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ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)を開発するSynchron はシリーズ D で2億ドルの調達を発表

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Synchron(米・ニューヨーク)は、血管内カテーテルを用いて脳表面に電極を配置する世界初の「Stentrode™」を開発するブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)企業。開頭手術を不要とする低侵襲アプローチにより、麻痺患者が思考でデジタル機器を操作できる技術を実現している。現在は臨床試験を通じて実用化を進め、Apple製品との連携など神経信号による操作拡張にも取り組む。

2025年11月、同社はシリーズDで2億ドルを調達し、累計調達額は約3億4,500万ドルに達した。主導したのはDouble Point Venturesで、ARCH VenturesやBezos Expeditions、Khosla Venturesなどが継続参画。新規出資にはNational Reconstruction FundやQatar Investment Authorityなどが加わった。資金はStentrode™の商業化と次世代高チャネルBCIの開発に充当される。

BCI実用化を阻む高侵襲性と信号安定性の壁

ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)分野では、開頭手術の高リスクや長期安定性、脳組織への侵襲性が実用化の大きな障壁となっている。また、デバイスと臨床データの標準化、AIによる信号解読精度、倫理・規制対応なども課題として残る。特に麻痺患者など重度障がい者への安全かつ持続的な利用環境の確立が求められている。

同社は、血管内経由で電極を配置する独自技術「Stentrode™」により、開頭手術を不要とする低侵襲型BCIを実現。既存の血管構造を活用することで、手術リスクを抑えつつ長期的な信号取得を可能にした。また、AIによる神経信号の解析とワイヤレス通信技術を組み合わせ、患者が思考でデジタル機器を操作できる環境を構築。安全性と実用性を両立させた。

開頭不要のBCI「Stentrode™」の構造と仕組み

同社のBCIは、血管内に配置される電極アレイ「Stentrode™」、信号送受信装置「IRT」、信号処理ユニット「SPU」の三要素で構成されるシステムである。Stentrode™が運動皮質近傍の血管内で神経信号を検知し、IRTを介してSPUに伝送、解析後にスマートフォンやタブレットへ無線出力する構造である。

本技術は、開頭を伴わず血管経路から脳活動を読み取る低侵襲型BCIであり、既存の医療手技で埋込みが可能である点が特長である。装置は体内で完結し、日常生活動作—メッセージ送信や予定管理—を思考操作で実行できる。生体親和性を重視した設計により長期安定性を実現している。

同社は、Stentrode™によるデジタル環境制御を通じ、四肢麻痺患者の自立支援を目指している。現行モデルに加え、高チャネル化・広域信号取得を志向した次世代型BCIの研究を進めており、将来的には健常者の拡張操作や認知支援への応用が期待される技術である。

商業化と次世代BCIへの道筋

同社は、今回の資金調達を基盤に、Stentrode™の商業化を加速させる方針である。CEOトム・オクスリー氏は「私たちは日常生活で利用可能な初の非外科型BCIを市場に届ける段階へ進んだ」と述べており、ニューヨークのCognitive AI部門とサンディエゴのエンジニアリング拠点を中心に、AI信号解析と製品設計の両面で体制強化を進めている。

さらに次世代「トランスカテーテル高チャネル全脳インターフェース」の開発を推進し、より広範囲な脳領域からの信号取得と精密なデコードを実現する計画である。医療現場から在宅環境までを結ぶスケーラブルな神経インターフェース基盤の構築を目指し、人と機械の融合による新たな生活支援モデルの創出に挑んでいる。


参考文献:
※1:Synchron Raises $200 Million Series D to Advance Brain-Computer Interface Technology(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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