宇宙空間の電力グリッドを開発するStar Catcherが6500万ドル調達、宇宙インフラの次の主戦場は“電力”へ
Star Catcherは、衛星や宇宙機に対して軌道上で電力を供給する「宇宙空間の電力グリッド」を構築する米国のスタートアップである。同社は、光無線給電を用いて濃縮した太陽エネルギーを衛星へ送り、軌道上で利用可能な電力を増やすことを目指している。
2026年5月12日、同社はSeries Aで6,500万ドルを調達したと発表した。ラウンドはB Capitalが主導し、Shield CapitalとCerberus Venturesが共同リードを務めた。これにより累計調達額は8,800万ドルとなる。調達資金は、軌道上での光無線給電デモの加速、2回目の軌道ミッション開発、エンジニアリング・運用体制の強化に充てられる。
宇宙ビジネスの制約は、打ち上げから軌道上の電力へ
同社の調達が示すのは、宇宙ビジネスのボトルネックが、打ち上げコストだけでなく、軌道上で利用できる電力へ広がっているという点である。World Economic ForumとMcKinseyは、世界の宇宙経済が2023年の6,300億ドルから2035年には1.8兆ドルへ拡大する可能性を示している。宇宙利用が通信、地球観測、測位、データ処理、安全保障へ広がるほど、衛星が軌道上で継続的に稼働するための基盤インフラが重要になる。
実際、衛星数は急速に増えている。Satellite Industry Associationによると、2025年には296回の打ち上げで4,434基の衛星が軌道投入され、年末時点で運用中の衛星は14,266基に達した。衛星の数が増え、求められる用途が高度化するほど、通信容量、計算処理、観測頻度、機動性を支える電力需要も大きくなる。同社が狙うのは、この軌道上資産の拡大に伴って生じる電力制約である。
同社CEOのAndrew Rush氏は、通信、コンピューティング、セキュリティ、センシングといった宇宙経済の主要アプリケーションが、いずれも電力制約を受けていると説明している。衛星に搭載できるソーラーパネルやバッテリーには限界があり、ミッションが高度化するほど、軌道上で電力を外部供給するインフラの必要性が高まる。
重要なのは、同社が新しい衛星部品を売るのではなく、軌道上の電力供給を継続利用型のインフラとして提供しようとしている点である。同社は既に7件の電力購入契約と複数の政府契約を獲得しており、商業パイプラインは年間経常収益ベースで30億ドル超とされる。ただしこれは将来の商業機会であり、実現済み収益ではない。同社の狙いは、増え続ける軌道上資産を支える「電力レイヤー」を押さえることにある。
既存ソーラーパネルに電力を送る光無線給電
技術的な要となるのは、軌道上のPower Nodeが太陽光を集め、濃縮し、衛星の既存ソーラーパネルに向けて光として送る「Star Catcher Network」である。同社によると、この仕組みにより、顧客衛星は搭載システム単体と比べて最大10倍の電力生成が可能になる。
特徴は、専用受信機や大規模な機体改修を必要としない点にある。Power Nodeは、軽量・低コストのフレネルレンズで太陽光を集め、衛星側のソーラーパネルが変換しやすい波長へ調整して送電する。さらに精密追尾システムと適応ミラーにより、複数の衛星へ電力を分配する構想も示されている。
同社は2025年10月、商用既製品のソーラーパネルに対して1.1kW超の電力を伝送し、DARPAの過去記録を上回ったとしている。また、Loft Orbitalとの取り組みでは、商用電力ビーミング運用を想定した距離で、宇宙機の捕捉・追尾ソフトウェアを軌道上で実証した。今回のSeries Aは、こうした実証を実運用段階へ進めるための資金といえる。
軌道上電力網として実証できるか
今後の焦点は、同社が光無線給電を実際の軌道上ミッションで安定的に機能させられるかにある。CEOのAndrew Rush氏は、軌道上インフラが地上インフラと同様に基盤的な存在になりつつあり、同社は宇宙空間で利用可能な電力の上限を引き上げようとしていると説明している。2026年中に予定される光無線給電デモは、その構想を検証する重要な節目となる。
次に問われるのは、顧客需要が実運用につながるかである。同社の顧客基盤は商業宇宙事業者と米国政府関係者に広がっており、2回目の軌道ミッションも開発中とされる。General Raymond氏は、持続的監視、強靭な通信、自由な機動性はいずれも電力に制約されており、オンデマンドの電力グリッドが商業・安全保障ミッションの能力を拡張し得ると述べている。
中長期的には、同社が「宇宙の電力会社」として成立するかが焦点となる。既存ソーラーパネルへ電力を送れる点は導入ハードルを下げる一方、精密追尾、安全性、信頼性、料金設計など、実運用には検証が必要となる。今回の調達は、宇宙インフラの競争軸が軌道上で継続利用される共有インフラへ広がっていることを示している。
参考文献:
※1:Star Catcher Raises $65 Million to Build the First Power Grid in Space( リンク)
※2:同社HP( リンク)
※3:Space: The $1.8 Trillion Opportunity for Global Economic Growth( リンク)
※4:Affordability and Productivity Drive Historic Satellite Industry Growth: Satellite Industry Association Releases the 29th Annual State of the Satellite Industry Report( リンク)
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