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Helex、腎臓疾患の非ウイルス性遺伝子治療の開発に向けてシードラウンドで350万ドルを調達

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Helex(英・ロンドン)は、King’s College London出身の研究者らが設立したバイオテック企業で、腎疾患を中心とする遺伝性疾患に対し、非ウイルス型遺伝子治療を開発している。独自のEpic-Cure™設計プラットフォームとLNP技術を用い、腎臓細胞を精密に標的化する治療薬創出を目指す。

2025年11月、同社は非ウイルス型遺伝子治療の開発加速を目的に、350万ドルのシード資金を調達した。これにより総調達額は600万ドル超となり、前臨床試験(IND-enabling studies)の推進やパイプライン拡充、AI設計基盤の強化などに資金を充当する計画である。


腎臓遺伝子治療の未踏領域に挑む非ウイルス型アプローチ

遺伝子治療は従来、ウイルスベクターを利用する方法が主流だが、免疫反応や高コスト、生産スケーラビリティ、標的臓器への精密送達といった課題を抱えている。特に腎臓は構造的に薬剤送達が難しく、既存の遺伝子治療では治療効果を十分に発揮できない領域とされてきた。同社はこの“腎臓特異的デリバリー”のボトルネックを解消することに挑んでいる。

同社は、独自の腎臓特異的リピッドナノパーティクル(LNP)技術とAI駆動のEpic-Cure™プラットフォームを組み合わせ、非ウイルス型の安全・精密な遺伝子送達を実現している。新規イオン化リピッド設計により腎臓細胞への選択的到達を可能にし、AI解析で最適な治療分子を迅速に設計。これにより、腎疾患に対する低侵襲かつスケーラブルな遺伝子治療の実用化を目指している。


AIとナノ送達技術の融合

同社は、腎臓を標的とした非ウイルス型遺伝子治療の実現に向け、独自のLNP送達技術とAI駆動の創薬プラットフォームを統合した開発体制を構築している。新規イオン化リピッド構造と生物学的デザイン原理に基づく最適化により、粒子径や電荷、PEG化の条件を精密に制御。糸球体濾過を回避しつつ、腎臓の特定細胞への選択的取り込みを可能にしている。これにより、従来のウイルスベクターでは実現が困難だった腎臓組織への遺伝子送達を、安全かつ再現性の高い形で達成している。

同社が開発するEpic-Cure™プラットフォームは、3Dゲノム構造やエピジェネティクス情報をAIで解析し、疾患や細胞種ごとに最適な治療モダリティを自動設計するものだ。ガイドRNAやmRNA配列の設計、安全性評価、オフターゲット検証を一体的に行うことで、開発期間を大幅に短縮し、治療候補分子の精度と安全性を両立させている。

さらに同社はウイルスベクターを用いない製造基盤を確立し、免疫反応リスクやスケーラビリティの制約を回避。AI設計とLNP製剤技術の融合によって、低コストかつ再現性の高い非ウイルス創薬サイクルを実現している。これらの技術は、腎疾患をはじめとする多様な遺伝性疾患への応用を視野に、臨床開発および商業生産の両面で拡張可能なプラットフォームとして進化を続けている。

非ウイルス遺伝子治療開発を加速

同社は、350万ドルのシード資金を基に、主力プログラムである常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)に対する非ウイルス型遺伝子治療の前臨床開発を加速する。CEOのPoulami Chaudhuri博士は「これは新しい治療以上のもの、希望そのものです。腎臓に直接遺伝子薬を届け、すべての患者がアクセスできる治療を実現したい」と述べ、臨床試験開始に向けた安全性・有効性データの確立を急いでいる。

今後はEpic-Cure™プラットフォームと腎臓特異的LNP技術を活かし、ADPKDを起点に他の遺伝性腎疾患へ適応を拡大する計画だ。投資家であるpi VenturesのRoopan Aulakh氏は「Helexの技術は腎疾患に対する根治的治療になり得る」と評価し、SOSVのStephen Chambers氏も「AIとLNPの融合で腎疾患治療の未来を形づくる企業」と述べており、開発体制の拡張と臨床展開への期待が高まっている。


参考文献:
※1:Helex Raises $3.5 Million in Seed Round to Advance Non-Viral Gene Therapies for Kidney Diseases(リンク

※2:同社HP(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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