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バイオファウンドリの世界的リーダーGinkgo Bioworksの現在地、ビジネスモデルの転換

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バイオファウンドリの世界リーダーのGinkgo Bioworksは、2021年にニューヨーク証券取引所(NYSE)にSPACスキームで上場した。当時の時価総額は150億ドルとされ、大変注目された上場である。しかし現在の時価総額は5.3億ドルにまで下がっている。

上場後に最高値を付けて、その後株価が低迷するのは、特にSPAC上場ではよくあるパターンとなっているが、経営状況は実際に良くない。2024年に40%超の大規模人員削減を実施し、収益構造を変えようとしている。

今回は昨年末発表された2025年3Qの決算発表内容を振り返りながら、バイオファウンドリビジネスについて考察を行っていく。

これまでのGinkgoのビジネスモデル  

Ginkgoは2つの事業を展開している。1つはCell Engineeringという、顧客企業向けに微生物や細胞を設計・改変する受託型の研究開発事業である。医薬、産業バイオ、農業などを対象に、自動化ラボ基盤を活用した高スループット実験と大規模データ生成を提供する。特にこの事業においては、研究開発サービスフィーに加えて、将来、バイオプロセスによる物質生産が行われた際のロイヤルティも見込んでいる。

2つ目はBiosecurity事業。感染症や病原体の監視・解析を行う政府契約中心のサービス事業である。国際空港などでサンプルを収集し、ゲノム解析を通じて病原体の流行状況を可視化する。主に公的機関向けに継続的な監視サービスを提供し、収益は契約ベースのサービスフィーが中心である。

これら2つの事業の売上高推移が以下となっている。

Ginkgo Bioworksの売上高推移(単位:m$)

同社IRより作成

グラフを見るとわかる通り、2022年をピークとして、大きく売上高が下がっている状況となっている。そのため、2024年~2025年にかけて、同社は大規模なリストラを実施。全従業員の約35%(約400〜450人以上)を削減する計画が発表され、拠点の統廃合と含めて、毎月のキャッシュアウトを縮小させてきた。

結果として、現在は毎四半期のキャッシュアウトが30-40m$に対して、現金保有額が462m$となっており、このままの水準で行くのであれば2-3年は問題なく事業継続ができる状態にまで来ている。

同社のキャッシュアウト額の推移 

同社IR資料より

ビジネスモデルの転換、レベニューシェアから開発支援・ツール提供へ

同社が現在行おうとしているのは、これまでCell Engineeringによる研究開発支援から、その後の物質生産におけるロイヤルティというモデルが中核だったのに対し、R&Dツール提供によるサービスフィーモデルの強化である。

2024年後半に私たちは⼤きなビジネスの転換を⾏いました。このチャートの左側に⽰されているように、単にリサーチソリューションを提供するだけでなく、さまざまなリサーチパートナーシップを通じて、⼿数料や下流の価値共有、さらには顧客が私たちのプラットフォームを活⽤して開発している最終製品に対するロイヤリティやマイルストーンを得る形に変わ りました。


ビジネスモデルの全体像 

同社IRより











つまり、将来の不確実性の高い大きなリターンのレベシェアは依然として継続しつつも、短期的に確実に売り上げを稼ぐことができる開発ツール提供に注力する、という戦略である。ここで言うツールとは、Datapoints(大規模データ生成)、RAC(自動化設備)、Catalyst(ソフトウェア)などである。

とりわけ同社はAI活用の重要性を語る。AI推論モデルを活用し、自動化されたクラウド対応ラボを構築する、AIにより思考してラボが実験作業を行う自動化されたTry & Errorであるということだ。

これは大変興味深く、日本でも神戸大学の蓮沼教授らの研究グループが「実験から仮説を自動立案する自律型実験システムの有用性を実証」というプレスリリースを出しており、こうした研究に取り組んでいることがわかる。

「AI推論モデル×自動化」というのはGinkgo Bioworksも今後の大きなフロンティアと語っている。

ただし、このツール事業についてはすでに発表から1年程度経過しているが、まだ大きな成果に繋がっているわけではない。ツールとサービスの⽐率は約80対20でツールに重点を置くということであるが、これはある意味ビジネスモデルとしては一時しのぎに過ぎない。本格的に成長を描くにはバイオものづくりで顧客が成功しない限りは、業界のすそ野は広がらない、ということになるだろう。

継続するバイエルとの協業、農業分野は成功するのか

Ginkgoが抱えているプログラムの内訳は以下となっている。

・Industrial & Environment 6件(前年12件)

・Pharma & Biotech 41件(前年34件)

・Government 17件(前年16件)

・Food & Agriculture 35件(前年39件)

・Consumer & Technology 3件(前年6件)

とりわけ、Industrial & EnvironmentとConsumer & Technologyの減少が著しく、実用化の時間軸は長そうである。バイオ医薬はこの分野におけるメインの市場であるが、もう一つFood & Agricultureも大きな割合となっている。

Ginkgoはバイエルと2017年から農業分野での共同開発を行っているが、今回、そのパートナーシップの延長を発表し、両社による微生物窒素固定法の開発を継続することを発表した。微生物窒素固定法とは、窒素固定能を持つ微生物を活用し、大気中の窒素(N₂)を植物が利用可能なアンモニア(NH₃)へ変換する技術である。従来ハーバーボッシュ法で窒素肥料を大量生産してきた市場であるが、天然ガス価格に強く依存することや、地政学リスク、CO2排出量などから、バイオものづくりによる製造が期待されている。成功すれば大きな商業的インパクトをもたらす分野だ。

当該分野では米国ベンチャーのPivot Bioが、遺伝子編集した微生物で作物の根元で窒素固定を実現し、肥料の一部を置き換える製品で商用化に成功、先行している。2021年にシリーズDで434m$を調達し、注目されたベンチャーである。バイエルがGinkgoと狙っていたのはこの市場であるはずだが、いまだ開発に成功していない。

時間軸の見直しが必要

バイオ医薬は比較的短い時間軸で成果が期待できる市場である。これはすでに市場が形成されている。

一方、農業、素材、化学品、食品といった産業分野は、開発から本格量産、市場浸透までに長い年月を要する。現在のバイオファウンドリの苦戦は、ビジネスモデルの欠陥というより、産業の成熟度と時間軸の問題であるように見える。当初、Ginkgoや業界が予想していたより、産業分野でキラーアプリケーションが生まれるには時間がかかるということがわかったということだろう。

Ginkgoの案件ポートフォリオからは、製薬の次は農業・食品分野の市場形成が期待されるが、今後どうなっていくのか注視していく必要がある。


参考文献:

※1 同社IR(リンク)

※2 Ginkgo Bioworks Q3 2025 Update & Business Review(リンク)




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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