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いちごの自動生産を手がけるOishii Farmが約240億円調達、日本政策投資銀行や野村不動産らが参画

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Oishii Farmは、いちごを中心とした高付加価値作物を、環境制御型の植物工場で量産するフードテック企業である。米国ニューヨーク近郊のニュージャージー州で創業し、葉物野菜以外の安定量産が難しいとされてきた植物工場領域で、いちごの商業生産に取り組んできた。現在は米国東海岸を中心に販売地域を広げ、2026年2月にはカナダ・トロントでも販売を開始している。

2026年5月、同社はシリーズCファーストクローズで総額約240億円を調達したと発表した。内訳はエクイティ180億円、デット60億円で、累計調達額は525億円となる。既存投資家のスパークス・アセット・マネジメントをリード投資家とし、朝日工業社、日本政策投資銀行、野村不動産、ミスミグループ本社、三井住友信託銀行などが新規投資家として参加した。

いちご植物工場は、農業から製造業型インフラへ

今回の調達で注目すべきは、Oishii Farmがいちご植物工場を、単なる栽培技術ではなく、農業と製造業を組み合わせた生産インフラとして拡張しようとしている点である。植物工場は、気候や季節に左右されにくい安定生産が期待される一方、設備投資や運用コストが大きく、拠点を増やすには栽培ノウハウだけでなく、設備調達や保守まで含めた再現性が必要になる。

この文脈で重要なのが、ミスミグループ本社との資本業務提携である。ミスミは2026年3月、Oishii Farmとの提携を発表し、アグリテック分野へ本格参入する方針を示した。記事によると、ミスミは米国Fictivを通じてOishii Farmのメガファームに機械部品を供給しており、今後は東京都羽村市のオープンイノベーションセンターや将来の農場にも部品を安定供給する予定とされる。

これは、いちご植物工場のスケールにおいて、農業技術だけでなく、製造業型のサプライチェーンが重要になることを示している。植物工場を複数拠点へ展開するには、施設ごとに個別最適で作り込むのではなく、部品、設備、設計・調達プロセスを標準化し、同じ品質で再現できる体制が求められる。

つまり、同社の狙いは高級いちごのブランド化にとどまらない。いちご植物工場を、栽培・設備・部品供給・自動化・保守まで含む「生産システム」として標準化し、海外展開可能な形に近づけることにある。今回の調達は、フードテックが農業単体の革新から、製造業の仕組みを取り込む段階へ進んでいることを示している。

世界最大級のR&D拠点でいちご植物工場を標準化

同社の構想を支えるのは、いちご栽培に特化した環境制御技術と量産ノウハウである。2025年には東京都羽村市に延床面積15,000㎡以上の植物工場研究施設「オープンイノベーションセンター」を開設することを決定し、すでに一部の研究開発と研究用いちごの生産を開始している。

同センターは、2026年夏に正式開所予定で、世界最大規模の植物工場専用研究開発拠点になるとされる。数万株規模の実証栽培が可能で、数百パターンの異なる栽培環境を同時並行で検証できる設備を備える。いちごは温度、湿度、光、受粉、病害管理など複数条件の最適化が必要な作物であり、こうした大規模な検証環境は、栽培レシピの改善と量産性向上に直結する。

技術的に重要なのは、同社が栽培設備だけでなく、植物工場に適した品種開発にも踏み込んでいる点である。公式発表では、同センターの仕組みを活用し、世界初となる植物工場専用品種の開発にも着手しているとされる。つまり同社は、既存のいちごを閉鎖環境で育てるだけでなく、植物工場という生産環境に合わせて、品種・栽培条件・設備・自動化を一体で最適化しようとしている。

問われるのは、いちご植物工場モデルの産業化

今後の評価軸は、同社が米国で商用化してきたいちご植物工場モデルを、どこまで再現性のある事業モデルへ高められるかにある。スパークス・アセット・マネジメントの阿部修平氏は、同社が研究開発から実証、商用化までを一気通貫で進め、米国18州に販売を拡大してきた点を評価している。

また、植物工場を不動産・設備投資の対象として成立させられるかも重要になる。野村不動産の松尾大作氏は、植物工場を将来性の高い不動産アセットと捉え、大規模施設展開で協業する姿勢を示している。つまり今後は、農産物の品質だけでなく、施設展開の投資効率や立地開発の再現性も問われる。

中長期的には、日本発の農業技術と工業技術を組み合わせたモデルを、グローバルに展開できるかが焦点となる。日本政策投資銀行は、同社の取り組みを、種苗や施設園芸にIoTやロボティクスを組み合わせた新たな食料生産モデルとして位置づけている。今後は、ブランドいちごの販売拡大にとどまらず、植物工場を一つの産業モデルとして輸出できるかが問われる。


参考文献:

※1:シリーズCファーストクローズで240億円を調達 日本の技術を基盤に、オープンイノベーションで「100兆円産業」創出への挑戦を加速( リンク

※2:同社HP( リンク

※3:Oishii Farm Corporationとの資本業務提携に関するお知らせ( リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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