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立命館大学発スタートアップ Patentix、シリーズ A で総額約 7 億 1,900 万円 の資金調達を実施

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Patentix株式会社は、立命館大学発のスタートアップで、次世代パワーデバイスに必要とされる**超ワイドバンドギャップ(UWBG)半導体「二酸化ゲルマニウム(GeO₂)」**の研究開発・製造販売を行う。GeO₂はp型・n型の両立が可能で、コスト競争力や高効率性からSiC・GaNに次ぐ新材料として注目されており、EV・電力・宇宙分野などへの応用を目指している。

同社は10月シリーズAラウンドで総額約7億1,900万円を調達し、累計調達額は約10億5,900万円となった。出資者にはデンソー、三菱電機、アイシンなど主要製造業を含む14社・機関が参加。調達資金は研究開発加速・製造体制強化・人材採用・市場展開に充当される。GeO₂半導体の実用化フェーズ移行を目的とする。

電力効率・環境負荷・コストの三重課題に直面するパワー半導体業界

EVやAIデータセンターの急増により世界的に電力消費量が増大し、同時にCO₂削減や省エネ化の要求が高まっている。従来のSi半導体では高電圧・高温環境での性能に限界があり、より高効率な電力変換を実現する新材料の開発が求められていた。このようにエネルギー効率と環境対応の両面で、半導体産業全体が持続可能な技術革新を迫られている。

一方で、次世代材料として注目されてきたSiCやGaNは、高性能でありながらp型・n型の両立が難しく、また製造コストも高いという課題を抱えていた。そのため、性能・安定性・コストのバランスを取れる代替素材の開発が業界の焦点となっており、GeO₂(酸化ゲルマニウム)はこれらの課題を克服し得る新たな選択肢として期待されている。

高効率・高耐圧を実現するGeO₂パワー半導体技術

GeO₂(酸化ゲルマニウム)は、バンドギャップが約4.7eVと極めて広く、SiCやGaNを超える超ワイドバンドギャップ(UWBG)半導体として注目されている。高耐圧・高温環境でも安定して動作できるため、電力変換時の損失を大幅に低減できるのが特徴である。これにより、EVや再生可能エネルギー装置、産業機器などで求められる高効率・高信頼性の電力制御を可能にする基盤材料として期待されている。

同社は、GeO₂の高品質単結晶成長技術と、これまで困難とされてきたn型ドーピングの安定化に成功している。さらに、ショットキーバリアダイオード(SBD)で動作実証を行うなど、デバイスレベルでの応用可能性を明確に示した点が大きな成果である。これにより、GeO₂が実際のパワーデバイスに適用可能な材料であることを世界的に示す重要な技術的ブレークスルーを達成している。

また、GeO₂は他のUWBG材料に比べて加工性が高く、既存製造プロセスとの親和性が高い点も特筆される。高い絶縁破壊電界強度と電子移動度を併せ持つことで、より小型で高出力なデバイス設計を可能にし、エネルギー効率と信頼性を両立できる。これらの特性により、GeO₂は次世代パワー半導体市場における新たな中核材料としての地位を確立しつつある。

GeO₂パワー半導体を社会実装へ

同社は今回の資金調達を通じて、「研究開発の加速・製造体制の強化・人材採用の推進・市場展開の拡大」を重点施策として進める方針を示している。代表取締役社長の衣斐豊祐氏は、「開発スピードと事業展開をトップギアに入れ、GeO₂パワー半導体の実用化を一気に進めます」と述べ、研究段階から社会実装フェーズへの本格移行を宣言している。

また、各投資家からも今後の展開に強い期待が寄せられている。Abies Venturesは「Patentix社が世界をリードしていることから、世界市場で戦える日本発ディープテックの創出を支援する」とコメントし、デンソーは「GeO₂を用いたパワー半導体への注目が高まる中、その社会実装と発展に大いに期待している」と述べている。こうした産学連携と産業界の支援を背景に、PatentixはGeO₂を核とした新しい半導体産業基盤の形成を目指している


参考文献:
※1:立命館大学発スタートアップ Patentix、シリーズ A で総額約 7 億 1,900 万円 の資金調達を実施 (リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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