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量子コンピューティングのD-Wave Quantum社、スイスのクオンタムテクノロジー社と1,000万ユーロ規模の契約を締結

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D-Wave Quantumは、量子アニーリング技術に基づく実用量子コンピュータを開発する米国企業。クラウドサービス「Leap™」を通じ、最適化・AI解析・シミュレーションなど幅広い産業応用を支援している。最新機「Advantage2」は4,400超の量子ビットを搭載し、高精度かつエネルギー効率に優れた量子計算を実現。研究から商用領域まで、量子技術の社会実装を加速している。

2025年10月、同社はスイスの※Swiss Quantum Technology(SQT)と約1,000万ユーロの契約を締結。次世代アニーリング量子コンピュータ「Advantage2」を欧州に導入し、イタリア主導の量子インフラ構想「Q-Alliance」を支援する。SQTは購入オプションを持ち、クラウドとオンプレミス双方で運用可能な量子計算基盤を構築。欧州における量子産業の発展を促進する。

※Swiss Quantum Technology(SQT)
2016年に設立されたスイスの企業であり、量子技術を応用したデジタルセキュリティ分野に特化している。量子暗号通信や量子鍵配送(QKD)を活用し、安全な通信基盤とデータ転送の実現を目指している。


爆発的に増大する計算課題に挑む、新たな最適化アプローチ

現代の産業・研究領域では、膨大な組み合わせ最適化やスケジューリング、材料設計などの計算課題が従来型コンピュータでは処理困難となりつつある。エネルギー、物流、製造、医療などで最適解探索の計算量が爆発的に増大し、現実的な解を得るまでに膨大な時間とコストがかかることが、社会的・産業的なボトルネックとなっている。

同社は、量子アニーリング技術を活用し、複雑な最適化問題を高速に解く次世代量子コンピュータ「Advantage 2」を開発。4,400 超の量子ビットを備え、クラウド基盤「Leap™」を通じて産業界へ提供している。欧州ではSQTとの連携により、量子インフラ「Q-Alliance」を構築。現実課題の計算効率を飛躍的に高め、持続可能な量子計算社会の実現を目指している。


量子アニーリング技術の理論基盤とシステム構成

同社の中核技術は、量子アニーリングと呼ばれる最適化手法に基づく。問題をエネルギー最小化として定式化し、量子ビットの状態遷移を通じて最小エネルギー構成を探索する。これにより、組合せ最適化など膨大な探索空間をもつ課題を、従来計算より桁違いに効率的に解くことが可能となる。量子揺らぎを制御しながらエネルギー地形を横断する設計が特長である。

最新機「Advantage2」では、4,400超の超伝導量子ビットを高密度に結合し、誤差抑制や結合精度を従来比で大幅に向上。量子チップは極低温環境で動作し、磁束量子を用いて情報を表現する。さらに、古典計算と量子計算を統合したハイブリッド構成を採用し、アルゴリズム制御や初期値設定、結果解析を古典側で補完。これにより、現実的なスケールの最適化問題に対応する実用量子計算を実現している。

同社は量子リソースをクラウド基盤「Leap™」上で提供し、ユーザーはAPI経由で量子計算を実行可能。複雑な問題を直接クラウド上でモデル化し、量子アニーリングと古典的最適化を組み合わせたハイブリッド解法を自動適用できる。物流や製造、材料設計、金融リスク管理などへの応用が進み、数百万変数規模の課題にも対応。専用機不要で量子最適化を利用できる“量子計算の民主化”を実現している。


実用量子計算の商用展開に向けた欧州戦略

欧州における量子インフラ構築を推進する「Q-Alliance」構想の一環として、同社はSwiss Quantum Technology(SQT)と提携し、実用量子計算の商用展開を加速させる方針である。今回の契約は約1,000万ユーロ規模の長期コミットメントであり、量子アニーリング技術の産業実装を前進させる。

同社CEOは「複雑な計算問題を、より速く、より効率的に解く」と述べ、量子アニーリングを通じた実世界課題への適用を強調した。またSQT側も「従来のコンピューティングは性能だけでなく、エネルギー効率の面でも限界に近づいている」と指摘し、量子技術の新たな価値創出を展望している。


参考文献:
※1:Swiss Quantum Technology SA Signs €10M Agreement to Deploy D-Wave Advantage2 Annealing Quantum Computer(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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