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人間の臓器や組織を複製するスタートアップ、米VivodyneがシリーズAで58億円を調達。精度の高い創薬・治療への貢献目指す

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医療のため、培養により人間の組織の複製などを行うスタートアップ、米Vivodyneは2025年5月29日、シリーズA資金調達ラウンドでの$40m(約58億円)の確保を発表した。

2020年、カリフォルニア州サンフランシスコで設立した企業である。

事業の3本柱は「複製」「自動化」「AIプラットフォーム」

Vivodyneは、主に3つの事業を進めている。「培養による人間の臓器など組織の複製」「ロボティクスによる研究の自動化」「複製した人間の組織をAIスケールに落とし込む」である。

このうち、人間の組織を複製する理由として挙げるのが、現行の動物実験による前臨床試験の精度が低いという点だ。Vivodyneの主張では、前臨床試験の95パーセントは失敗であり、治療法確立のボトルネックになっているという。

そこで、人間の組織を複製してしまい、リアルな実験、試験を行おうというのが、根本にある思想だ。臓器を複製するならその機構を模倣するのではなく、細胞の一つひとつまで複製。血の流れ、薬の流れなど、本物の人間で治療するのと同じ環境をつくる。

また、こうしたVivodyneが複製する人間の組織を分けると、1万点以上となる。当然、人体の精緻なメカニズムを再現した実験を行うというのは、かなり緊張感のある作業となるだろう。そこで、ミリ秒単位の精度で実験が行えるよう、研究室はロボットを中心とした自動化を行う。

そして、複製された組織や実験の結果を、AIプラットフォームに取り込み。仮想的にも、疾患を持つ人の組織の動きなどを再現できるようにする。

Vivodyneは、Andrei Georgescu CEOとDan Huh最高戦略責任者(CSO)の2人によって共同創業。ペンシルベニア大学バイオエンジニアリング学部の教授であるHuh氏の研究グループにおいて、Georgescu 氏は博士号を取得したという間柄だ。

2024年5月には、Amazon Web Services やUBSなどに勤務したJulie O'Shaughnessy氏が、COOとしてVivodyneにジョインした。

Georgescu CEO(右)とO'Shaughnessy COO(Vivodyneプレスリリースより)

資金で自動化した研究室を開設

VivodyneのシリーズAには、多数のベンチャーキャピタル(VC)が参加した。

資金の使途は、前述のロボティクスによる自動化した研究室の建設だ。サンフランシスコ南部に、2万3000平方フィート(2000平方メートル超)の広さを有する研究室を開設。複製した人間の組織による創薬を目指す。

Georgescu CEOは、次のようにコメントした。

「Vivodyneは、医薬品を研究室から臨床試験へと移行させる方法を、根本的に変えようとしている。予測精度が5パーセント(註・前述の『前臨床試験の95パーセントは失敗』という主張)しかないモデルは、もはやモデルとはいえない。

私たちは、何十年にもわたって科学の進歩を阻んできた限界を突破することで、創薬における成功の定義を塗り替えようとしている」




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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