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標準化された衛星を開発するApexがシリーズDで2億ドル調達

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Apexは、2022年に米国ロサンゼルスで創業された衛星バス(衛星プラットフォーム)メーカーだ。商業・政府のペイロードを搭載できる中型衛星バスを標準化して量産し、製造スピードを従来比で50%向上させることを目指している。同社のプラットフォームは地球観測やミサイル追跡・防衛センサーといった用途に活用可能で、製造拠点の拡張計画も進めている。

当メディアでは以前、ApexがシリーズCで約2億ドルを調達し、Factory Oneと呼ばれる生産施設の強化や在庫確保に踏み切ったニュースを紹介した。その後も同社は量産体制の整備を進め、Aries初号機の運用実績を重ねて信頼性を高めてきた。

2025年9月12日、同社はシリーズDラウンドで2億ドルを調達し、企業評価額は10億ドルに到達した。今回の資金調達はSpaceX元財務幹部らが設立したVC「Interlagos」が主導し、Andreessen Horowitz、Point72 Ventures、8VCなど既存投資家も参加。調達資金は生産能力の拡大と製造施設の倍増に充てられる予定で、米国防総省が推進する1,750億ドル規模の「Golden Dome」宇宙ミサイル防衛構想の潜在的な需要も、同社の成長を後押ししている。

大量衛星需要に応える標準化モデル

宇宙産業では、従来の衛星開発が高コストで納期が長いという課題を抱えていた。1機ごとに専用設計を行うため、開発に数年を要し、コストも高止まりしていた。さらに近年は、防衛分野や民間通信などで大量の衛星を短期間に配備する需要が急増しており、既存の開発サイクルでは応えられない状況になっていた。

同社はこの課題に対し、標準化された衛星バスの量産化というアプローチを採用した。共通プラットフォームを設計し、モジュール単位でカスタマイズ可能にすることで、開発期間を従来の数年から数週間へ短縮。さらにソフトウェア主導の在庫管理や製造ライン最適化により、品質を保ちながらスピードを重視した生産体制を構築。これにより、顧客は仕様や価格を即座に把握し、短納期での調達が可能になり、防衛や商業ミッションの迅速な展開を実現している。 

標準化×デジタル化で実現する高速衛星製造

同社の衛星製造は、共通プラットフォームとソフトウェア主導のプロセス設計が特徴だ。Aries、Nova、Cometの3モデルをラインアップし、電源、推進系、通信、姿勢制御、熱制御といった衛星の基盤部分をあらかじめモジュール化。顧客はミッションに応じてペイロードやオプションを選択するだけで、設計段階から打ち上げまでの期間を従来の数年から約5週間に短縮できる。

製造現場では、自社開発のソフトウェアでサプライチェーンと在庫をリアルタイム管理。部品の調達状況や組立工程を統合ダッシュボードで監視し、部品不足や遅延を即座に把握して生産計画に反映。こうしたデータ主導のアプローチにより、製造ラインの稼働率を高く保ちながら品質を安定化させている。

さらに、各衛星はクラウド接続を前提とした設計で、試験データや運用中のテレメトリも共通フォーマットに変換して扱える。これにより、異なるミッションや顧客間でのデータ解析や運用支援が容易になり、衛星群全体のヘルスチェックや軌道上アップデートも効率的に行える。

拡張性の面では、ソフトウェア更新による新機能追加や新規ペイロード対応が可能で、今後の大量衛星配備や防衛用途の特殊要件にも柔軟に適応できるアーキテクチャとなっている。

宇宙業界のトヨタを目指す

今回のシリーズD資金調達により、同社はパイロット段階から本格的な量産フェーズへの移行を加速させる構えだ。ロサンゼルスの製造拠点は拡張され、現行比で製造能力を倍増。今後2年間で月産12基体制を確立し、開発から打ち上げまでのリードタイムをさらに短縮する計画だ。これにより、防衛・通信分野で急増するコンステレーション需要に応える生産能力を備える。

共同創業者兼CEOのIan Cinnamon氏は、自社ブログの中で次のように語る。
「これまで衛星を1基つくるのに5年かかるのが当たり前でした。でも、たとえば年に15基必要なら、そのペースでは到底間に合いません。Apexでは、1基を約5週間で製造できます。」


さらに同氏はこう強調する。
「私たちは、『最も安い会社』になろうとはしていません。“最も早く、最も高品質な製品を提供できる会社”を目指しています。そして、Apexを“宇宙業界のトヨタ”にしたいと考えています。トヨタが自動車業界で実現したように、衛星を標準化し、品質を保ちながら大量に製造できる体制をつくることが目標です。」




参考文献:
※1:Spacecraft startup Apex tops $1 billion valuation as US space-defense systems demand soars(リンク

※2:We want to be called "Toyota of Space" - The design philosophy that shortened satellite manufacturing to five weeks Apex(リンク

※3:同社公式HPリンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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