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Factorial Energyが電気自動車向け40Ahの固体電池セルを発表

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4月20日、米国ベンチャー企業のFactorial Energyがステルスモードから脱し、電気自動車向けの40Ahの固体電池セルについて発表した。

車載向け大型固体電池を開発中

Factroial Energyは米国コーネル大学のHéctor Abruña教授が立ち上げたベンチャー企業である。2013年に同氏はLionanoというリチウムイオン電池材料を開発するベンチャー企業を立ち上げており、その企業と創業メンバーがFactorialのベースとなっている。

Factorial Energyはここまでステルスで技術開発を続けており、現在に至るまでその技術の詳細は明かされていない。しかし、同社は今回の発表でステルスモードから脱し、40Ahの大型固体電池を開発していることを明らかにした。

(補足)リチウムイオン電池等ではよく、AhではなくWhが容量の比較指標として使われる。最も使われる指標はWh/kg(重量エネルギー密度)とWh/l(体積エネルギー密度)であり、Ahはあまり比較で使われることが無い。理由は、電池の電力量(どれくらいの仕事ができるか)は、アンペア(Ah)×電圧(V)で表されるためである。つまり、その電池の電圧Vによって電池の電力量が変わってしまうため、40Ahという情報だけでは他の電池と一概に比較することはできない点は要注意である。

なお、上述したように40Ahという情報だけでは電圧値がどれくらいを想定しているかがわからないため、厳密に他との比較は難しいが、例えばスマートフォン用のリチウムイオン電池はiPhoneで約4,000mAh(4Ah)弱、日産リーフは約50~60Ahとなっており、車載用は非常に大きく、Factorial Energyの固体電池は車載用として開発されていることがわかる。

ポリマー電解質を用いた固体電池か?

同社は今回、「画期的なFactorial Electrolyte System Technology™(FEST™)」を開発したと発表している。これは高電圧・高エネルギー密度の電極で、安全で信頼性の高いセル性能を実現する独自の固体電解質材料であるという。FESTは、可燃性の電解液を代替し、リチウム金属アノードでのリチウムデンドライトの形成を抑制する、より安全で安定した固体電解質に置き換えることができる。FESTに基づくバッテリープラットフォームは、電池パックの寿命を犠牲にすることなく、走行距離を20〜50%改善し、エネルギー密度、サイクル寿命、安全性など、一般的なEVバッテリーの性能基準を上回る、というのが同社の主張だ。

このFESTについての詳細は明かされておらず、特許を調べても詳細は不明となっている。ただし、Factorial Energyの前身であるLionanoでも固体電池の研究開発を2015年前後から実施しており、米国SBIRから助成を受けてポリマー電解質を使った固体電池の開発をフェーズ2まで行っていることから、この技術がベースになっている可能性がある(あくまで筆者の1つの可能性としての見解であり詳細は不明)。

(補足)ポリマー電解質を使ったものについて、全固体電池ではなく「半」固体電池と表現する企業や研究者もいるため、本記事では「固体電池」という表記にしています。

有力な投資家が出資

Factorial Enegyのこれまでの資金調達額はすでに40m$(約43億円)を超えており、出資者にはフォードの元CEO Mark Fields氏、オバマ政権の自動車産業に関する大統領タスクフォースの元上級顧問、Harry Wilson氏も含まれており、有力な個人投資家が参加していることが特徴だ。

また、今回の発表に合わせて、北米のパナソニックコーポレーションの前会長兼CEOのJoe Taylor氏が同社会長として任命されており、ダイムラーAGの前取締役会会長であり、メルセデスベンツの責任者であるDieter Zetsche氏もアドバイザーに参画している。こうした顔ぶれを見ると、少なくとも可能性のある技術の1つであると見なしているものと考えられる。

FactorialのCEOであるSiyu Huang氏はこう述べている。
「電気自動車が世界の自動車販売のわずか4%以上を獲得するには、基礎となるバッテリーシステムの劇的な価格とパフォーマンスの向上が必要となります。Factorialのソリッドステートバッテリーテクノロジーは、EVが市場でより受け入れられるためのパフォーマンス、安全性、スケーラビリティを実現します。今回、固体電池セルの40アンペア時のベンチマークに最初に到達したことに興奮しています。今後、数か月でチームの成功をさらに共有できることを楽しみにしています。また、EVエコシステムのプレーヤーおよびパートナーとして成長の次の段階へ向けて、当社に新しいリーダーシップを迎え入れることができることを嬉しく思います。」

675サイクルの容量保持を実証

(7/20追記情報)

Factorial Energyはその後7月に、40Ahの大判サンプルセルのサイクル挙動試験で、675サイクル後に容量を97.3%保持することに成功したことを発表した。固体電池は大判サイズにして大容量にすることが1つの壁となるが、まずはサンプルセルで大容量電池のサイクル特性を確保したことになる。

 

同社のHPはこちら


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参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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