Ziplineは、ドローンを使った自律配送サービスを手がける米国企業で、主に医薬品や血液製剤、ワクチンなどの医療物資を、アクセスが困難な地域へ空輸するサービスを提供している。固定翼ドローンを使い、遠隔地やインフラが未整備の地域へも迅速に届けられるのが特徴で、アフリカ各国で医療アクセス改善に貢献してきた。これにより、従来の地上物流では難しかった「必要なときに必要な医療物資を届ける」体制を確立している。
参考:自律航空配送サービスの米国ベンチャーZiplineがシリーズEで約280億円を調達
同社は2025年11月、U.S. Department of State との契約を受け、アフリカでの医療用ドローン配送ネットワークを拡大するため 1.5億ドルの資金支援を獲得した。これにより、同社がサービスを提供する医療施設の数は現在の約5,000から最大約15,000となり、約1.3億人分の医療アクセス改善を目指す。資金支援は、一定の成果を出した分だけ支払われる“成果報酬型”の仕組みで、実際にネットワークを拡大し、継続的に運用することが支援の条件となっている。
地上物流が届かない医療空白地帯を、ドローン配送で埋める 医療物資を必要とする多くの地域では、道路インフラの未整備や豪雨・地形などの要因で、地上輸送では迅速な配送が難しいという課題がある。また、医療機関への薬剤・血液・ワクチン供給は「必要なときに即届ける」ことが求められるが、既存物流では安定性と継続性が確保しにくい。特にアフリカでは、人口の多くが医療施設から遠隔地に住んでおり、緊急医療体制の構築が長年の課題となってきた。
同社は固定翼ドローンを用いた広域・高速配送ネットワークを構築し、従来の物流が届かない地域へ医療物資を確実に届ける仕組みを提供している。自律飛行と迅速な離着陸システムにより、天候や道路事情に左右されない安定運用が可能となり、緊急輸血やワクチン供給を数十分以内で実現する。また、各国政府や国際機関と連携し、運用拠点を拡大することで、持続的な医療アクセスの改善を図っている。
固定翼母機と降下式ドロイドを組み合わせた、高効率の空中配送方式 同社の配送システムは、飛行距離と速度に優れた“飛行機型ドローン(固定翼UAV)”を母機として運用する点に特徴がある。母機は電動推進によって広域を自律飛行し、道路が未整備の地域や遠隔地にも安定して到達できる。配送拠点から目的地近くまで高速に移動し、地形・天候・インフラの制約を受けない“空の高速レーン”として機能している。
配送の核心となるのが、母機に内蔵された小型配送ドロイドの存在だ。母機は目的地上空に到達すると、着陸せずにドロイドを内部から切り離し、ケーブル降下または投下により荷物を届ける仕組みを採用している。この方式により、平地・山岳・離島など、着陸スペースが確保できない場所でも配送が可能となる。着陸事故のリスクを回避しつつ、必要な物資だけを確実に届けられる点が、同社の運用効率を大きく高めている。
さらに、この空輸プロセス全体は専用ソフトウェアで統合管理されており、発注、飛行経路設定、ドロイド降下、配送完了の確認までを一気通貫で制御する設計だ。ドローンの自律性と地上システムの連携によって、再現性の高いオペレーションと高い安全性が確保されている。
なお、どういうものかは以下の動画を見るとよくわかる。軽量で小型のドローンが飛行する様子がうかがえる。
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医療物資を届ける拠点数を三倍に拡大し、より多くの地域をカバーする計画 同社は現在、約5,000の医療施設へ配送しているネットワークを、今後は最大15,000施設まで広げる計画だ。対象が三倍に増えることで、より多くの人が必要な医療物資を受け取れるようになり、最大で1億3,000万人の生活に影響を与える可能性がある。また、この拡大は、アフリカ各国が追加で支援を行うことで、さらに大きく広がる見込みも示されている。
同社は、ネットワークの大幅拡大に合わせて、運用拠点の増設、ドローンとドロイドの稼働数増加、AI を活用した運航管理の高度化など、物流基盤全体の強化を進める方針である。
Zipline のCEOである Keller Rinaudo Cliffton 氏は、「このネットワーク拡大は、世界で最もアクセスが難しい地域に、必要な医療を確実に届けるための転換点になる」と述べており、同社のミッションである“医療アクセスの民主化”をより実践的な段階へ進める姿勢を示している。
参考文献:※1: Zipline to Triple Its Life-Saving Drone Delivery Network with $150 Million from U.S. State Department, that will be More than Doubled by African Countries( リンク )
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