評価するため、地熱・地圧条件を再現。専用リアクターの開発を進め、触媒挙動や生成効率を検証している。今回の資金調達は、このリアクター開発の拡充とフィールド実証準備を支援し、技術を実用段階へ移行させるための重要なステップとなっている。
地中リアクターの開発強化と実地パイロットへ、実用化段階への移行を加速
同社は今回の調達資金を用いて、地下の地熱・地圧環境を再現する実験リアクターの開発をさらに進める。これにより、地中反応によるアンモニア生成の効率や触媒挙動を精密に検証し、初のフィールドパイロット実証へ向けた準備を加速させる方針だ。実験室レベルから実地レベルへ段階的に移行し、脱炭素型アンモニア生産の実用化を前進させる狙いがある。
また、国内で天然ガスを必要としないアンモニア供給基盤を構築し、安定供給と脱炭素化の両立を図る。CEO のマイケル・アレクサンダー氏は「MIT で生まれた化学技術と現場のエネルギー産業の知見を融合することで、排出ゼロで安価かつ豊富なエネルギーの実現へ道を開く」と述べ、国内エネルギー生産の新たな選択肢を生む意向を示している。
参考文献:
※1:Addis Energy Secures $8.3M to Scale its Transformative Approach to Low-Cost Ammonia Production( リンク)
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