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6月にNasdaq上場したOmada Health。どのようなヘルスケア企業なのか

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米国のヘルスケアスタートアップであるOmada Healthが2025年6月6日、Nasdaqに上場した。同社は上場により、$150m(約215億円)を調達したと見られる。

株式市場では、$19(約2700円)が取引開始価格となり、初値は$23(約3300円)が付いた。

本稿では、Omada Healthがどのような事業展開をしているか、取り上げる。

Omada Healthとは?上場前の資金調達総額は700億円超

Omada Healthは、2011年に設立。デバイスを使って身体のモニタリングを行い、糖尿病などの予防プログラムを立案する、糖尿病や高血圧を持病とする患者にはモニタリングとケアプランを立案する、といったサービスを展開する。

日本でも知られるように、米国は欧州や日本ほど社会保険制度が充実していない。通院や入院となると非常に高コストとなるため、予防が医療における費用削減策の一つとなる。

企業としてのOmada Healthは、設立から2022年2月までの間に、シリーズEまでの資金調達を実施。総額は$528.5m(約768億円。現行レート)となっている。当時の投資家にはベンチャーキャピタル(VC)が目立つが、Cigna、Kaiser Permanente、Sanofiといったヘルスケア企業の本体あるいはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が戦略的投資家として参加していた。

現在、Omada Healthに登録する会員数が100万人を超えている。

Omada Healthが行う予防・ケアのサポート

実際に、どのような形で事業を展開しているのか、詳細を見てみたい。「予防」「糖尿病」「高血圧」「骨や筋肉に関するサポート」に分けて取り上げる。

なお、Omada Healthのサービスは健康保険に加入しているなどでは無料で受けられる場合があり、そうでないと有料となる。よって、料金が明示できない点につき、ご容赦いただきたい。

また、取り上げるデバイスは基本的なサービスに内包されており、料金を支払っていない場合は無料で、支払っている場合も基本料金の範囲内で利用でき、患者の下に届けられる。

予防

予防プログラムで主に重視するのが、2型糖尿病だ。1型糖尿病は先天的な疾患であるのに対し、2型糖尿病は不規則な生活習慣などから発症する後天的なものである。

利用するデバイスなどは次の通り。

  • スマートスケール(体重計)
  • Omadaアプリ

スマートスケールとは、体重計のことだ。日本国内でも入手できるスマート体重計と同様、計測結果はアプリやユーザーアカウントのデータベースに転送。それを基に運動や食事などのプランが策定され、アプリに表示する。

スマートスケール(Omada Healthメディアセンターより)

Omada Healthが特に注意を払うのが、前糖尿病の状態にある人だ。前糖尿病とは、血糖値に異常があるものの2型糖尿病よりは深刻度が低い健康状態のことである。米国人の3人に1人が前糖尿病と推計されているものの、8割の人はその自覚がないという。

前糖尿病から可能な限り健康度の高い状態へと移行させることで、2型糖尿病の他、心臓病、脳卒中などのリスク低減を目指す。

糖尿病

前述の予防が奏功しない、あるいは、すでに糖尿病の診断を受けた患者には、そのモニタリングやケアを行う。

糖尿病の場合は、以下のデバイスを使うことになる。

  • 持続血糖測定器(CGM)×2台
  • 血糖値測定器
  • テストストリップ
  • スマートスケール

CGMは円形のデバイスで、上腕部に装着。従来のグルコースメーターのように侵襲的ではなく、センサーで血糖を測定できる。また、名称に「持続」という単語が入っているように、24時間365日の計測が可能だ。

上腕部にGCMを装着した患者がスマートフォンでデータを読み取る様子(Omada Healthメディアセンターより)

血糖値測定機は、少なくとも見た目の上では従来品と大差はない。ただ、患者の手に届く際には、すでにアカウント設定がされた状態になっているという。

血糖値測定機(右)とテストストリップ・付属品(Omada Healthメディアセンターより)

