炭素除去プロジェクトを手がけるChestnut Carbon社がシリーズBで9000万ドルを追加調達

Chestnut Carbon は、2022年に米国で創業されたカーボンリムーバル企業である。農地や牧草地を森林に転換し、自然に基づく炭素除去プロジェクトを展開している。同社は植林を通じて炭素を吸収し、国際的に認証された炭素クレジットを発行する。
2025年9月、同社は シリーズBで9,000万ドルを追加調達し、シリーズB全体の調達額は 2億5,000万ドルに達した。今回の追加出資は Canada Pension Plan Investment Board(CPP 投資委員会) が主導。同社は米国の炭素除去プロジェクトとして初めて、最大 2億1,000万ドルのプロジェクトファイナンス枠を確保している。
米国では温室効果ガス排出削減の取り組みが進んでいるものの、大気中からの二酸化炭素除去は十分に広がっていない。特に自然を活用した炭素吸収プロジェクトは、信頼性や大規模展開の仕組みが整っておらず、企業や自治体が利用できる手段は限られている。また森林再生や保全の取り組みは存在するが、地域社会の合意形成や長期的な維持管理の難しさも存在する。
同社は、農地や牧草地を森林に再生するプロジェクトを通じて、信頼性の高い炭素クレジットを安定供給する仕組みを整備している。独自のMRV(計測・報告・検証)技術を用いて透明性を確保し、効率的な運営を可能にすることで、大規模かつ持続可能な炭素除去を実現しようとしている。
また、米国各地に展開を広げることで気候変動対策に資するだけでなく、生物多様性の回復や地域雇用の創出にもつなげ、環境と社会を同時に支える解決策を打ち出している。
土地選定・森林データ収集・モデリングの三つの中核技術で、自然由来の炭素除去を実現
先述の課題に対して同社は、土地選定、森林データ収集、モデリングという三つの技術を組み合わせ、信頼性の高い炭素除去を提供している。
同社は「Chestnut Land Explorer」を活用し、公開データと独自データを統合して米国全土を解析している。土壌や植生条件を科学的に評価し、炭素吸収効率の高い土地を選定。さらに2024年に特許を取得した携帯型デバイスにより、森林インベントリを従来より迅速かつ低コストで実施できる。木の高さや生存率を正確に測定可能となり、従来は専門資格が必要だった調査を幅広い技術者に任せられるため、コスト削減と事業拡大が同時に進められている。
収集データは独自のモデリングツールに組み込まれ、USDAの森林シミュレーターと統合して60年以上先までの炭素吸収量を予測する。地域特性や伐採履歴を反映し、第三者基準に沿った検証で信頼性の高いクレジットを算定。継続的なデータ更新により予測精度を高め、透明性ある炭素除去を保証している。これにより投資回収性と長期的な環境効果の両立が実現し、持続的な森林再生の仕組みが支えられている。
保険対応と医師ネットワークを軸にした全米展開
今回の資金調達によって、Chestnut Carbon は森林再生プロジェクトの拡大と炭素クレジット供給体制の強化を加速させる。すでに米国南部8州で6万エーカー以上の土地を取得済みであり、今後もさらなる拡張を計画している。
投資家側の視点として、CPP Investments のサステナブル・エナジー部門責任者ビル・ロジャース氏は「今回の追加投資は、エネルギーバリューチェーン全体で優れた機会を見出すという当社の姿勢を示すものだ。高品質で検証可能な炭素除去プロジェクトは、世界的な脱炭素目標の達成を支えると同時に、長期的な価値を生み出す」と述べ、信頼性の高さを評価した。
一方、同社CFO グレッグ・アダムズ氏は「CPP Investmentsをはじめとする投資家の支援は、当社が品質と持続性を保ちながら事業を拡大するために不可欠だ。私たちは顧客の脱炭素目標達成を支援し、長期的に信頼されるパートナーであり続ける」と語り、顧客と市場へのコミットメントを強調した。
今後、同社は自然由来の炭素除去を単なる補完的手段ではなく、エネルギー移行を支える“基盤インフラ”として制度設計や資本市場に統合していくことを狙う。
その実現に向け、技術によるMRVの高度化、長期プロジェクトファイナンスを通じた資本の確保、そして投資家・顧客双方からの信頼醸成という三本柱により、事業拡大を加速させる構えだ。
参考文献:
※1:Chestnut Carbon Raises an Additional $90 Million for Series B( リンク)
※2:同社公式HP(リンク)
※3:同社ホワイトペーパー(リンク)
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