フィジカルAI向けパケットプロセッサを開発するEthernoviaが9,000万ドル超を調達、車載・ロボットシステムの中核ネットワークを担えるか
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Ethernoviaは米国の半導体スタートアップであり、自動運転車やロボットなどで使われる次世代の車載・エッジ向けネットワーク半導体を開発している。カメラやセンサー、AI処理、制御系といった大量のデータを、遅延を抑えながら安定してやり取りすることを目的とし、Ethernet技術を基盤にした独自のSoCを提供する。主な用途はADASや自動運転だが、産業分野への応用も視野に入れている。
同社はSeries Bラウンドにおいて、9,000万ドル超の資金調達を実施した。リード投資家はMaverick Siliconで、Socratic PartnersやConduit Capitalなどが新規参加し、Porsche SEやQualcomm Venturesといった既存投資家も引き続き出資している。調達資金は次世代パケットプロセッサの開発・量産加速に加え、ソフトウェアおよび顧客案件の拡充に充てられる。
フィジカルAIのボトルネックは計算性能ではなくデータ移動
本件で注目すべきは、同社がフィジカルAIにおける本質的な制約を「計算性能」ではなく「データ移動」にあると定義している点である。自動運転やロボティクスでは、センサー入力、AI推論、制御信号が密接に連動しており、遅延やばらつきは性能だけでなく安全性にも直結する。演算能力の向上だけでは、この構造的課題は解決しない。
同社はこの課題に対し、単なる車載Ethernetの高速化では不十分とし、パケットプロセッサを中核としたデータバックボーンの再設計を打ち出している。ネットワーク側でデータの集約や制御を担うことで、フィジカルAIシステム全体の挙動を安定させようとしている点が、同社の特徴である。
さらに、ゾーンナル/集中型アーキテクチャへの移行を前提に据えている点も重要である。これは、ゾーンナル/集中型アーキテクチャを前提とするOEMの設計移行を見据えた選択であり、実装されれば車両内でデータが集約される中核レイヤを担うことになる。一方で実装・検証の難易度は高く、今回の大型調達はそのリスクを取って量産フェーズまで踏み込む意思表明と考えられる。
AIとセンサーをつなぐために通信を“処理”に変える
同社の技術は、フィジカルAIのシステムにおいて「神経系」に相当するネットワーク層を中核に据えている点に特徴がある。同社は自動運転車やロボットを、周囲を観測し、理解し、判断し、行動する自律的な機械として捉えており、その一連の処理を支える基盤として、センサーからCPUやGPUに至るまでのデータの流れそのものを設計対象としている。
こうした問題意識は、CEOのRamin Shiraniがニューヨーク証券取引所でのインタビュー内容とも重なる。同氏は、フィジカルAIではAIプロセッサやセンサー単体に注目が集まりがちだが、本質的にはそれらをどうつなぐかが重要だと述べている。同社を自律的な機械の「神経系」と表現する背景には、接続性こそがフィジカルAIの土台になるという考え方がある。
この思想を形にしたものが、車載・エッジ向けに設計された高性能パケットプロセッサである。同社はネットワークを単なる通信手段としてではなく、データの集約や制御、優先度の管理までを担う処理レイヤとして位置づけている。知覚から推論、制御、動作に至る一連のAIパイプラインを安定して動かすために、演算性能ではなくデータフロー全体を押さえにいく点が同社の技術的特徴である。
OEMの車載・ロボットシステムが量産に入る段階で、中核として認識されるかが勝負
短期的には、同社の技術が実際の車載・ロボットシステムに組み込まれ、量産フェーズに入れるかが最大の焦点となる。パケットプロセッサ中心という設計は概念としては明確だが、OEMやシステムインテグレーターにとっては設計・検証の負荷が高く、設計採用(design-in)をどこまで獲得できるかが進捗を左右する。
中期的には、ゾーナル/集中型アーキテクチャの普及が追い風となる可能性がある。一方で、ネットワーク機能を既存SoCに統合しようとする動きや、大手半導体ベンダーとの競合も避けられない。同社が「通信を処理レイヤとして切り出す必然性」を、実装面と運用面の両方で示せるかが鍵となる。
今回の資金調達は、この構造的に難易度の高い領域に正面から取り組む意思表明と位置づけられる。技術の正しさだけでなく、どの設計フェーズで、どの役割として入り込めるか。その現実解を示せるかどうかが、同社の次の評価を決めるだろう。
参考文献:
※1:Ethernovia Raises Over $90 Million Series B to Scale Leading-Edge Autonomy and Physical AI Networking Chips( リンク)
※2:同社HP( リンク)
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