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米Atlas Data Storageがシードで225億円を調達。開発する合成DNAストレージは「安全保障にも影響を与える」と会長

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合成DNA用のデータストレージを開発する米スタートアップ、Atlas Data Storageは2025年5月5日、シードラウンドでの$155m(約225億円)の確保を発表した。

シードラウンドということからも分かるように、Atlasは2025年に設立したばかりの企業である。そのためか、ウェブサイトも連絡先が掲載されている程度の内容だ。よって、本稿ではプレスリリースを参考に、同社と今回の資金調達を取り上げる。

なお、Atlasの本社は、カリフォルニア州サンフランシスコに所在する。

ストレージ関連スタートアップの創業経験者がCEO就任

合成DNAとは、人工的につくられたDNAのこと。日本国内でも、顧客が設計したDNA情報から合成DNAをつくるサービスを展開している企業が存在する。新型コロナウイルスのためのmRNAワクチンは、合成DNAを世界で初めて実用化した例である。

Atlasは合成DNAの非常に高いデータ密度、1000年以上の耐久性、無制限で低コストのコピーが可能、拡張性といった特徴に着目。合成DNA技術と情報技術とを融合させた、データストレージの開発を進める。

コアテクノロジーは、「革新的な半導体チップと酵素工学の融合」「チップ上で高スループットかつ超並列な化学反応を実行する」といった説明にとどまっており、当面は企業秘密を守っていく姿勢であるようだ。一方、ストレージの永続性を保ちつつ電力消費を削減し、環境に優しいデータセンター構築へのコミットを明言しており、サステナビリティー対応を進めていく。

CEOを務めるのは、Varun Mehta氏。Mehta氏は、トラブルを予測することで信頼性を高めたビジネス向けストレージを開発したNimble Storageの創業者である。Nimble Storageは2017年、Hewlett Packard(HP)が買収に踏み切った。

また、これまでも複数の遺伝子関連のスタートアップに在籍したBill Banyai氏がCTOに、HPやOracleで副社長を務めていたGeorge Kadifa氏がエグゼクティブチェアマン(経営執行に関与する会長)に就く。

現CTOが在籍した企業から技術資産を買収

Atlasのシードラウンドには、複数のベンチャーキャピタル(VC)や投資会社が対応した。Jeff Bezos氏の投資会社であるBezos Expeditionsも参加している。

資金の使途は明言していないが、シードラウンドの完了と同時にTwist Bioscienceからの技術資産買収も発表した。よって、技術買い取りの原資となったことが考えられる。

Twist Bioscienceは、前出のBanyai CTOが2025年4月までCOOや副社長を務めた、Nasdaq上場の合成DNA開発企業。Banyai氏が開発した技術が含まれているとも考えられる。この点でAtlasは、Twist Bioscienceのスピンアウト(元の企業と資本関係を持たずに事業を切り出すこと)的要素も含んでいるように見える。

CEOのMehta氏は「Atlasは大容量ストレージにDNAを活用するパイオニアだ」とコメント。また、エグゼクティブチェアマンのKadifa氏も、次のようにコメントする。

「人工知能などの新技術は、ストレージの需要を加速させている。Atlasが開発するデータストレージ技術は、数十億テラバイトものデータを低コスト、低消費電力、低廃棄物で保存することを可能にすると確信している。

Atlasは主要技術分野における米国のリーダーシップを牽引し、これは長期的に経済と国家安全保障に計り知れない影響を与えるだろう」




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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