イスラエルの光子プロセッサ開発企業、CogniFiber|AI推論の高速化、効率化はどのようになされるのか

これまで、フォトニクス(光)を活用したコンピューティングについて何度か取り上げてきた。今回は、光子プロセッサを開発するイスラエルのCogniFiberを取り上げる。
電子ではなく光を使ったプロセッサは高速の処理を実現し、CogniFiberの場合、AI推論が現状の1000倍まで速くできるとしている。一方で、乗り越えるべき課題もある。それらを見ていきたい。
CogniFiberの企業概要|CEOが構想する「脳に着想を得たコンピューティング」
まず企業概要から取り上げる。
CogniFiber
- 設立年:2018年
- 拠点国:イスラエル
- 最新資金調達フェーズ:シリーズA
CogniFiberの共同創業者はEyal Cohen CEOとZeev Zalevsky CTOの2人。両者とも、博士号を取得している。
Cohen氏は、神経科学、ハードウエア設計、機械学習アルゴリズム、光子コンピューティングといった多方面にわたる研究や開発を行ってきた。脳に着想を得たコンピューティングを構想しており、CogniFiberでそれを実現していくものと見られる。
Zalevsky氏は、バールイラン大学教授で、同大学工学部長を務める。CogniFiber以外にも、共同創業者兼CTOに就いている自身の研究室からスピンアウトしたスタートアップがあるという。
Cohen CEOのアカウントで公開されているCogniFiberの企業紹介動画
CogniFiberが目指すものは
前述のようにCohen CEOは、人間の脳のようなコンピューターを志向する。それを具現化するのが、光だ。
CogniFiberのウェブサイトには、次のような文言が書かれている。
「現在の光ファイバーは、高速データ伝送において群を抜いて優れた手段です。光ファイバー同士を接続することは、速度、堅牢性、拡張性、そしてコストの面で最良のデータインターフェースです。光ファイバーは世界中で大量生産されており、サプライチェーンのリスクはほぼありません。
もし光ファイバーをプロセッサに変えることができれば…」
光ファイバーは現代社会における通信のツールとして、高速性から不可欠なものとなっている。一方、光を半導体に取り入れる動きも活発だ。CogniFiber以外にもさまざまな企業が、フォトニクスを用いた半導体の研究開発を進めている。
参考記事:LNTFデバイス開発のHyperLight、VCが主導する53億円の資金調達で成長の加速を目指す
では、それらとCogniFiberとの違いは何か。
これまでの光を使った半導体は、電気回路の一部を光に置き換えるものだった。しかし、CogniFiberの技術は光ファイバーを計算媒体とするもの。光子が光ファイバー内を移動する間に計算を行う。CogniFiberは、この技術を「人間の脳と同様」と、Cohen氏の構想に沿ったものだと説明している。
DeepLight
以上のアイデアを「DeepLight」という光子プロセッサとして形にすべく、CogniFiberは開発を進めている。
同社の説明や報道を元にDeepLightについて触れると、AI推論においてNVIDIAのGPU(100A)より1000倍、高速で実行ができる点を大きくアピール。この計算能力により、消費エネルギーやデバイスのスペースを90パーセント以上、削減する。また、リソースの削減によってAIデータセンターで必要となる専用の冷却設備が不要になる期待がある。
こうした光子プロセッサの素材となっているのが、ガラスだ。シリコンより供給リスクが低く、コストも抑えられる。しかし、ガラスを光子プロセッサに使っていくには、欠点もある。光子は電子より安定化が難しく、また従来のトランジスタと同様の方法で素子を配置していけば、電子と比べて大きくなってしまう。
後者の欠点については、DeepLightをエッジ向けにスケールダウンしシステムで効率を高めることにより、省スペースの実現を目指していくようだ。
また、CogniFiberは次の概念実証(PoC)を完了したと説明している。
- トレーニング可能なフォトニックニューロン: チャネルあたり 0.5Gbps
- 高速フォトニック チップ: データ フロー圧縮用の 4 ビット D2A
- パターン認識用の 32 チャネル全光子 MAC オペレータ
- Aurora: 1 億回/秒の推論速度を誇るフルシステム フォトニック ML/AI (4 層分類器)
誤解を恐れず非常に簡単な説明をすると、1点目はニューラル素子を500Mbpsの処理速度で動作させた、2点目はデジタルからアナログへの変換を実現し電力消費の低減につなげられるということ、3点目は電気に変換せず光子だけで計算を実現、を意味する。4点目のAuroraとは、CogniFiberが開発したAIハードウエアで、DeepLightを実装している。
ニュースから追うCogniFiberの動向|最新情報で製品の市場投入は2027年
CogniFiberは、設立からこれまでで公式に発表された事柄が非常に少ない。報道される機会も少ないが、その中から同社の分かる限りの情報を取り上げたい。
2022年、CogniFiberはシリーズA資金調達ラウンドを完了した。調達額は$6m(約7億円。当時レート、以下同)で、プライベートエクイティーファンドのChartered Groupが主導した。この際、2023年までに4億回/秒のパフォーマンスを実現するとしていたが、前述の通り、完了しているPoCでは1億回/秒となっている。
さらに、2024年7月にも資金調達を行った。このときの調達額は$5m(約8億円)で、再びChartered Groupが応じた他、ベンチャーキャピタル(VC)のEastern Epic Capitalsも応じている。こちらの資金調達時には、製品の市場投入が2027年になると報じられた。
また、最後の資金調達を報じるCTechの記事によると、同社の従業員数は13人と報じられている。企業データベースのCrunchbaseで同じく従業員数は10人以下としており、少数精鋭で事業を進めていることが想像できる。そうであれば、情報発信をする業務も開発担当者が兼ねていると見られ、CogniFiberがベールに包まれた企業のように感じる理由といえそうだ。
まとめ|CogniFiberの今後は
フォトニクスを使ったコンピューティングの構想は、これまでもさまざまな企業が実現を試みてきた。身近な、現在進行の事例を挙げれば、NTTの通信・コンピューティング構想である「IWON」は、技術的基盤の一つにオールフォトニクスネットワークを挙げ、また光電融合型ではあるものの光プロセッサの開発を謳う。
CogniFiberは今のところイスラエル政府の後押しも見られるが、より実用的な技術に進化していくため、グローバルな通信やIT企業との協業も今後、あり得るだろう。
参考文献:
※1:CogniFiber(リンク)
※2:”Eyal Cohen, PhD”, LinkedIn(リンク)
※3:Prof. Zeev Zalevsky, SciProfiles(リンク)
※4:The Israeli startup developing processors that perform AI tasks 1,000 times faster than Nvidia, CTech(リンク)
※5:CogniFiber: Photonic Computing, Zoya Hasan, Semiconductor Engineering(リンク)
※6:Cognifiber Downsizes its System for Edge Computing With Breakthrough Glass Processors, EE Journal(リンク)
※7:IWON, NTT(リンク)
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