創薬AIを開発するIsomorphic LabsがシリーズBで21億ドルを調達
Isomorphic Labsは、Google DeepMindから派生したAI創薬企業で、CEOはDemis Hassabis氏。独自のAI drug design engine「IsoDDE」を中核に、複数の治療領域・創薬モダリティに対応する基盤AIモデルを開発している。構造予測と実際の創薬プロセスの間にあるギャップを埋め、提携プログラムと自社パイプラインの双方で新薬候補の設計を進める。
2026年5月、同社はSeries Bで21億ドルを調達したと発表した。ラウンドはThrive Capitalが主導し、既存投資家のAlphabet、GVに加え、MGX、Temasek、CapitalG、UK Sovereign AI Fundが参加した。調達資金はIsoDDEの開発・展開、治療プログラムの臨床移行、AI・創薬・臨床人材の採用、グローバル展開に充てられる。
研究基盤から創薬エンジンへ広がるAIの役割
Isomorphic Labsの21億ドル調達が示すのは、AI創薬が研究段階のモデル開発競争から、実際の創薬プロセスに組み込まれる段階へ移行しつつあるという点である。同社は今回の資金を、AI drug design engine「IsoDDE」の開発・展開、治療プログラムの臨床移行、グローバル人材採用に充てるとしており、「新規AIモデルの開拓」から「それらをスケールして適用する段階」への進化を打ち出している。
この動きは、弊社が以前取り上げたOpenAI Foundationのライフサイエンス戦略とも重なる。同記事では、AI企業が個別アプリの開発ではなく、公開データ、研究支援、疾病領域の加速といった研究基盤の整備に踏み込んでいる点を整理した。これに対しIsomorphic Labsは、AIを創薬の実行プロセスに組み込み、候補品創出までを反復可能な仕組みにしようとしている。両者に共通するのは、競争軸がモデル単体の性能から、データ、研究環境、設計・検証プロセスを含む基盤構築へ移っている点である。
特に重要なのは、同社が構造予測そのものではなく、構造予測と現実の創薬の間にあるギャップを埋めようとしている点である。タンパク質構造を予測できることと、薬として成立する分子を設計し、実験・開発プロセスで前進させることは同義ではない。IsoDDEはこの断絶を埋める創薬エンジンとして位置づけられており、AI創薬の焦点が「予測」から「設計・検証の反復」へ移っていることを示している。
Novartis、Lilly、Johnson & Johnsonとの提携も、この方向性を裏付ける。大手製薬企業にとってAI創薬は、もはや周辺的な研究補助ツールではなく、外部R&D基盤として取り込む対象になりつつある。今回の大型調達は、AI創薬の成功がすでに臨床で実証されたことを意味するわけではない。むしろ、研究基盤の整備から創薬実行基盤のスケールへと、ライフサイエンス×AIの実装領域が拡張していることを示す事例といえる。
構造予測と創薬実行をつなぐIsoDDE
同社の中核技術は、AI drug design engine「IsoDDE」である。公式発表では、IsoDDEは複数の独自AIモデルから構成される統合型の創薬エンジンとして位置づけられ、複数の治療領域や創薬モダリティにまたがって機能する点が強調されている。
技術的に重要なのは、IsoDDEが構造予測と現実の創薬の間にあるギャップを埋めるものとして説明されている点である。タンパク質構造を高精度に予測できても、それだけで薬として成立する候補分子が生まれるわけではない。実際の創薬では、候補品を設計し、検証し、開発可能性を高めていく反復プロセスが必要となる。
同社はIsoDDEについて、未知の生物学的システムを高い予測精度で扱うためのスケーラブルな基盤であると説明している。Max Jaderberg氏は、同エンジンが内部プログラムで重要なマイルストーン達成や有望候補の特定に貢献していると述べている。つまりIsoDDEの狙いは、AIを個別工程の補助ツールではなく、創薬プロセス全体を前進させる設計エンジンとして組み込む点にある。
臨床入りする候補品を示せるか
今後は、IsoDDEが実際に臨床開発へ進む候補品をどこまで生み出せるかが焦点となる。CEOのDemis Hassabis氏は、同社のAI創薬アプローチに一定の手応えを示し、技術をより大きな規模で創薬プログラムに適用していく段階に入ると説明している。一方で、具体的な候補品名や臨床試験入りの時期はまだ明らかにされておらず、短期的にはパイプラインの可視化が評価軸となる。
PresidentのMax Jaderberg氏は、IsoDDEが内部プログラムで重要なマイルストーン達成や有望候補の特定に貢献し、新薬設計を反復可能にする手段になっていると述べている。今後はその再現性が、Novartis、Lilly、Johnson & Johnsonとの協業でも示されるかが問われる。
さらに、同社がAI創薬基盤の提供にとどまるのか、自社パイプラインを通じて創薬企業としての価値をより大きく取り込むのかも注目点となる。今後は技術力だけでなく、パイプライン戦略と製薬企業との役割分担が、同社の評価を左右する局面に入る。
参考文献:
※1:Isomorphic Labs secures $2.1 Billion funding to scale its AI drug design engine( リンク)
※2:同社HP( リンク)
【世界の創薬AIの動向調査やコンサルティングに興味がある方】
世界の創薬AIの業界動向調査、技術調査、新規事業機会の探索、参入戦略立案、パートナー探索などに興味がある方はこちら。
先端技術調査・コンサルティングサービスの詳細はこちら
CONTACT
お問い合わせ・ご相談はこちら