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ALS患者がNeuralinkのインプラント手術を受けたと本人が発表。報道からそのポイントを探る

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Bradford G. Smithという男性が、X(旧Twitter)上でNeuralinkのインプラント埋め込み手術をしたと2025年4月28日、投稿した。Smith氏は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者で、インプラントの脳波読み取りでコミュニケーションが楽になったという。

Neuralinkからの公式な声明は、確認できない。しかしMIT Technology Reviewは、Elon Musk氏本人や実態はMusk氏と噂されるXアカウントとSmith氏とのやり取りを報じた。Musk氏は、Neuralinkの創業者である。

BMIへの希望と懸念

NeuralinkはBrain Machine Interface(BMI)開発企業である。以下の記事でも、BMIについて取り上げている。

参考記事:NeuralinkとBMI。どのような技術か?競合の動向は?

一言にすれば、脳波を読み取りそれをコミュニケーションや何らかの作用を及ぼすことを目指すのが、BMIという技術だ。そのため、ALSや他のコミュニケーションが難しい疾患を持つ人から、BMIが生きる希望のような受け止められ方をするケースも見られる。

実際、SmithもNeuralinkに参加したいとの意図で、2024年から目立つ行動をしていたとDeseret Newsというメディアに語っている。

一方で、機械を通して間接的に人間が介在する、コミュニケーションを操作できるおそれもあるといった点から、BMIに対しては倫理的な懸念も存在する。この点で、日本神経科学学会は著名SF小説の「ロボット4原則」になぞらえ、「BMI倫理4原則」を提言。次の通りである。

  1. 戦争や犯罪にBMIを利用してはならない
  2. 何人も本人の意思に反してBMI技術で心を読まれてはいけない
  3. 何人も本人の意思に反してBMI技術で心を制御されてはいけない
  4. BMI技術は,その効用が危険とコストを上回り,それを使用者が確認するときのみ利用されるべきである

また、安全面での懸念もある。とりわけNeuralinkのインプラントの場合、ワイヤー状のものを電極として脳に縫い付けるが、10年以上腐食しないのはあり得ないのではないか、との意見が存在する。

目を使わず「テレパシー」でコミュニケーション

今回のSmith氏の話にフォーカスすると、ALS患者へのNeuralinkのインプラント手術はこれが初めてになるという。以前は2人、手術を受けており、いずれも四肢に麻痺症状のある人だった。

ALS患者であった医師・政治家の故徳田虎雄氏は、文字盤を目で追うというコミュニケーション方法を採っていた。MobiHealthNewsの報道や前出のMITの記事によると、Smith氏も以前は似た方法でコミュニケーションしていたというが、文字盤にカーソルを当てる作業を脳のイメージだけで行えるようになった。報道では、この動きを「テレパシー」と表現する。また、XのAIチャットボットであるGrokも併用しているという。

Smith氏の例からは、たしかにBMIへの希望は感じられる。一方で、安全性、倫理面での懸念は解決できておらず、開発者らのこの点への努力も必要となるだろう。




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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