膨大な化合物から有望候補を効率よく選び出すための計算×実験技術
同社の技術の中心には、AI と物理ベース計算を組み合わせた高精度の in-silico 創薬基盤がある。分子生成や最適化をAIで行い、その候補について結合親和性、立体構造の安定性、ADMET などを物理シミュレーションで予測することで、膨大な仮想化合物を短時間で評価できる。これにより、初期段階から精度の高いスクリーニングが可能になり、実験に進めるべき候補を迅速に絞り込める点が特徴だ。
こうして選ばれた分子は、同社が持つ実験ラボ(wet lab)で合成・試験されるが、ここでもプラットフォームの統合性が活きている。設計から合成、評価、データ取得までの一連の工程を同じワークフロー上で管理できるため、従来のように計算部門と実験部門のデータが分断されることがなく、手戻りや情報ロスを大幅に抑えることができる。小分子だけでなく、ペプチドや複合モダリティにも対応できる柔軟性も備えている。
さらに、同社のプラットフォーム「TandemViz」はクラウド対応、ユーザーは特別なハードウェアを準備せずに高度な創薬計算環境を利用できる。セキュリティやアクセス管理も組み込まれており、複数拠点の研究者や外部パートナーとの共同研究にも適している。こうした拡張性とデータ管理の堅牢性により、企業規模を問わず使用できる創薬基盤として運用されている。
創薬ワークフローの拡張とパートナー連携強化で事業を拡大
同社は今回の資金調達を受け、計算創薬と実験ラボを組み合わせた自社プラットフォームの拡張を進める方針を示している。とくに、より多くのパートナー企業が利用できるように運用規模を広げる。また、複数モダリティ(小分子だけでなく、ペプチドや抗体ペプチド複合体など)に対応した創薬ワークフローの整備を加速させる。これにより、創薬初期の化合物探索から候補選定までのプロセスを、より高精度かつ再現性の高い形で提供する体制を整える狙いがある。
さらに、同社はパートナー企業が使うデータ管理や進捗管理の使い勝手を改善し、プロジェクトの透明性と速度を高める方向性も打ち出している。CEO の Tim Bates 氏は「今回の投資は、TandemAI のプラットフォームが世界中の創薬をより現実的かつ実用的な形で支援できるという信頼の表れだ」とコメントしており、今後は製薬企業やバイオテックとの連携拡大を軸に、さらなる採用拡大を目指す。