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宇宙空間での実験を支援するCatalyx Spaceがシードラウンドで540 万ドルの資金調達を発表

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Catalyx Spaceは、軌道上での物流・製造・回収を統合的に支援する宇宙インフラ企業である。サンフランシスコを拠点に、衛星バス開発からペイロード統合、打上げロジスティクス、軌道運用、再突入および回収までを一貫して提供する。低軌道(LEO)から月周回軌道までを対象に、バイオファーマ、先端製造、半導体、国防など幅広い産業分野で“軌道上サービス”の商用化を推進している。

2025年10月、同社はシリーズシードラウンドで約540万ドルを調達した。リード投資家はOutlander VCで、Arka Venture LabsやTogether Fundなど複数の投資家が参加した。今回の資金は、再突入アーキテクチャの商用化、国際展開の拡大、顧客獲得体制の強化に充てられる予定である。宇宙空間の「アップマス/ダウンマス」物流を確立し、軌道上産業の新たな基盤構築を目指している。

軌道と地上をつなぐ新たな宇宙物流インフラ

現代の宇宙開発・産業利用においては、打上げ後のペイロード運用や再突入・回収のコストが高く、軌道上での実験・製造・輸送を継続的に行うことが困難である。多くのミッションは「上げる」ことに集中し、「戻す」ための仕組みやインフラが欠如している。これにより、宇宙空間でのサンプル回収、材料評価、実証データの取得が限定され、商業的な軌道利用の拡大を阻む要因となっている。

同社は、軌道上の輸送・運用・再突入を統合する「軌道物流(Orbital Logistics)」アーキテクチャを構築し、この課題を解決しようとしている。再利用可能なカプセルを用いた“アップマス/ダウンマス”両対応の設計により、宇宙と地上の間での双方向輸送を実現する。これにより、低軌道から月軌道までのデータ循環と実験回収が可能となり、宇宙産業の商用化・量産化を支える基盤を形成している。


軌道上実験と回収を支える統合型宇宙プラットフォーム

同社の中核技術は、小型宇宙機プラットフォーム「Cosmotron」である。約50kg級の衛星バスに、オンボードコンピュータ(OBC)、電力供給系(EPS)、通信機能、エッジコンピューティングを一体化したモジュラー構造を採用している。これにより、軽量・低コストで柔軟な衛星設計が可能となり、用途に応じたペイロードの迅速な統合・運用を実現している。

次に、再突入および回収用カプセル「REX」シリーズを開発している。これは、打上げ(アップマス)から地上帰還(ダウンマス)までを一貫して行う軌道物流システムである。超音速再突入時の安定制御とパラフォイルによる高精度着地技術を備え、軌道上で得られた試料やデータを安全に地上へ回収することを可能にしている。

さらに、同社は宇宙空間を“実験・生産の場”として活用する「軌道上プラットフォーム」の構築を進めている。複数ペイロードへの対応、AIによるエッジ解析、高速通信(UHF/S/Xバンド)を特徴とし、微小重力環境での材料実験、先端製造、AI演算などを地上との往還を前提に実現する。「宇宙をインフラとして利用する」新しい産業モデルの創出を目指している。

宇宙をインフラに変える実証フェーズの始動

資金調達により、同社は自社技術の実証と商用化を加速させる。CEOのリファス・シャルーク氏は「再突入・回収技術を実証し、軌道上から地上への完全な物流パイプラインを確立する」と述べており、今後数四半期で小型衛星バス「Cosmotron」のデモ飛行と再突入カプセル「REX」の軌道ミッション実証を優先する方針である。

今後は、グローバル展開の拡大と顧客基盤の強化を図る。産業応用領域(バイオファーマ、先端製造、AI演算、国防)向けの「軌道上ラボ」サービスを立ち上げるとともに、地上局ネットワーク整備と商業パートナーとの連携を進める。また、エンジニアリングやミッション設計の採用を拡充し、「宇宙をインフラとして開放する」体制を整備していく考えである。


参考文献:
※1:CATALYX SPACE SECURES $5.4 MILLION SEED ROUND TO BUILD FOR THE NEXT ERA OF ORBITAL LOGISTICS.(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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