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ゲノム編集のPrime Medicineが36億円を調達。嚢胞性線維症治療を目的に関連財団が資金を拠出

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米国のゲノム編集技術を有するPrime Medicineは2025年7月16日、最大$24m(約36億円)の調達を発表した。同社はNasdaq上場企業であり、今回の資金調達は嚢胞性線維症(CF)関連の肺疾患に関するゲノム編集を目的としたものだ。

Prime Medicineは、David R. Liu氏が2019年に『Nature』で発表したプライム編集技術のために設立。Liu氏は、ハーバード大学教授などを務め、同社の共同創業者となっている。本社は、ハーバード大学と同じマサチューセッツ州に置く。

二本鎖を切断しない「プライム編集」とは

ゲノム編集は通常、DNAの二本鎖を切断し、その修復過程で編集を行う。しかし、プライム編集は二本鎖の切断をせず、編集を行うものだ。

Prime Medicineは、プライム編集を「DNAワードプロセッサ(ワープロ)」のようなものだと説明。パソコンのワープロソフトに書いた文章を修正したいとき、文字数が膨大であれば直したい文字列を検索し、該当箇所を見つけて修正するであろう。これとほぼ同じことを、遺伝子編集で行うのがプライム編集となる。

より具体的にいうと、プライム編集は編集したいDNAを見つけると、二本鎖のうち1本を切断する。設計図となるRNAや逆転写酵素の存在から、修復後には書き換えたい形になるというプロセスだ。

こうした編集の流れから、二本鎖の切断で生じることのある意図しない修復が抑制できるという。また、Prime Medicineは多様な治療への応用が可能だとしている。

同社の医薬品パイプラインを見ると、銅が体内に蓄積してしまう疾患であるウィルソン病の医薬品が、米食品医薬品局(FDA)のIND申請で有効化となっている。INDの有効化は臨床試験が許されることを意味するが、臨床試験の実施を示す「フェーズ1 / 2」のところまでは進んでいなことも、同社はパイプラインで示している。

他、今回の資金調達の目的となる、CFなどの医薬品開発が進められているようだ。

企業としてのPrime Medicineを見ると、資金調達後の2025年8月7日に第2四半期決算を発表。同四半期単独の純損失が$52.6m(約78億円)に上り、また同年5月には人員削減を実施するなど、財務的には芳しくない状態にあるようだ。もっとも、年初と比較すると株価は上昇しており、投資家からは一定の期待を集めていることがうかがえる。

CF財団は継続的に資金を拠出

冒頭で触れた通り、今回の資金はCF関連の肺疾患の治療法開発を目的としたもの。資金を拠出したのも米国の嚢胞性線維症財団(CF財団)で、以前からの資金提供の追加となる。

Prime MedicineのAllan Reine CEOは、次のようにコメントした。

「CF財団は長年にわたりイノベーションの推進に尽力し、CFとともに生きる人々の治療環境を大きく変革してきた。

今回の追加資金は、この深刻な遺伝性疾患を抱える人々、特に現在の標準治療が効果を発揮しない、あるいは忍容性が低い人々にとって、プライム編集療法が変革をもたらすとの私たちの信念を反映している。

また、この資金提供は、当社の事業開発に対する戦略的アプローチ、外部リソースを活用してのイノベーションの加速、当社の技術を幅広く応用するというコミットメントを体現するものだ」




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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