半導体設計AIエージェントを開発するChipAgentsが6,000万ドル追加調達 シリーズA総額は1億3,400万ドルに
ChipAgentsは、米国カリフォルニア州サンタクララに本社を置く、2024年創業の半導体設計AIスタートアップである。同社は、仕様書や既存コードを読み取り、チップの論理動作を記述するRTL、検証用データ、バグの根本原因分析などを生成・実行するAIエージェント基盤を開発している。
同社は今回、シリーズA2として6,000万ドルを追加調達し、シリーズAの総額を1億3,400万ドルに拡大した。新規投資家のB Capitalに加え、Bessemer Venture Partners、Micron、MediaTek、Ericsson、ScOpなどが参加した。資金は顧客導入の拡大、エンジニアリング・営業体制の強化、半導体設計AI基盤の開発に充てる。
設計支援から、複数工程を実行するAIエージェントへ
今回のポイントは、半導体設計向けAIがコードの候補を示す「補助ツール」から、複数の工程を自ら計画・実行する基盤へ移り始めている点である。同社によれば、2026年上期の年間経常収益は6倍に増え、導入先はMicronやMediaTekを含む120社超の半導体企業に拡大した。設計サイクルを50%以上短縮できるとしており、実験導入ではなく実際の開発工程への実装が進んでいることがうかがえる。
半導体開発では、仕様の確認、RTL作成、テスト環境の構築、シミュレーション、バグ解析を何度も往復する。一般的なAIコパイロットが個別のコード作成を支援するのに対し、同社のAIエージェントは、仕様書から必要な作業を分解し、設計・検証ツールを呼び出しながら成果物を作る。投資家であるMicronとMediaTekが顧客でもある点は、資金面だけでなく実運用を通じて製品を改善できる関係を示している。
当社メディアでも以前、半導体の設計から製造までを支援するGSMEが、AIエージェント型の意思決定基盤「AI-Digital Brain」を開発する事例を取り上げた。GSMEが設計・製造・サプライチェーンを横断した判断支援を狙うのに対し、ChipAgentsは仕様理解からRTL生成、検証、デバッグまで、設計工程そのものを実行対象とする。両社の動きからは、AIエージェントの適用範囲が情報整理からエンジニアリング作業へ広がっていることが見て取れる。
専用モデルと検証ツールを組み合わせる閉ループ設計
同社の基盤は、仕様書、RTL、検証計画、アサーション、シミュレーションログ、波形データ、EDAツールの出力を横断して扱う。設計案を作るエージェント、欠陥を探すエージェント、実行結果を評価するエージェントなどを組み合わせ、シミュレーターや形式検証、論理合成といった既存ツールの結果を次の処理へ戻す。文章を生成して終わるのではなく、実行結果を基に修正を重ねる閉ループ型の構成である。
中核となる「Renoir」は、オープンウェイトのMixture of Experts(MoE)型大規模言語モデルを基に、公開された半導体データと同社が生成した独自データで調整した専用モデルである。同社はNVIDIAのMegatron Core、NeMo Megatron Bridge、Model Optimizerを利用し、学習の並列化、チェックポイント変換、量子化などを進めている。半導体設計データを外部へ出しにくい企業に向け、オンプレミス環境での運用にも対応する。
デバッグでは、巨大な波形データをそのまま言語モデルへ渡さず、信号変化を検索できる構造化インデックスへ変換する。複数の「証明役」がバグ原因の仮説を立て、「検証役」がRTLや波形で反証・確認し、最後に一致度から信頼度を付ける仕組みである。同社の評価では、最上位候補による原因特定率は56.3%で、比較対象とした汎用AIエージェントの18.8%を上回った。ただし、評価は主にIPブロック単位であり、より複雑なサブシステムやSoC全体への適用は今後の検証課題となる。
導入120社から、半導体開発の標準基盤を目指す
同社は今回の資金を使い、顧客導入と製品開発を拡大する。今後の焦点は、個別のRTL生成やデバッグを高速化するだけでなく、仕様理解、設計、検証、修正を連続して実行する基盤として、既存のEDA環境へ定着できるかである。顧客ごとに異なる設計手法や機密データへ対応しながら、結果の再現性と信頼性を確保する必要がある。
創業者兼CEOのWilliam Wang氏は、半導体業界にはコード作成を助けるAIだけでなく、実質的なエンジニアリング作業を実行できるAIが必要だと述べた。B CapitalのDaisy Cai氏も、同社が先端的なAI研究を、顧客が本番環境で利用する製品へ転換している点を評価している。
同社が公表した導入社数は、2026年2月時点の80社から120社超へ増加した。一方、チップ設計では誤りが製造後の大きな損失につながるため、速度だけでなく、検証可能性や知的財産の保護が導入の前提となる。今後は、専用モデルと既存EDAツールを組み合わせた閉ループ設計を、より大規模なチップ開発でも安定して運用できるかが問われる。
参考文献:
※1:ChipAgents Expands Series A Funding to $134 Million as Demand Grows for Agentic AI in Semiconductor Design( リンク)
※2:ChipAgents Expands Collaboration with NVIDIA to Advance Agentic AI for Chip Design( リンク)
※3:ChipAgents RCA: Autonomous ASIC Root Cause Analysis( リンク)
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