RX・ロボティクストランスフォーメーションとは?業務変革の現場と最先端RXスタートアップ

一昔前まで、ロボットは製造業や研究開発といった限られた現場で使われるものという印象が強かった。しかし現在では、物流、建設、小売、飲食など、さまざまな業界で存在感を増している。
特に近年は、単なるロボット導入ではなく、業務プロセス全体をロボットで再構築しようとする動きが加速しており、「RX(Robotics Transformation。ロボティクストランスフォーメーション)」という言葉で語られるようになった。
本稿では、RXの定義とその適用領域、そして国内外の注目スタートアップについて紹介する。
RXの定義|単なる「ロボット化」ではない
RX・ロボティクストランスフォーメーションとは、ロボット技術を活用して物理的な業務プロセスそのものを変革、転換することである。
従来のロボットによる自動化(ロボット化)は、あくまで既存業務の一部を機械に代替させるものであった。例えば、ベルトコンベヤで流れてきた食品を箱詰めするという作業が相当する。
RXの代表的な事例としては、Amazonの物流センターに導入された自動倉庫ロボットが挙げられる。同社の相模原フルフィルメントセンター(FC)では、約2000台のロボットが棚を移動させ、作業員のもとへ商品を運ぶ仕組みを構築。これにより作業員は出荷作業に集中でき、少ない人数で作業時間を短縮できる。自ら歩き回って商品の在庫を探すことがないので、肉体的な負担も軽減される。
Amazonの相模原FC(同社プレスリリースより)
変化は作業員だけにとどまらない。新たに倉庫を建設する際には、自動倉庫ロボットの導入を前提としたレイアウト設計が求められる。また、ロボットの導入・保守を担う技術職の役割も不可欠となっている。
このように、人・機械・システムの役割分担を根本から見直すことで、業務構造そのものを変革する点がロボット化との違いである。
似た言葉にDX(デジタルトランスフォーメーション)があるが、こちらは既存の業務プロセスやビジネスモデルをデジタル技術で最適化・再構築するアプローチである。ERPの導入やクラウドの活用、AIによる予測分析などがその例だ。
RXが注目される領域|物流・建設・飲食店
RXの導入は、すでに特定の産業分野において実証フェーズから商用化フェーズへ移行しつつある段階だ。ここで、RXの導入が進む代表的な領域を紹介する。
物流現場の自動倉庫
前述したように、RXの象徴的な活用例の一つが物流業界における自動倉庫である。Amazonは2012年、Kiva Systems(現Amazon Robotics)を買収し、数十万台のロボットによる倉庫内搬送の完全自動化を実現。ピッキング作業の効率化にとどまらず、倉庫レイアウトや人員配置までを最適化するプロセス全体の変革が行われている。
また、日本国内でも自律移動ロボット(AMR)を活用した倉庫運用が広まりつつあり、需要が拡大するEC物流への対応策として注目を集めている。
建設現場の測量など
高齢化・人手不足が深刻な建設業界でも、RX導入の動きがある。国内では、建設業界の法人中心に構成される「建設RXコンソーシアム」により、現場測量や資材搬送のロボット化などが推進されている。
建設RXコンソーシアムではRXを見込む領域ごとに、12の分科会を設置。例えば墨出しロボット分科会では、図面の情報を工事現場に書き出す墨出しロボットの試用や共同開発を行っている。
建設RXコンソーシアムの幹事社である鹿島建設は墨出しロボット「ロボプリン」を開発。ロボプリン本体(左)と墨出しの例(鹿島プレスリリースより)
世界的にもこの流れは同じだ。中でも先進的な事例として挙げられるのが、ロボットプリンターでの建築を行うだけでなく、そこで使う低炭素材料も開発するICONである。同社は、3Dプリント(積層造形)で低コスト・短時間での建築を可能にした。技術は米航空宇宙局(NASA)にも採用され、将来、人類が月面に拠点を設置する際の建物にも使われる。
月面建設のパース。右にある機械が3Dプリンターに相当するもので、アームの先端から材料を射出する(ICONプレスリリースより)
飲食店の配膳業務
近年、飲食店では配膳ロボットが料理を運ぶ光景が見られるようになった。これにより、スタッフは調理や接客といったコア業務に専念できるようになり、業務の分担が再構築されつつある。
配膳ロボット導入の際は、ロボットが移動しやすいように店舗レイアウトを設計する必要があり、新規店舗の設計や既存店舗の改修に影響を及ぼすだろう。これは、業界、分野を問わず、RXにおいて検討が必須となる点だ。
DFA Roboticsの調査によれば、配膳ロボットを導入した飲食店の約9割が「とても満足している」「やや満足している」と回答しており、多くの店舗で効果が出ているといえる。
(DFA Roboticsプレスリリースより)
また、配膳ロボットの導入で変わったこととして、「配膳・下げ膳業務の負担が減った」「接客、飲み物の補充など他の業務に時間を使えるようになった」「作業効率が向上した」が上位3つに挙がっている。
さらに注目すべきは4番目に多かった回答だ。「ロボットがいることで楽しい雰囲気になった」という声が挙がっている。ロボットが単なる業務効率化のツールに留まらず、サービス価値の共創なども実現する点が、真のRXといえるだろう。
国内外のRX関連注目スタートアップ
ここでは、RXと関連するスタートアップを取り上げる。
取り上げる5社の概要。公開情報を基に編集部制作。金額はすべてドル換算とした
Dusty Robotics | 建設現場の墨出しロボット
Dusty Roboticsは、2018年に設立した米国のスタートアップ。
