鉄空気電池のForm Energyが7.5億ドル調達 パナソニック・ソフトバンク出身幹部を起用
米国のForm Energyは、電力を最長100時間蓄えられる系統向け鉄空気電池を開発・製造する2017年設立の企業である。鉄、水、空気を使い、再生可能エネルギーの発電量が数日間低下した場合でも電力を供給できる蓄電設備を目指す。
同社は2026年8月12日、シリーズGで7億5,000万ドルを調達した。T. Rowe Priceが主導し、Sequoia Capitalなどが参加した。累計株式調達額は20億ドルを超え、資金はウェストバージニア州の工場増強と商用案件の展開に充てる。
80GWhの大口契約を納入につなげる体制づくり
今回の資金調達を支えるのは、実証段階を越えて積み上がった大口案件である。同社の受注残は2026年初めの約20GWhから80GWhへ4倍に増えた。電力会社Xcel EnergyとGoogleの案件に加え、AIデータセンター事業者Crusoeとは2027年から12GWhを供給する契約を結んでいる。
当社メディアでも以前、同社のシリーズF調達と鉄空気電池工場の拡張を取り上げた。当時は製造設備の整備が中心であったが、今回は契約済み案件を実際に生産・納入する段階へ進むための資金である。受注量に見合う生産速度と品質を実現できるかが焦点となる。
日本企業との直接的な出資や提携は発表されていない。ただし、新COOのWes Sloan氏はパナソニック エナジー北米法人でネバダ州の電池生産を統括し、新CFOのNavneet Govil氏はSoftBank Investment Advisersで財務責任者を務めた。量産と大型資金調達の経験を持つ両氏を迎えた点は、日本企業との人材面の接点である。
鉄を「錆びさせて戻す」反応による100時間蓄電
同社の電池は、鉄が酸素と反応して酸化鉄になる現象を利用する。放電時には空気中の酸素を取り込み、鉄をさびへ変える過程で外部回路へ電気を流す。充電時は電流を加えて反応を逆転させ、酸化鉄を鉄へ戻しながら酸素を放出する。
電池セルは鉄極と空気極、水を基にした不燃性の電解液で構成される。多数のセルをモジュール化し、コンテナほどの保護容器とMW級の設備へ組み上げる。鉄は入手しやすく、同社は熱暴走の危険や重金属を伴わないと説明するが、コストや寿命は商用運転での検証が必要である。
リチウムイオン電池が短時間の需給調整を得意とするのに対し、鉄空気電池は発電不足が数日続く場面を対象とする。両者を役割別に組み合わせ、日々の変動と長期の不足を補う考え方である。その分、設置面積は大きく、最も低密度な構成では1MWあたり約0.5エーカーを使う。車載や携帯機器ではなく、広い土地を確保できる発電所やデータセンター向けの技術である。
大口契約の納入を支える年産500MW体制
同社は現在約55万平方フィートの工場を、2028年までに約85万平方フィートへ拡張する。従業員を約400人から750人超へ増やし、少なくとも年500MWの生産能力を整える計画である。80GWhの受注残を稼働設備へ変えるには、量産歩留まり、納期、導入後の耐久性を示す必要がある。
ソフトバンクも2026年5月、AIデータセンターなどへ供給する国産蓄電池事業を発表し、2028年度をめどにGWh規模の量産を目指している。採用する亜鉛ハロゲン化物電池は同社の鉄空気電池と異なり、両社の提携関係もないが、非リチウム系電池でAI時代の電力需要を支える方向性は共通する。
共同創業者兼CEOのMateo Jaramillo氏は、ガス火力のピーカー発電所と競える蓄電を目指し、鉄空気電池を電気で動く「e-peaker」と位置付ける。量産と納入を通じて、この代替可能性を証明できるかが次の評価軸となる。
参考文献:
※1:Form Energy Secures $750M in Series G Financing to Scale Iron-Air Battery Manufacturing and Accelerate Commercial Deployments( リンク)
※2:Energy Startup Raises $750 Million for Rust-Powered Batteries( リンク)
※3:同社HP( リンク)
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