ワイヤレスイヤホン型EEGを開発するNextSense がシリーズAで1,600万ドルを調達
NextSenseは、耳内に装着するワイヤレスイヤホンに臨床精度のEEGセンサーを搭載し、脳波を日常的に計測できる技術を開発する米国企業。製品「Smartbuds」は睡眠解析や深い睡眠の改善、集中・リラックス状態に応じた音響最適化を実現することを目指す。イヤホン型で使いやすい脳計測デバイスとして、ウェルネス領域から将来の医療用途まで展開を狙う。
同社はAscension Ventures主導のシリーズAで1,600万ドルを調達。Satori Neuro、Corundrum Neuroscience Fundに加え、David Eagleman氏ら著名投資家も参加した。調達資金は、EEG搭載イヤホン「Smartbuds」の2025年Q4発売に向けた製品化と量産体制構築に充当する予定。
脳波(EEG)計測は従来、頭皮への電極装着や専門施設でのモニタリングが必要であり、煩雑さ・コスト・可用性の低さが大きな障壁となってきた。また、一般向けウェアラブルは心拍などの間接指標に依存しており、深睡眠や脳状態を正確に評価できないという限界がある。日常生活の中で脳活動を継続的かつ高精度に取得する手段が欠如していることが、脳の健康管理や睡眠改善の大きな課題である。
NextSenseは、耳内装着型ワイヤレスイヤホンに臨床精度のEEGセンサーを統合し、快適な使用感を保ちながら日常的に脳波を取得できる仕組みを提供する。得られた脳波データをもとにAIが状態を解析し、音響刺激を用いて深睡眠の促進や集中・リラックス状態の最適化を行う点が特徴である。これにより、従来困難であった「日常環境での高精度な脳計測と改善介入」を一体化したソリューションを実現している。
耳内EEG・AI解析・音響制御で構成する次世代脳波インターフェース
耳内電極を用いた in-ear EEG により、イヤホンとして自然に装着しながら臨床レベルに近い脳波信号を取得する技術を採用している。耳道は電極配置が安定しやすく、日常動作によるズレが少ない点が利点である。独自の電極設計とノイズ抑制処理によって歩行や姿勢変化によるアーチファクトを低減し、睡眠段階や覚醒状態の判別に十分な信号品質を確保している。
取得した脳波データはAIモデルで解析され、深睡眠(N3)を含む各睡眠ステージや集中・リラックス傾向をリアルタイムに推定する。心拍や動きなどの間接指標を用いる一般的なウェアラブルと異なり、生理信号に基づく直接的な評価を行える点が大きな特徴である。これにより、状態変化を高精度に捉え、個々のユーザーの脳活動に即したフィードバックが可能となる。
解析結果に基づき音響刺激を即時に制御するクローズドループ方式を採用し、脳波パターンに同期した刺激をミリ秒単位で調整する。特に深睡眠誘導では、スローウェーブ活動の位相に合わせて精密に刺激を同期させることで、自然な睡眠構造を保ちながら深睡眠量の向上を狙う。この動的フィードバック機構は従来の固定的な睡眠介入手法と比べ、より生理的適合性が高い点が特長である。
一般向けEEGデバイスの実用化と医療認証取得を視野に入れた拡張計画
NextSenseは2025年Q4のSmartbuds発売に向け、装着性、EEG信号品質、AI解析精度の向上を重点的に進める方針である。創業者Jonathan Berent氏は「ウェアラブルが身体の状態を可視化したように、私たちは“心の状態”を可視化する」と述べており、日常デバイスによる脳活動計測の普及を軸に開発を加速する。量産体制の確立と実使用環境での信頼性確保が主要なテーマとなる。
同社はコンシューマー向けに加え、大学や製薬企業との協業を拡大し、医療・研究領域への応用を進める計画である。投資家Amy Kruse氏は「閉ループ型ウェアラブルは次の重要領域だ」と述べ、脳波計測と音響刺激を組み合わせたNextSenseの技術の発展性を評価している。2027年の医療用途対応を目標に、長期データの蓄積と規制対応を進め、日常利用から臨床までをつなぐ基盤構築を図る。
参考文献:
※1:NextSense Raises $16 Million Series A to Launch the World’s First Truly-Wireless Earbuds with EEG Sensors( リンク)
【世界のデジタルヘルスケアの技術動向調査やコンサルティングに興味がある方】
世界のデジタルヘルスケアの技術動向調査や、ロングリスト調査、大学研究機関も含めた先進的な技術の研究動向ベンチマーク、市場調査、参入戦略立案などに興味がある方はこちら。
先端技術調査・コンサルティングサービスの詳細はこちら
CONTACT
お問い合わせ・ご相談はこちら