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ロボット向け汎用AIを開発するPhysical Intelligence が新たな資金調達で企業価値が56億ドルに

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Physical Intelligence は、特定用途に依存しない汎用ロボット向けの基盤AIモデルを開発する企業である。多様な環境下での物理操作データを統合し、ロボットが折りたたみ、箱組み立て、飲料抽出などの複雑なタスクを自律的に遂行できる能力を付与する技術を提供する。ロボットごとの個別プログラミングを不要とし、産業から家庭領域まで幅広い自動化の実現を目指す点が特徴である。

同社は2025年11月の資金調達ラウンドにおいて6億ドルを調達し、企業評価額は56億ドルに達した。本ラウンドは CapitalG が主導し、Lux Capital、Thrive Capital のほか、Jeff Bezos ら複数の大手投資家が参画した。調達資金は汎用ロボットAIモデルの高度化と実世界への大規模展開を加速するために活用される見通しである。

環境に依存しないロボット向け汎用AIモデルを開発

同社が向き合う課題は、ロボットが実世界の多様で予測しづらい状況に対応しにくいことである。現在の多くのロボットは、あらかじめ決められた環境や手順に強い一方で、物の位置が変わったり形状が不揃いだったりといった場面では性能が大きく落ちる。また、タスクごとに専用の設定やプログラムが必要になるため、導入にも手間とコストがかかる状況が続いている。

同社は、こうした制約を乗り越えるために、複数のロボットや環境から得られる操作データをまとめて学習する“汎用AIモデル”を中心に据えている。このモデルを使うことで、ロボットがタスクや環境の違いに左右されにくくなり、未知の状況でも柔軟に行動できることを目指している。また、モデルが共通の基盤として機能することで、新しいロボットやタスクにもスムーズに展開でき、設定作業の負担を大幅に軽減できる点が特徴である。

視覚・力覚・操作軌道を統合した行動生成モデル

同社は、実環境で取得した視覚・力覚・軌道データを統合して学習する行動モデルを中核に据えている。物体の変形や摩擦、照明変化といった実世界のばらつきをそのまま学習に取り込み、状況依存で動作を調整できる基礎能力を確立することで、タスクごとの細かな設定に依存しないロバストな行動生成を可能にしている。

この行動モデルを多様なロボットへ展開するため、ロボット固有の関節構造や可動範囲の違いを抽象化して扱う仕組みを導入している。タスクの意図や操作対象の特徴を共通表現として扱うことで、モデルを機種間でそのまま転移できるようにし、アーム型から人型まで一貫した動作生成を実現する。この抽象化が汎用性の核となっている。

また、実行中に得られるセンサーログや成功・失敗の履歴を継続的に収集し、モデル更新へ反映するパイプラインを構築している。未知の物体や環境変動に対しても、過去データとの類似性をもとに適切な動作を推定できるようにし、運用しながら性能を高める循環を形成している。これらが一体となり、実世界適応性の高い基盤が整えられている。

大型調達による実証拡大と商用展開

今回の資金調達 により、同社はモデル開発と実運用の両輪を大きく前進させると考える。まず、複数種類のロボットやさまざまな環境での大規模な実証実験を展開できるようになる。これにより、現在は試験段階にある衣類の折りたたみや箱の組み立てといったタスクだけでなく、物流、倉庫、家庭など多様な現場環境でのノイズ/変動を伴うタスクでの実用性検証が可能となるだろう。

加えて、資金的余力を背景に、ロボットメーカーや産業パートナーとの提携を拡大しやすくなる。これにより、PIが開発する汎用ロボットAIモデルが単なる研究成果にとどまらず、“複数ロボット × 複数用途”の共通インフラ層として広く採用される可能性が高まる。つまり、今回の調達は技術開発の加速だけでなく、実運用と市場展開の両面での飛躍の起点と位置づけられる。


参考文献:
※1:Robotics Startup Physical Intelligence Valued at $5.6 Billion in New Fundingリンク

※2:Physical Intelligence: Bringing AI Into the Physical Worldリンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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