特集記事

CES2026~ウェルネス・ヘルスケア最前線、技術は価値創出の壁を越えられるのか~

INDEX目次

CESでも大きな存在感を放つウェルネス・ヘルスケア領域。多くの企業が関心を持ち、生体センシングなどを活用した新規事業に参入する一方で、この分野は長年、ある大きな課題に直面している。

それは「価値創出の壁」である。
本記事では、CES2026をこの視点から整理・考察していく。

ウェルネス・ヘルスケアにおける価値創出の壁とは

この「価値創出の壁」は、実際にこの分野で事業開発やマネタイズに取り組んだ経験がある人なら、ほとんどのケースで直面する課題である。

とりわけ、現在も大きなトレンドである「生体センシング」を活用した取り組みにおいて、この壁は頻出する。つまり……

「結局のところ、測定できたとして、それはユーザーがお金を払ってまで得たい価値なのか?」

という問いである。

  • 「このバイタルサインが測定できたら、価値があるんじゃないか?」
  • 「『健康』か『不調』かがわかったら、健康意識の向上につながるのではないか?」

企業はこうした期待や仮説のもとに事業を企画する。

しかし、ウェルネス・ヘルスケアの課題設定は、多くの場合ユーザー側にとってバーニングニーズ(お金を払ってでも今すぐ解決したい課題)になっていないことが多い。その結果、無料でテストユースしてもらうことはできても、ペイドユーザーへの転換が難しいという問題に直面する。

測定と利用価値の乖離・面倒くささの障壁

この問題が起こる原因には主に2つの要素がある。

① 測定と利用価値の乖離
生体センシングを活用した多くの取り組みでは、「測れるようになったこと」自体が価値として語られがちである。

しかしユーザー視点に立てば、価値は測定そのものではなく、それによって「行動が変わるか」「不安が減るか」「意思決定が楽になるか」「生活の質が改善するか」といった利用価値にある。
この「測定価値」と「利用価値」の間に大きなギャップが存在するケースが頻繁に見られる。

② 「面倒くささ」の障壁
そもそもウェルネス・ヘルスケアは「未病」の取り組みも多く、不調になる前の異変を捉えて対策し、病気を防ぐことが目的となる。しかし、ユーザーとしてはまだ問題が顕在化していないため、予防のために面倒な手間はかけたくないのが本音である。

つまり、ユーザーがいかに意識せず、毎日の活動や習慣の中で自然に測定できるか、という点が極めて重要になる。

CES2026ではこれらの壁を乗り越える兆候は見られたのか

こうした業界のトレンドと課題を踏まえたうえで、今年のCES2026はどうだったのかを振り返りたい。結論から言えば、状況は大変興味深い方向へ変化している。

まずはシンプルに、代表的な3社について紹介する。

Withings:Longevity Scoreを判定するスマート体重計 Body Scan2

CESで毎年注目されるWithingsは、今年、高機能スマート体重計「Body Scan 2」をローンチし、イノベーションアワードを受賞した。コンセプトは「Longevity Station(長寿ステーション)」。従来の体重計の枠にはまらない健康テクノロジーとなっている。











このように見た目は普通の体重計と大きく変わらないが、足元及びグリップ部分に電極があり、心電図も測定ができる。今回新しい主な機能の特徴は以下3つである。

① Cardiovascular Performance
高血圧リスクやECG&AFib検知などの機能

②Metabolism Efficiency
ボディーバランスや代謝プロファイルなどの計測

③Enhanced Longevity
パーソナライズされた長寿ガイダンス
健康状態トレンドの変化の初期検知









とりわけ、健康状態を総合して評価されるLongevity Scoreなるものは、大変興味深い。従来あったような単純なパラメータ―だけで判定されるのではなく、ECGなどの医療グレードのセンサも活用して評価を行っていると想定される。

ハードウェアの価格+サブスクリプションによってユーザーには機能が提供され、Longevity Scoreの判定やパーソナライズされたガイダンスを得るためには、サブスクリプション月額9.95$を払わなければいけない。

Vivoo:在宅での簡易尿検査キット

毎年、CESでは大きなブースを構えるCES Innovation Awardの常連である。1本の検査スティックに尿を当て、化学反応によってスティックの色が変化するのをスマートフォンで撮影。データを解析することで、手軽に以下のパラメータを測定することができる。

  • 栄養・ミネラル: ビタミンC、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム(塩分)
  • コンディション: 水分補給の状態、尿のpH(体の酸性/アルカリ性)、酸化ストレス度
  • ダイエット・内臓: ケトン体(脂肪燃焼の状態)、ナトリウム

今回のCESでは、Vivoo Smart Hygienic Padという製品でイノベーションアワードを受賞している。

生理用品に診断機能を統合し、経血やおりものをスマホで解析する新技術である。pHや感染症、排卵などを日常の中で非侵襲的にモニタリングできる。臨床介入なしでリアルタイムの健康洞察を提供することができるというものだ。

Vivoo Smart Hygienic Pad

画像はCES公式ウェブサイトより引用

Vivooについてコメントをすると、まず、これまですでに100か国以上で、300万個のテストキットが販売され、ユーザー数は70万人を超える、商業的にある程度成功していると見られることが大きい。

