Junevity は、細胞の代謝状態自体を“リプログラミング(再設定)” することをめざすバイオテクノロジー企業であり、siRNA(サイレンシング RNA)を使った新たな治療法の開発に取り組んでいる。主力プログラムである「JUN_01」は、2型糖尿病と肥満を対象に、代謝を健康で若々しい状態へと再構築する初の試みとされている。
同社は2025年12月、Goldcrest Capital と Godfrey Capital が主導するラウンドで1,000万ドルの資金を確保し、シードラウンドの総額を2,000万ドルに拡大した。今回の資金は、siRNA ベース治療薬「JUN_01」を IND(臨床試験申請)に向け準備し、2026 年後半に予定される最初の臨床試験まで進めるために使われる。
代謝疾患の原因そのものを変える、細胞リプログラミング
2型糖尿病や肥満といった代謝疾患は、生活習慣や加齢に伴い細胞そのものの代謝プログラムが変化することが根本原因とされる。しかし現在の治療法の多くは血糖値や食欲など“症状”への対処に留まり、細胞レベルで乱れた代謝状態を元に戻すことはできない。また、既存薬は毎日または週単位での投与が必要で、長期的な治療負担も大きい。
同社は、siRNA を用いて細胞内の特定の転写因子を抑制することで、代謝プログラムを「健康な状態に再設定する」治療を提案する。同社はヒト細胞モデルで、単一の標的を調整するだけで代謝機能が若齢時に近い状態へ戻ることを初めて実証しており、このメカニズムを応用した最初のプログラムが 「JUN_01 」である。血糖値、インスリン感受性、体重の改善が確認され、1回投与で半年持続という稀なプロファイルも示されている。
siRNAで遺伝子の働きを調整し、細胞の状態を正しく戻す技術
技術の中心にあるのが、siRNA を用いて細胞内の特定転写因子を抑制し、失われた代謝プログラムを“健康な状態へ戻す”という細胞リプログラミングの概念である。加齢や疾患によって変化した遺伝子発現のパターンを、siRNA という精密な制御手段で再設定するアプローチは従来の治療とは異なる仕組みであり、標的特異性と安全性を両立できる点が評価されている。
同社の RESET プラットフォームは、人間由来の大規模オミクスデータと機械学習を組み合わせ、疾患に関与する重要な転写因子を特定する設計になっている。複雑な遺伝子ネットワークから“治療介入の効果が大きいポイント”を抽出することで、これまで創薬が難しかった領域にも標的候補を見出すことが可能になった。この解析基盤が、細胞リプログラミングを実際の治療へと橋渡しする根幹となっている。
その成果として生まれた「JUN_01」は、2型糖尿病と肥満における代謝異常細胞を健康な状態へリセットすることを目的とした siRNA 治療薬である。前臨床試験では血糖値の改善、インスリン感受性向上、体重減少といった広範な効果が観察され、さらに 半年に一度の投与で長期間作用が続く という珍しい投与プロファイルも示されている。
「JUN_01」の臨床試験開始に向けた体制づくりを加速
同社は、今回の資金調達で、主力候補である siRNA ベース治療薬「JUN_01」の臨床開発を本格化させる。得られた資金は、IND 申請に向けたデータ収集、毒性評価、製剤設計といった前臨床作業の完了、および治験準備に充てられる予定である。
CEO の John Hoekman 氏は、「JUN_01 は siRNA を用いた代謝リプログラミングの最初の候補であり、血糖改善や体重減少といった持続的な効果が期待できる」と述べている。また、顧問の John Bamforth 氏は、「GLP-1 など既存薬と併用できる可能性をもちながら、6 か月に 1 回の投与プロファイルが患者の負担を下げる」と指摘しており、長期的な糖尿病・体重管理の新たな選択肢としての役割も視野に入れている。
参考文献:
※1:Junevity Expands Seed Funding to $20 Million for Cell Reprogramming with siRNA( リンク)
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