同社の主力製品である「FieldPrinter」は、自律型モバイルロボットであり、建築情報モデル(BIM)を基に、情報を床面に直接印刷する機能を持つ。この技術により、従来は手作業で行っていた墨出し作業が自動化され、最大で10倍のスピードで実施できるようになる。精度も1/16インチ(約1.6ミリメートル)と非常に高く、設計図通りの正確な施工を実現する。
FieldPrinterのデモ動画
Aerialoop | ドローンの配達サービス
Aerialoopは2020年にエクアドルで設立したスタートアップである。都市部における物流の効率化と持続可能な運用を目指し、パートナー企業とともにドローンを活用した配送などを展開する。
同社のドローンはStarlinkのアンテナを搭載し、最大100キロメートルの長距離飛行を実現する。物流分野では三菱電機の「AnyMile」プラットフォームにも参画する。
ドローンはある程度、「市民権」を得ているデバイスなのでRXと結びつかないかもしれないが、無人の機器を使いながら仕事、作業を転換していくという点はまったく同じといえよう。この場合は、ドライバーの人手不足が課題になっている物流業界において、新たな配送手段になり得るドローンの活用となる。
Aerialoopのドローン紹介動画
センシンロボティクス | ドローンによる建設現場点検
センシンロボティクス(SENSYN ROBOTICS)は、2015年設立の日本のスタートアップである。ドローン技術を活用し、社会インフラの点検や建設現場の省人化に向けた各種ソリューションを提供している。
同社の送電インフラ点検ソリューション「POWER GRID Check」では、ドローンで鉄塔と送電線を自動点検するものだ。設備情報と座標情報の入力で、点検ルートを生成。そのため、作業員にはドローン操作の特別なスキルを必要としない点が特徴である。
同社は中部電力パワーグリッドと共同でこのサービスを開発しており、2021年から現場運用を開始している。
POWER GRID Checkの紹介動画
Telexestence | 小売店向けの遠隔操作ロボット
Telexistenceは、2017年に設立した日本のスタートアップである。同社は東京大学名誉教授の舘暲氏が提唱した「テレイグジスタンス」技術を基盤に、人間の「拡張」を目指す。同社が掲げるビジョンは、さらに具体的な言い方で「世界に存在する全ての物理的な物体を、我々の『手』でひとつ残らず把持する」としている。
独自開発したロボット「TX SCARA」を、2021年に発表。ファミリーマートが2022年から導入している。TX SCARAは、小売店舗のバックヤード作業に特化し、ペットボトルや缶飲料の補充・陳列作業を自動で行う。環境の変化などでエラーが発生した際には遠隔操作モードに移行し、人間(オペレーター)が遠隔操作でロボットを動かす。
Telexistenceが公開したファミリーマートでTX SCARAが稼働する動画
オペレーターはコンビニエンスストア店内や近くにいる必要はないので、人手不足でない地域での採用が可能となる。さらに、普段はロボットが自動で陳列・補充業務を行うので、オペレーターは1台のロボットに張り付く必要はない。となれば、「1人のオペレータが複数のコンビニの陳列・補充作業を担当する」という働き方も可能になるだろう。
MUSE | 小売店舗向けの自律移動ロボット
MUSEは、2022年に設立した日本のスタートアップである。小売店舗向け自律移動ロボット「Armo」を開発し、店舗内の品出し作業などの自動化を通じて人手不足によって生じる課題の解決を目指す。
Armoは、円形のロボットで品出し用カートと接続が可能。これを使い商品を自律的にバックヤードから陳列棚まで運搬し、品出し作業を支援する。また、接続するものを変えることで、商品棚にある在庫品のスキャン、買い物客の案内ができる。
品出しは、埼玉・群馬を中心に展開するスーパーマーケット「ベルク」で実証実験を行い、作業生産性が従来比で約1.5倍に向上したという。想定を上回る成果だったようで、ベルクでは今後Armoの導入を拡大し、2025年には10店舗で運用する。
ベルクで稼働するArmo
まとめ | 人の作業代替から業務構造の変革へ向かうロボティクス
RX(ロボティクストランスフォーメーション)は、単なるロボット導入による省人化にとどまらず、業務構造全体の変革をもたらす「ロボットを通した仕事の転換」である。物流、建設、飲食、小売など、多くの業種においてすでにその萌芽は見られ、現在、RXは実証フェーズから実用化フェーズへと移る段階にある。
今後は活用事例が積み重なり、人間とロボットの役割分担がより洗練されてくると予想できる。
参考文献
※1:Amazonの“心臓部”に潜入、2000台のロボットひしめく超効率物流のカラクリ, 島津翔,日経クロステック(リンク)
※2:建設RXコンソーシアム | ロボット・IoTによる作業所の高効率・省人化ならびに建設業界の魅力向上を推進(リンク)
※3:【配膳ロボットと働くスタッフ満足度調査:飲食店】配膳ロボットと一緒に働いてみて、約9割が「満足している」と回答 導入での変化 第2位「他の業務に時間を使えるようになった」、第1位は?, DFA Robotics(リンク)
※4:DUSTY ROBOTICS(リンク)
※5:Aerialoop(リンク)
※6:三菱電機が提供するAnyMileでドローン配送の世界は拡がる!, ドローン合宿(リンク)
※7:センシンロボティクス | 社会インフラ課題をデータ活用で解決(リンク)
※8:株式会社センシンロボティクスと共同で「送電設備の異常を自動で検出するAI」を開発, 中部電力パワーグリッド(リンク)
※9:TELEXISTENCE(リンク)
※10:MUSE(リンク)
※11:株式会社MUSE、売り場を活性化するストアロボット 「Armo(アルモ)」の先行予約を開始, MUSE(リンク)
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