燃焼前に炭素を分離するSpark Cleantechが3000万ユーロの調達を完了、2027年の商用化準備へ
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Spark Cleantechは、天然ガスを燃焼させる前に水素と固体炭素へ分解するプラズマ技術を用い、産業向け高温プロセス熱の脱炭素化を目指すフランス発スタートアップである。既存のガス配管と炉の間にモジュールを挿入する設計により、大規模な設備改修を伴わずにCO₂排出を大幅に削減できる点を特徴とする。2027年後半の初号商用化を目標に、複数の産業顧客と協議・初期契約を進めている。
同社は3000万ユーロのSeries A資金調達を完了した(うち1700万ユーロがエクイティ)。ラウンドは360 CapitalおよびTaranisが共同リードし、Île-de-France Reindustrialisation Fund(Innovacom運営)と既存投資家のAsterion Venturesが参加している。
調達資金は、初号の標準生産モジュールの完成・実運転および副産物である固体炭素の商用グレード認証に充当されるほか、商用・エンジニアリング・R&Dを中心に約20名の採用を進める計画だ。
電化でもCCUSでもない第三の選択肢
産業脱炭素の最大の難所は高温プロセス熱にある。「産業の脱炭素化に向けた熱電化への取り組み:McKinsey & Company」によると、産業部門は世界のエネルギー消費の約37%を占め、その約3分の2が熱生成用途だ。産業熱需要だけで世界消費の2割超に達し、約80%が化石燃料由来とされる。高温熱を動かさない限り、産業のネットゼロは構造的に達成できない。
しかし、産業熱の電化は特に高温領域で技術成熟度と経済性の両面に課題を抱える。設備更新に伴う投資負担や操業リスクが大きく、電力インフラや再生可能エネルギー供給の制約も普及を阻む要因となっている。結果として、理論上有効な選択肢であっても、現場実装が進みにくい状況が続いている。
同社は、この実装ギャップに正面から向き合う。既存のガス供給網と高温炉を維持したまま、燃焼前に炭素を分離して水素側を燃料化することで、設備改修と運用変更を最小化する設計を採る。同ポートが示す高温熱脱炭素の困難さを踏まえると、同社のアプローチは技術革新というより、現場制約を織り込んだ現実解を狙うものと位置づけられる。
燃焼前に炭素を抜くという設計思想
同社の中核技術は、天然ガス中のメタンを燃焼前に水素と固体炭素へ分解するプラズマ分解プロセスにある。ナノ秒単位のパルスプラズマで分子結合を切断し、CO₂を生成せずに水素を得る点が特徴で、燃焼効率改善や排ガス処理といった従来手法とは異なり、燃焼工程自体を回避することができる。
このプロセスは、既存のガス配管と高温炉の間にモジュールとして組み込まれる設計を前提とする。生成された水素はそのまま炉の燃料として使用され、炭素は固体として回収されるため、CO₂の分離・回収・貯留は不要となる。オンサイト処理により、水素の輸送・貯蔵に伴うインフラ投資や安全対応も抑えられる。
一方で、実装に向けた技術的ハードルは残っている。プラズマ反応のエネルギー効率と連続運転性、固体炭素の品質安定性、そして高温炉環境に耐える装置信頼性である。同社が初号商用モジュールの運転実証と炭素グレード認証に注力するのは、これらの実装要件が事業化の成否を左右するためである。
2027年の商用配備に向けた準備を進める
同社の今後の焦点は、技術優位性の主張ではなく実装可能性の証明にある。初号商用モジュールの完成と実運転を通じ、連続稼働時のエネルギー効率、装置信頼性、保守性といった産業用途に不可欠な指標を積み上げることが最優先となる。高温炉は停止コストが高く、実証レベルを超えた運転データと保証設計が、導入判断の前提条件となる。
並行して重要なのが、分解過程で得られる固体炭素の商用化である。品質安定化と用途別グレード認証を進め、材料市場での販売可能性を確立できれば、脱炭素コストを副産物収益で相殺するモデルが成立する。技術開発と市場設計を同時に進められるかが、今後の事業性を左右するカギとなりそうだ。
経営陣も、同社技術を「研究成果」ではなく産業現場で機能するソリューションとして位置づけており、既存インフラを前提に導入障壁を下げることで、脱炭素を理論から実装へ移行させる狙いだ。2027年後半の商用配備に向け、“産業設備として成立するか”を問われる最終局面に入った。
参考文献:
※1:Spark Cleantech Announces a €30 Million Series A Funding Round( リンク)
※2:Tackling heat electrification to decarbonize industry( リンク)
※3:同社HP( リンク)
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