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NVIDIA「GTC」キーノートにHuang氏が登壇。同社の最新動向、将来の戦略とは

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2025年3月、米カリフォルニア州サンノゼで開催されたNVIDIAのカンファレンス「GTC」に、同社創業者兼CEOのJensen Huang氏が登壇し、同社の最新の取り組みや将来ビジョンについて語った。

本稿では、同氏の講演内容を紐解きながら、NVIDIAの技術動向や将来戦略を紹介する。

最新GPU Blackwellが業績拡大をけん引

NVIDIAは2025年2月に第4四半期と2025年の業績を発表している。

第4四半期の売上は、$39.331b(約5兆9000億円。前年同期比78%増)、そして2025年通期の売上高は$130.497億ドル(約19兆5000億円。前年比114%増)と四半期および通年通しで大幅な伸びを記録した。

NVIDIAの売上高・営業利益率の推移 

NVIDIA発表資料より編集部制作

四半期ベースの売上構成では、その大半の約9割($35.6b)を占めるのがデータセンターであり、残りの約1割をゲーム・AI PC(約$2.5b)、プロフェッショナルビジュアライゼーション($511m)、自動車・ロボティクス($570m)でシェアしている。

今回の業績アップに大きく貢献したのが最新のGPU「Blackwell」だ。2024年3月にHopperの後継として発表されたBlackwellは、1つのパッケージに10テラバイト/秒の高速インタフェース(NV-HBI)で相互接続された2つのダイが実装され、2080億個のトランジスタを搭載する。FP4(4bit浮動小数点演算)では20PFLOPS(1秒間に2京回)の演算処理を誇りLLM推論処理能力を大幅に向上させた。

Blackwell(NVIDIAメディアアセットより)

NVIDIAは、Blackwellの大規模生産の増強に成功し、ゲーミングやビジュアライゼーションの分野で活用できたことが売上高の大幅アップに至った理由と説明する。

AI開発環境の拡充でGPUトップシェアを盤石化する

NVIDIAはGPU市場において圧倒的なシェアを誇り、ライバルのAMDを大きく引き離している。このようなNVIDIA一強の要因は、GPUの性能上の優位性だけではない。

最も大きな要因といえるのが、GPUを活用したシステム開発環境を提供するコンピューティングプラットフォーム「CUDA」の存在である。CUDAにはディープラーニングや画像生成などの処理を高速化するツールなどが含まれており、特にCUDA上に構築されたライブラリ「CUDA-X」では6G技術、量子コンピューティング、ロボティクスなどの用途開発に適したツールを提供する。

NVIDIAユーザは、CUDAに含まれる豊富な開発ツールを使いさまざまなAIアプリケーションの開発が可能だ。当然ながら、このようなアプリケーションはCUDAを前提として開発されているので、GPUを他社品に置き換えてしまうとCUDAが利用できなくなるため、設計変更を強いられる可能性がある。そうなると、他社への乗り換えには大きなハードルが生じる。

NVIDIAは魅力的な開発環境を提供することでユーザの囲い込みを見事に成功させており、今後もGPUの開発と合わせてAI開発環境を拡充させ、ユーザを逃がさない戦略をとってくるであろう。

GTCで発表された最新動向

GTCではHuang氏からキーノートにて、いくつかの新しい発表が行われた。特筆すべき4点を、取り上げる。

Jensen Huang氏のキーノート

自動運転車構築に向けたGMとのパートナーシップ

Huang氏は、General Motors(GM)とのパートナーシップ締結を発表。自動運転車両(AV)の製造、車載インフラ、安全性の3分野にNVIDIAのAI技術が導入される。

GMの工場(NVIDIAメディアアセットより)

この発表で特に強調されていたのが安全性に対する技術導入である。同社のAV向け安全システム「Halos」がそれであり、チップ、システム、システムソフトウェア、アルゴリズムなどすべてにわたるコードについて第三者機関の安全認証が取られているという。AVについては度々安全性が指摘されていることから今回のプレゼンにおいて強調されたものと思われる。余談だが、Huang氏はHalosを「社内での呼び名」と説明しており、コードネームであると考えられることから、今後、名称が変わるかもしれない。

また同氏は、データ取得、トレーニング、冗長性の課題を解決する手法として、デジタルツイン向け開発プラットフォーム「Omniverse」とフィジカルAI向けの基盤モデル「Cosmos」を組み合わせることで、AI開発を加速させる点についても言及した。

AIファクトリー向けオペレーティングシステム「Dynamo」の発表

AIファクトリーとは、従来のデータセンターをアクセラレーテッドコンピューティング(並列処理によりタスク実施を高速化)に移行させた次世代のデータセンターである。

将来的にデータセンター(AIファクトリー)は電力の制限を受け、それに伴い収益面での頭打ちが想定される。このため、エネルギー効率の高いコンピューティングを導入することが求められるが、今回発表があった「Dynamo」がその役割を担う。