先ほどのCGMは非侵襲的計測だったが、テストストリップでの侵襲的な計測で、より測定結果の精度を高める。患者の手元にあるテストストリップと付属品(穿刺針)の在庫が25日分を下回ると、補充のための90日分を自動的に発送。90日分はどれほどの量になるかは、患者の過去のデータによって異なる。

高血圧

高血圧のケアで使うデバイスは、以下の通り。

  • 血圧モニター
  • スマートスケール

血圧モニターは、下の写真のようにBluetoothなどでデータ通信が可能な日本で流通する血圧計と同じ。こちらも、先ほどの血糖値測定器と同様、アカウントと紐付けた状態で出荷する。

血圧モニター(Omada Healthメディアセンターより)

日本の高血圧向けオンライン治療を受けている読者にとっては、Omada Healthのサービスもそれと似たものと受け止めて問題なさそうだ。血圧モニターのデータが患者もOmada Health側でも確認でき、医師・スタッフの判断により治療を行っていく。

骨や筋肉に関するサポート

ここでは、肩こりや腰痛などへのケアが行われる。

骨や筋肉に関するサポートでは、計測するデバイスの利用はなく、理学療法士とのコミュニケーションで疾患やケアプランの策定を行っていく。

一方、Omada Healthはエクササイズキットを無料で頒布しており、またケアプランはアプリに表示。これらで痛みの緩和などを行っていく。

エクササイズキット(Omada Healthメディアセンターより)

GLP-1受容体作動薬服用者向けの特別プログラムを開始

Omada Healthは、2023年から新たな事業を開始した。GLP-1受容体作動薬を服用する会員向けの、特別プログラムである。

GLP-1受容体作動薬とは、2型糖尿病の患者が服用する薬であり、血糖値を下げ体重を減らす働きがある。体内にあるホルモンのGLP-1と同じ動きをすることで、インスリンを分泌させ、また胃の働きを遅くして満腹感を持続できる。

Omada Healthの特別プログラムは、最終的にGLP-1受容体作動薬の服用をやめ、薬だけに依存しない治療を目指すものだ。

2025年1月、Omada Healthはこのプログラムを受けた患者に関するデータを発表。プログラムで、服用をやめられた患者の、服用中止から16週間後の体重は平均0.1パーセント減だった。GLP-1受容体作動薬は、必要とされるトレーニングなしに服用をやめると、体重が増加するケースが多々ある。つまり、プログラムは一応の成功を見ているといえよう。

GLP-1受容体作動薬服用者向けのプログラムは、糖尿病のケアから派生したもの。上場し、幅広い投資家からの視線が集まるようになり、今後、同様の展開もありそうだ。

まとめ|糖尿病・高血圧のケアで重篤な疾患になるのを食い止める

Omada Healthによるサポートの中心となる糖尿病や高血圧は、先進国の国民が陥りやすい身体の状態であり、それらとの闘いの歴史も長い。糖尿病は昏睡のような重い症状が見られる場合もあるが、それ自体がただちに死へと結びつくわけではなく、高血圧も同様である。

しかし、これらを放置すれば脳血管系、心臓などの疾患に至る可能性が高まる。よって、Omada Healthが行おうとしているのは、病の入り口で進行を止め、重篤化を防ぐ試みといえよう。

テクノロジーや通信などインフラがますます進化していけば、従来から行われてきた予防の高度化が期待できる。



参考文献:
※1:Omada Health debuts on Nasdaq at $19 per share, Jessica Hagen, MobiHealthNews(リンク
※2:オマダ・ヘルス、IPO価格から40%上昇しNasdaqにデビュー, Luke Juricic, Investing.com(リンク
※3:Omada Health(リンク
※4:Omada Health Launches GLP-1-Specific Program for Patients Battling Chronic Obesity, Omada Healthプレスリリース(リンク
※5:GLP-1とは?, Novo Nordisk「糖尿病サイト」(リンク


 

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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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