製品によって単価が15.99$~39.99$とやや異なるが、仮に1製品平均20$程度としたときに、これまで累積で上げた売り上げは6,000万ドル(=約90億円)となる。これを複数年で売り上げてきているが、特に近年は大きく成長していると想定すると、おおよそ年間20-30億円のビジネスになっていてもおかしくはない。ヘルスケア×生体センシング領域でこれだけ商業的に成功している企業というのは決して多くない。

NuraLogix:非接触生体センシング技術で健康度を測定

カナダのヘルステック企業NuraLogixは、CES2026において、家庭用健康管理のパラダイムシフトを象徴する「Longevity Mirror」を発表した。

このデバイスは、従来通り同社が確立した技術である独自の「経皮光学イメージング」技術を基盤としており、鏡の前にわずか30秒間立つだけで、顔面の微細な血流変化から多角的な生体情報を非接触で算出する。

最大の特徴は、非接触での簡易な測定にも関わらず30種類を超える健康指標の提示を行うことができる点にある。心拍数、呼吸数、ストレスレベルといった基本データに加え、血糖値のリスク予測、さらには心血管疾患や糖尿病の罹患リスクをAIが瞬時に分析する。

また「Longevity Score」機能も実装。これは現在の生体データに基づき、ユーザーの生物学的な年齢や健康寿命を可視化し、それらを延ばすためのパーソナライズされた行動改善案を提示するものである。

昨年までに発表されていた製品は病院などのBtoBを想定したものであったが、今年発表されたLongevity MirrorはtoCビジネスも想定されている。なおBtoBではすでに顧客企業は数多く存在するということである。







実際に長蛇の列に並んで筆者も体験したが、驚くべきことに、筆者が健康診断で頻繁に引っかかる「Hypercholesterolemia(高コレステロール血症)」の値が悪い結果が出た。経皮光学イメージングとデータ解析により、このようなことができるというのは革新的である。

NuraLogixが提示するこの鏡は、日常生活の中に「摩擦のない検診」を組み込むことで、病気の予兆を早期に捉え、未病の段階での介入を促す。家庭における予防医療を具現化する、次世代の「健康の鏡」といえる。このミラーは1年間のサブスクリプション込みで899ドルの小売価格となり、その後は年間99ドルの料金がかかるという課金モデルだ。

非常に革新的である一方で、毎日測定する必要が無い類のものであるため、toBはビジネスのイメージが付くが、同社が今回狙うtoCという形で、誰が実際に高いモチベーションで購入するのかはやや悩みどころである。例えば、toCにこだわらなければ、年1回の健康診断に加えて、この技術を活用した毎月の健康スクリーニングなどは有望な活用方法だろう。

ウェルネス・ヘルスケアで起こっていること

上記3社を見てもわかる通り、ポイントは以下である。

Point1. 商業的に成功している企業が出てきている

Vivooに見られるように、この分野では徐々に商業的に成功している企業が出てきている。ほかに、健康モニタリングデバイスで絶対的な地位を築いたOura Ringも、数百万個を販売しており、売上高は2024年の5億ドルから2025年には10億ドルに達するとも報じられている。

Point2. データ解析で健康評価を本格的に行えるようになってきた

特にこの数年で、この2つ目のポイントにおける変化が大きい。

背景には、溜めてきたデータと開発・検証による長年の蓄積で、ある程度の精度をもって、健康指標の評価ができるようになってきたことがある。NuraLogixの担当者にブースで話を聞いた際にも「複数年の時間をかけて、カフを装着した時にわかることとの相関をデータで確認してきた」と発言している。

R&Dに時間がかかることはヘルスケアデータ解析の1つの特徴であるが、近年のAIの進化も合わさり、ここにきてその進化が加速していると感じている。

また、心電図やHeart Rate Variability(心拍変動)、血流の変化といったデータは、非侵襲的に、精度良く計測が可能なパラメーターとして有望となっている。

Point3. 高度なデータ解析で実現するサブスク化

そしてデータ解析は「パーソナライズ化」と「トレンド分析」を可能にする。その個人がデータを蓄積すればするほど、過去とのトレンドがわかり、比較分析も可能となる。

Fitbit Premiumもこうしたモデルを狙っているが、解析できることが弱く、迫力がないことからユーザーの評価は芳しくない。

NuraLogixの健康指標には非常にインパクトがあった。そこでようやくこの領域はサブスクビジネスモデルが実現する可能性が高まる。

今後期待される業界の変化

今年のCESで注目されたWithings、Vivoo、NuraLogixに共通するのは、単一指標の提示ではなく、複数の生体データを統合・解釈し、「今の自分はどういう状態なのか」を一つの評価軸やストーリーとして提示している点である。Longevity Scoreに代表される総合指標は、その象徴といえる。また、体重計、尿検査、鏡といった日常行動に自然に組み込まれた測定手段は、「面倒くささの障壁」を大きく引き下げている。

重要なのは、これらが単なる技術デモに留まらず、サブスクリプションを含む形で実際にマネタイズされ始めている点である。

CES2026は、ウェルネス・ヘルスケアが「測れるが売れない」フェーズから、「解釈し、価値として届ける」フェーズへ移行しつつあることを示した転換点であるようにも感じる。今後、この流れを本物の市場に育てられるかどうかは、技術そのものよりも、利用価値設計と顧客接点の巧拙にかかっているだろう。

  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

CONTACT

お問い合わせ・ご相談はこちら