中性原子量子コンピュータを開発するAtom Computingが3億ドル超の資金を確保 フォールトトレラント機の商用展開を加速
Atom Computingは、2018年に創業した米国の量子コンピュータ企業である。同社は、光で捕捉した中性原子を量子ビットとして用い、フォールトトレラントなユニバーサルゲート型量子コンピュータの実現を目指している。
同社は今回、累計3億ドル超の資金確保を発表した。内訳には、Third Point Ventures主導の1億ドルSeries Cと、米商務省との1億ドルのLOIが含まれる。資金は、次世代機の大規模化、制御・誤り訂正ソフトウェアの強化、政府・企業・研究機関向けのオンプレミス展開に充てられる。
量子計算は研究装置からインフラへ
今回の発表のポイントは、量子コンピュータが研究開発用の実験装置から、政府や企業が導入する計算インフラへ移行し始めている点である。Atom Computingは、商用規模のフォールトトレラント量子コンピュータの開発と展開を加速するとしており、資金用途にもオンプレミス型システムの世界展開を掲げている。
同社は2023年に、ユニバーサルゲート型システムとして1,000量子ビットを超えたと説明している。さらに、量子誤り訂正の実証、Microsoftとの論理量子ビットを備えた商用量子コンピュータの導入、CiscoやNVIDIAとの協業も進めている。競争軸は、単なる物理量子ビット数から、誤り訂正、制御、ソフトウェア、顧客環境への実装力へ広がりつつある。
光で原子を並べ、核スピンで情報を保つ中性原子方式
Atom Computingの基盤技術は、レーザー光で中性原子を捕捉する「光ピンセット配列」である。レーザーを顕微鏡対物レンズで集光し、光の強度が高い領域に原子を閉じ込める。これにより、量子ビットとなる原子を任意のトポロジー、次元、向きに合わせて配列できる。同社は第2世代システムで光共振器も活用し、より多数の量子ビットへ拡張できる光場を形成すると説明している。
量子ビットには、ストロンチウムやイッテルビウムなどのアルカリ土類/アルカリ土類様原子を用いる。同社は、原子核のスピン方向を量子ビットの2状態として利用する。核スピンは外部ノイズの影響を受けにくく、長いコヒーレンス時間を確保しやすい。この性質は、量子情報の保持だけでなく、論理量子ビットを構成するための量子誤り訂正にも重要になる。
実際の装置では、まず固体の原子源を加熱して原子ビームを作り、レーザーと磁場で冷却・減速する。その後、光の「エレベーター」で原子を計算用チャンバーに移し、リザーバーから計算配列へ配置する。第2世代プラットフォームでは、計算配列を最大1,225サイトまで拡張し、ほぼ完全に充填できるという。計算時には1量子ビットゲートを並列実行し、2量子ビットゲートでは原子をリュードベリ状態に励起して相互作用させ、量子もつれを生成する。
加えて、同社は制御ソフトウェアと電子回路を自社開発している。量子コンピュータでは、レーザー、イメージャー、磁場、電気光学部品を精密なタイミングで動かす必要がある。Atom Computingは、パルス生成、実行、誤り訂正、論理量子ビット運用を統合制御することで、大規模化に必要な運用基盤を構築しようとしている。
商用展開を前提に開発を加速
同社は今後、量子ビット数と忠実度を高めた次世代機の開発、論理量子ビット運用に必要なソフトウェア・制御・誤り訂正機能の強化、政府・企業・研究機関向けのオンプレミス展開を進める。
CEO兼創業者のBen Bloom氏は、量子計算が技術的ブレークスルーを実世界のシステムと世界的導入につなげる段階に入ったと説明した。Third Point VenturesのCurtis McKee氏は、中性原子方式を大規模なフォールトトレラントシステムへの有力な道筋と評価。Cisco InvestmentsのAleem Rizvon氏も、実用化にはスケーラブルなインフラ、安全なネットワーク、エコシステム連携が必要になると述べている。
参考文献:
※1:Atom Computing Raises More Than $300 Million to Accelerate Deployment of Fault-Tolerant, Neutral-Atom Quantum Computers( リンク)
※2:Highly Scalable Quantum Computing with Neutral Atoms( リンク)
※3:同社HP( リンク)
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