ドイツのQ.ANTがシリーズAで106億円を資金調達。データセンターのソリューションとなり得るフォトニックプロセッサ

ドイツのフォトニクス、量子センシング技術関連のスタートアップであるQ.ANTは2025年7月17日、シリーズA資金調達ラウンドでの€62m(約106億円)の確保を発表した。
同社は2018年、ドイツ発祥の多国籍企業であるTRUMPFからスピンオフする形で設立。シュツットガルトに本社を置く。
フォトニクスと量子の2分野でプロダクト開発
Q.ANTの事業は、「ネイティブコンピューティング」と「ネイティブセンシング」の2分野に分けられる。ネイティブコンピューティングは、フォトニクスのアプローチでエネルギー効率の良いコンピューターを構築。一方、ネイティブセンシングは量子物理学のアプローチからプロダクト開発を行う。
今回、調達した資金はフォトニックプロセッサの商業化が使途の一つとなっている。そこで、ネイティブコンピューティング分野を中心に、Q.ANTを見ていきたい。
AI用途を中心としたデータセンターの建設が相次ぎ、電力の供給が厳しい状況になっていることは、読者にとって耳にたこができるほど聞いている話であるだろう。
国際エネルギー機関(IEA)がまとめたレポートによると、2026年にデータセンターからの電力需要は800テラワット時強になると推計。2022年のこの数値は460テラワット時であり、たった4年で倍近く増えることになる。また、日本の2021年度の電力消費量は924テラワット時であり、これに匹敵する数字ともいえよう。
そこでQ.ANT はAIや高性能コンピューティング(HPC)向けに、フォトニックプロセッサを開発。基板に薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)を用いており、従来と比べてエネルギー効率は30倍、パフォーマンスは50倍を実現しているという。また、このプロセッサを導入することによってデータセンターの容量を100倍に拡大でき、複雑な冷却システムも不要だという。
なお、本稿冒頭に掲載した写真は、フォトニクスプロセッサを持つQ.ANTのMichael Förtsch創業者兼CEOである。
ネイティブセンシング分野についても触れると、2024年4月に高精度電流・磁場センサーを発売。自動車やエレクトロニクス分野での利用を見込む。
また、量子物理学を基に原子ジャイロスコープを開発。こちらは、データ通信衛星の姿勢制御に利用されることを見込む。
フォトニックプロセッサを米国へ売り込みか
シリーズAは3社のベンチャーキャピタル(VC)が主導し、Q.ANTの母体であるTRUMPFも参加した。
資金の使途は「生産拡大」「次世代フォトニックプロセッサの開発推進」「米国への進出」や、人材確保を挙げる。米国への進出は、データセンターの建設が相次ぐ同国でフォトニックプロセッサをアピールしていくものと見られる。
Förtsch CEOは、次のようにコメントした。
「Q.ANTは、電気ではなく光を使って世界のコンピューティングのあり方を変革するという大胆なビジョンを掲げて設立した。今回の調達で、コンピューティングの未来を形作るために必要な、強力なパートナーを得た」
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