Dynamoは、トークン収益を最大化するために設計されたAI推論ソフトウェアであり、多数のGPU間の推論処理を調整・高速化して、大規模言語モデルによる処理フェーズと生成フェーズを異なるGPUに分散させる処理の実施を特徴とする。

DynamoをBlackwellの推論処理に適用することで、前モデルHopperの約40倍のパフォーマンスを発揮する。

Blackwellの後継GPU「Vera Rubin」の発表

現在、主力GPUであるBlackwellは2025年後半にBlackwell Ultra(演算性能が1.5倍、帯域幅が2倍に拡張)へのアップデートが予定されているが、さらにその先、2026年後半には後継となる「Vera Rubin」をリリースする。

Vera Rubinは、FP4において50PFLOPS(Blackwellの約2.5倍)の演算処理能力を有し、次世代メモリHBM4を搭載する。

また、Vera Rubinと併用されるCPUとNVLinkも一新。CPU「Vera」は、現行の2倍の処理能力をもつ。NVLinkは、144個のGPUを接続する「NVLink144」へとアップデート。そしてGPUアーキテクチャーは、これらを1セットとした「Vera Rubin NVL144」として展開する。

さらに、2027年後半にはアップデート版となるNVLink576(576個のGPUが接続)を搭載した「Vera Rubin Ultra」をリリースすることも発表した。

シリコンフォトニクスを採用したCPOを発表

同社初の試みとして、サーバ上のネットワークスイッチにシリコンフォトニクスを統合したCPO(Co-Packaged Optics)スイッチを採用する。マイクロリング共振器変調器の技術に基づく世界初の1.6テラバイト/秒のCPOであり、TSMCのプロセス技術で構築するものだ。

CPOアーキテクチャには、Infinibandスイッチ向けの「Spectrum-X Photonics」とイーサネットスイッチ向けの「Quantum-X Photonics」の2種類を用意し、どちらも従来型と比較して電力効率が3.5倍になるとしている。

Quantum-Xは2025年中、Spectrum-Xは2026年にリリースが予定されている。

なおHuang氏は発表の中で今回のCPOをGPUへ適用する可能性についても言及しているが、現状は電力効率・コストの面から銅線がベストであり(シリコンフォトニクスにはトランシーバが多くのエネルギーを消費するという課題がある)、GPUへの適用は否定的であるようだ。

将来の戦略|まとめに代えて

GPUメーカーとして一強の地位を確立するNVIDIAが今後どのような戦略をとってくるのか、GTCカンファレンスでのHuang氏のプレゼンからは以下の2つのポイントをうかがい知ることができる。まとめに代えて取り上げる。

絶え間ない技術進化と豊富なAI開発環境の提供

同社がこれまで行ってきたGPU性能のアップグレードとAI開発環境の拡充は今後、さらに強化していくことが予想される。

特に注目されるのは、GPUの更新頻度の高さである。現在主力のBlackwellがリリースされたのは2024年であるが、2025年にはBlackwell Ultra、2026年にはRubin、2027年にはRubin Ultraと年1回のペースで新モデルのリリースを予定している。このハイペースでの新モデルの投入は、ライバルを追随させない狙いがあるだろう。

さらにCUDAを軸とした豊富なAI開発環境を提供することで、ユーザがNVIDIAから離れられない状態を作りだし、GPU市場やAIアプリケーション市場での優位性を確保していくものと思われる。

AIインフラ開発への積極的な投資

Huang氏は講演の中で、クラウド向け、エンタープライズ向け、ロボット向けの3つAIインフラの構築に注力していると述べた。

AIインフラの中核をなすのがAIファクトリーであり、今回の講演ではAIファクトリー構築に向けたスケールアップとスケールアウトに対する同社の取り組みが語られている。

スケールアップの施策にはGPUやNVLinkのアップデートが挙げられ、スケールアウトの施策にはSpectrum-Xのようなネットワーク環境の構築が挙げられる。

NVIDIAはスケールアップとスケールアウトの両面において革新的な新技術を導入してユーザのシステム拡張を支援し、さらにはDynamoのような収益を最大化するツールを提供することで、ユーザに利用価値の高さを認識させ、AIインフラ市場での圧倒的なシェアを狙っていくものと思われる。



参考文献:
※1:NVIDIA Announces Financial Results for Fourth Quarter and Fiscal 2025, NVIDIA(リンク
※2:NVIDIA Blackwell Architecture, NVIDIA(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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