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波力発電を活用した海上AI基盤を開発するPanthalassaが1.4億ドルを調達、ピーターティールが主導

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Panthalassaは、波力発電を活用した海上AIコンピューティング基盤を開発する米国スタートアップ。同社の「Ocean-3」は、海洋波から発電し、その電力をノード上のAIチップに直接供給する自律型プラットフォームである。AI推論を海上で実行し、結果を衛星通信で陸上に送信することで、電力・冷却・土地・送電網接続に制約されない分散型AIインフラの構築を目指す。

同社はシリーズBラウンドで1億4,000万ドルを調達した。ラウンドはPeter Thiel氏が主導し、John Doerr氏、TIME Ventures、SciFi Ventures、Hanwha Group、Fortescue Ventures、Super Micro Computer、Sozo Venturesなどが参加した。調達資金は、オレゴン州ポートランド近郊のパイロット製造施設の完成と、2026年に予定される北太平洋でのOcean-3パイロット展開に充てられる。

電力制約がAIインフラの主戦場に、Panthalassaが狙う「海上推論基盤」

AIデータセンターの拡大では、GPU不足以上に、電力・冷却・土地・送電網接続といった物理インフラが制約になりつつある。IEAによれば、データセンターの電力需要は2025年に前年比17%増加し、AI特化型データセンターはそれを上回るペースで伸びた。AIタスクあたりの消費電力は効率化している一方、AIエージェントなど利用量そのものが拡大しており、総需要はなお増加している。

特に課題となるのが、電力を「どこで、いつ、どれだけ確保できるか」である。Goldman Sachsは、世界のデータセンター電力需要が2023年比で2030年までに最大165%増加すると予測している。さらに、データセンター供給は逼迫し、稼働率は2023年の約85%から2026年後半には95%超まで上昇する可能性があるとしている。

この状況では、データセンター建設は不動産開発ではなく、電力調達競争になりつつある。大規模AIクラスターでは、用地があっても送電網接続や冷却設計が追いつかなければ稼働できない。AIインフラの競争軸は、チップ確保から電力・冷却の確保へ広がっている。

同社のOcean-3は、この制約に対する別解として位置づけられる。波力で発電し、その電力を海上ノード上のAIチップに直接供給し、推論結果だけを衛星通信で陸上に返すことで、陸上の送電網・土地・冷却制約を回避しようとしている。もちろん、衛星通信の遅延や海洋環境での保守性という課題は残るが、バッチ型推論や非同期処理には適合し得る。

つまり同社は、既存データセンターの代替ではなく、電力源に計算資源を近づける新しいAI推論インフラを狙っている。

発電装置ではなく、外洋で稼働する分散型AIインフラへ

同社の技術的な特徴は、波力発電装置、浮体構造、自律制御、海上運用システムを一体化している点にある。同社のノードは、外洋の波によって生じる上下動を内部の流体運動に変換し、タービンと発電機を通じて電力を得る仕組みを採る。

単に発電装置を海に浮かべるのではなく、遠洋で長期間稼働することを前提に、推進、姿勢制御、艦隊運用、保守性まで含めて設計されている点が重要である。外洋は波エネルギー密度が高い一方、塩害、腐食、生物付着、嵐、通信途絶など、装置にとって過酷な環境でもある。

そのためPanthalassaは、発電効率だけでなく、構造耐久性、自律判断、遠隔監視、故障時の冗長性を含むシステム設計を重視している。同社はこれまでOcean-1、Ocean-2、Wavehopperなどの実証機を通じて、波力変換、海上移動、制御技術を段階的に検証してきた。Ocean-3は、これらの基盤技術をAI処理用途へ統合する次世代ノードと位置づけられる。

実証機開発から量産・複数機展開へ軸足を移す

同社は今回の調達を受け、オレゴン州ポートランド近郊のパイロット製造施設を完成させ、Ocean-3シリーズの展開を加速する方針である。2026年には北太平洋でOcean-3のパイロットノードを展開し、海上でのAI推論能力と製造プロセスを検証したうえで、2027年の商用展開を目指す。

CEOのGarth Sheldon-Coulson氏は、地球上で数十TW規模の新規供給余地を持つエネルギー源として「太陽光、原子力、外洋」を挙げ、同社はエネルギー密度の高い波浪海域で稼働する技術基盤を構築してきたと説明している。同氏は、今後は工場を建設し、複数の海上ノードを展開する段階に入ると述べており、同社が実証機開発から量産・複数機展開へ軸足を移す姿勢を示している。

同社が狙うのは、陸上データセンターや発電所を追加建設することなく、AI計算能力と電力供給を同時に拡張するモデルである。Peter Thiel氏は「Panthalassaは海洋というフロンティアを切り開いた」と述べており、今後は波力発電企業にとどまらず、外洋型AIインフラ企業として商用化を実証できるかが焦点になる。


参考文献:

※1:Panthalassa Raises $140 Million to Power AI at Sea( リンク

※2:Data centre electricity use surged in 2025, even with tightening bottlenecks driving a scramble for solutions( リンク

※3:AI to drive 165% increase in data center power demand by 2030( リンク

※4:同社HP( リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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