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MIT発のGaNスタートアップ Vertical SemiconductorがシリーズAで1,100万ドルの調達を発表

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Vertical SemiconductorはMIT発のパワー半導体スタートアップ。AIチップやデータセンター向けに、電力効率を飛躍的に高める垂直構造GaNトランジスタを開発している。従来のシリコン技術を凌駕する高電圧・高電流対応を実現し、電源変換損失や冷却負荷を削減。米サンタクララを拠点に、AI時代の電力インフラ再構築を目指している。

2025年10月、同社はシリーズAで1,100万ドルを調達。リード投資家はPrime Impact FundとClean Energy Venturesで、MIT関連VCも参加。調達資金は垂直GaNデバイスの量産試作、AIサーバ向けパワーモジュール開発、製造ライン拡充などに活用予定。2026年の商用化を見据え、AI電源効率の革新を進めている。 


AI電力需要の急増で浮き彫りになるパワー半導体の限界

AIやデータセンターの電力需要が爆発的に増加するなか、高電圧対応・低損失化・熱安定性の確保がパワー半導体業界の構造的課題となっている。従来のシリコン素子は発熱と効率の限界に直面し、変換損失や冷却負荷が大きなコスト要因に。エネルギー効率と信頼性を両立する新素材・新構造の登場が急務となっている。

同社は、垂直構造GaNトランジスタによって電力変換の根本課題を解決。電流を垂直方向に流す設計で高電流密度と低損失を実現し、熱効率を大幅に向上。既存CMOS製造プロセスとの互換性を持つため量産性にも優れる。AIサーバやデータセンターの電源効率を最適化し、次世代インフラを支える基盤技術としての地位を確立しつつある。


垂直GaNトランジスタで電力供給を再定義する

同社はMIT発のパワー半導体企業で、AIチップやデータセンター向けに垂直構造型GaNトランジスタを開発。電流をチップ垂直方向に流す構造により、電力密度を高めつつ損失と発熱を抑制する。これにより従来比で最大30%の効率向上と50%の電源フットプリント削減を実現し、AIサーバや高性能演算システムにおける電力供給の最適化を目指している。

同社の技術は、ワイドバンドギャップ材料であるガリウムナイトライド(GaN)をベースに、MIT Palacios研究室の10年に及ぶ研究成果を実装。100Vから1.2kVまでの広い電圧領域で高効率動作が可能で、シリコンを凌駕するスイッチング速度と熱耐性を備える。高電流密度化と低オン抵抗を両立する垂直構造により、AI・HPC用途の電源変換に新たな性能基準を提示している。

製造面では8インチウェーハ対応とCMOSプロセス互換を確立し、既存の半導体製造インフラを活用可能。これにより量産性とコスト競争力を確保しつつ、AIデータセンター、クラウドサーバ、エッジ処理装置向けの展開を想定している。高性能・省電力・高信頼を兼ね備えた同社の垂直GaN技術は、次世代電力アーキテクチャの中核を担うと期待されている。

創設者: Josh Perozek 博士、Cynthia Liao、Tomás Palacios 教授

垂直GaN技術の実用化と量産体制を見据えた成長戦略

今後は、2025年末までに初のパッケージ型プロトタイプを顧客サンプリング用として提供し、2026年には完全統合型電力変換ソリューションの商用展開を目指している。AI/データセンター市場向けに“研究試作”から“実用展開”へと技術を移行させ、電源変換効率の改善および運用コストの削減を実現する体制を構築する。

製造面では、8インチウェーハ/既存CMOSプロセスとの互換性を活かし、垂直GaNトランジスタの量産態勢を整備する。また、データセンター事業者やサーバーメーカー、電源システムベンダーとの協業を通じて、スケール展開と信頼性検証を加速し、次世代電力インフラとしての普及を図る。


参考文献:
※1:Vertical Semiconductor Raises $11 Million to Deliver the Next Wave of Power for AI Chips and Data Centers(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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