進展著しい中国発ヒューマノイド、マルチモーダルAIの進化が支える|2025年上半期の各社状況

中国でヒューマノイド(人型)ロボットの開発が加速している。
これを支えているのが、DeepSeekをはじめとした中国発のAIだ。ここに来てAIにおける大規模言語モデル(LLM)や大規模視覚言語モデル(VLM)の進歩が著しく、ヒューマノイドの進展を後押ししている。LLMの高性能化によって、より自然で複雑な人間とのコミュニケーションが可能になり、VLMによって視覚から得た多くの情報の高速処理とフィードバックが可能になった。
中国発ヒューマノイドについて、2025年上半期時点の状況を取り上げる。
経済成長鈍化、少子高齢化、AI振興がロボット開発を加速
中国政府がロボットやAI分野の推進策を積極的に進めていることは、ヒューマノイド開発が加速する要因にもなっている。
2015年に中国政府が発表した製造業発展のための国家的シナリオである「中国製造2025」では、重点領域10分野の一つにロボットが取り上げられた。2016年からは、政府が「ロボット産業発展計画」内でロボット産業振興の総合的計画を策定し、サーボモーターなどロボットに関連するコア技術の国産化を目指す。
中国がロボット産業に注力する理由はいくつかある。まず、成長が鈍化している中国経済の復活という大きなミッションが根底にある。次に、2015年まで実施していた「一人っ子政策」や医療技術の発達による少子高齢化の加速も一因となっている。
そして、これらロボット産業振興の方向性に、AI事業に対する国家戦略(次世代人工知能発展規劃(計画))が重なった。ここ最近では、トランプ関税で表面化した貿易摩擦に関連して、国内製造業の重要性が再認識されていることも無視できないだろう。
続いて、中国における具体的なヒューマノイドの開発例をいくつか挙げる。
中国ヒューマノイド開発はすでに第2世代へ
中国国内のヒューマノイド開発は、すでに第2世代をリリースするフェーズに入っており、2025~2026年には量産化を目指す企業が次々と現れている。
Unitree Robotics(宇樹科技)
もともと4足歩行ロボットを開発していたが、近年、2足歩行のヒューマノイドの開発に注力している企業が、Unitree Roboticsである。
自律的な歩行技術や高い運動能力に強みを持ち、最近では駆け足やカンフー動作、ジャンプやバク宙後にバランスを取る動画で話題となっている。第1世代の「H1」、第2世代の「G1」を発表しており、3D LiDARと深度カメラを用いて360度の環境認識が可能だ。二次開発可能なプラットフォームとしても提供する。
G1(Unitree Roboticsプレスリリースより)
AgiBot(智元機器人)
AgiBotは、元HUAWEI(華為技術)のエンジニアである彭志輝(Peng Zhihui)氏が2023年に設立したスタートアップ企業。
2024年にヒューマノイド「A2」、産業現場での作業を意識した堅牢志向の「A2-W」を発表した。このうち、A2-Wの積載容量は各腕で5キログラムとなっている。腕部分はヒューマノイドに似つつも、下肢部は車輪型だ。
研究開発用には、フルスタックのオープンソースロボットプラットフォーム「X1」モデルを発表している。学習を効率化するための大規模実機データセット「AgiBot World」をオープンソースで提供し、ロボット界全体の発展を目指す。
UBTECH(優必選科技)
UBTECHは、中国深圳市に本拠地を置くヒューマノイド開発企業。産業用途から教育用途、サービス用途など幅広いヒューマノイドのラインアップとなっている。
大阪・関西万博の中国館で同社の「Walker C」モデルが来場者との交流展示用に使用しているため、その点では現在の日本でも容易に見られるヒューマノイドといえよう。特に力を入れているのが産業用途で、大型モデルの「Walker S1」は現在、AudiやBYDなどの自動車工場において、品質検査工程や部品仕分けなどの実証実験目的で導入され、生産の効率化が表れている場面もあるという。
Walker S1(UBTECHプレスリリースより)
Fourier Intelligence(傅利葉智能集団)
2015年に上海で設立したFourier Intelligenceは、リハビリテーション分野などで実績ある技術を元に2019年からヒューマノイド開発に着手。2023年には第1世代の「GR-1」、2024年に第2世代の「GR-2」を開発している。GR-2は身長175センチメートル、体重63キログラム、全身の自由度(関節)が53、片腕の運動負荷は3キログラムとなっている。
GR-2(Fourier Intelligenceプレスリリースより)
同社のヒューマノイドはすでに銀行やカーディーラー、国際会議、観光地など数十カ所で活躍しており、2024年4~6月期までの累計納入台数は100台以上となったという。
Xpeng Motors(小鵬汽車)
中国のEVメーカーとして知られるXpeng Motorsは、モビリティとAI技術を核として空飛ぶクルマとともにヒューマノイドの開発に力をいれている。
「IRON」という名のロボットを開発しており、2026年の量産に向けて同社の広州工場でトレーニングを続けている。垂直統合型の開発体制を採り、AIチップ「図霊(TURING)」や独自の関節機構などを自社で開発し、採用する。
上海モーターショーで公開されたIRON(Xpeng Motorsプレスリリースより)
変わる開発体制が中国産ロボットの急速な発展に寄与
ロボット技術は、ものづくりの総合力が問われる新しい産業分野といえる。今まで「世界の工場」と呼ばれてきた中国も、最近は市場をベトナムやインドネシアなど他のアジア圏の国にその地位を奪われ、さらに国内経済の鈍化やトランプ関税の影響などで、製造業のあり方を見直す機運が高まる。
過去、部品産業やファウンドリーとして機能してきた中国の製造業は現在、日本が得意としてきた垂直統合型産業の形態を採り始め、新たなフェーズに入ろうとしている。
急速に力を付けたAI技術も転機の一端だ。DeepSeekのような中国発AIが世界に認められたことは、中国産業の自信につながったことだろう。そしてそれが、かつて米国でソフトウェア開発を加速させたオープンソースモデルによって支えられていることは、以前の中国からは想像のつかない革新的な現象といえそうだ。
参考文献:
※1:中国のロボット産業の動向, NEDO(リンク)
※2:中国国務院は「次世代人工知能技術発展計画」を発表, 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(リンク)
※3:Unitree Robotics(リンク)
※4:AgiBot(リンク)
※5:Agibot A2 Humanoid Robot w/ Advanced AI, Top 3D Shop(リンク)
※6:Agibot Lingxi X1, Looking Glass Services(リンク)
※7:UBTECH(リンク)
※8:Audi integrates Walker S1 robot for smarter, safer quality inspections in China plant, Jijo Malayil, Interesting Engineering(リンク)
※9:China: Walker S1 humanoid robot starts manual jobs at world’s largest EV maker, Sujita Sinha, Interesting Engineering(リンク)
※10:Fourier Intelligence (リンク)
※11:Fourier Intelligence’s founder breaks down what’s next for humanoid robots, QuFeed(リンク)
※12:NVIDIAのファンCEOも注目。人型ロボットの中国「FOURIER」、シリーズEで170億円調達, 36Kr Japan(リンク)
※13:Xpeng Motors (リンク)
※14:中国EV大手・小鵬汽車、独自人型ロボット「IRON」2026年量産へ 実地訓練映像も公開, 36Kr Japan(リンク)
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