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新素材発見AIプラットフォームを展開するCuspAIが1億ドル超えを調達

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CuspAIはAIによるマテリアルズディスカバリー(新素材発見)を推進する英国発スタートアップ。ユーザーが求める特性を入力すると、AIが合成可能な素材候補を生成・評価し、発見速度を最大10倍に向上させる。自動車、半導体、エネルギー、気候テックなど多分野の大手企業と提携し、材料開発の新たなインフラ構築を目指している。

2025年9月、同社はシリーズAで1億ドル超を調達。リード投資家はNEAとTemasekで、Samsung Ventures、Hyundai Motor Group、NVIDIAのNVenturesなどが参加。AI・気候・製造業分野の著名起業家や研究者もエンジェルとして出資し、取締役には元ASML CTOや元BP CEOが参画。資金はプラットフォーム拡張と米・アジア展開に充当される予定。

AIが進歩しても、新素材創出は容易に進まない現実

新素材開発は長らく、研究者の経験と試行錯誤に依存してきた。実験やシミュレーションを重ねて最適構造を探る従来手法では、1つのブレークスルーまでに数年を要し、膨大なコストと時間を要する。加えて、研究データは分散し、企業間・分野間で共有が進まず、得られた知見が次の発見に生かされにくいという構造的な非効率が続いていた。

近年は環境負荷の低減やレアメタル依存の解消といった社会的要請が高まり、より複雑な制約条件のもとで新素材が求められている。しかし従来の探索速度では市場の変化に対応できず、自動車、半導体、エネルギー、化学産業など多くの分野で「必要な性能の素材が見つからない」「量産までに時間がかかる」といった課題が顕在化している。

人とAIが協働する新しい素材開発のかたち

CuspAIは、生成AIと物理シミュレーションを組み合わせて、新素材の分子構造を自動設計・評価するプラットフォームを開発している。ユーザーが求める特性を入力すると、AIが理論的に合成可能な候補を生成し、安定性や性能を解析。従来数年かかっていた発見プロセスを、数週間単位に短縮することを目指している。

同社の特徴は、単なる材料探索ではなく「実験可能性」を考慮した設計にある。AIモデルは既存の化学データや反応パターンを学習し、現実の実験・製造条件に適した構造を提案する。さらに生成結果は研究者が検証・再利用できる形で管理され、AIと人の協働による“自律型マテリアル研究”の基盤を形成している。

AIプラットフォームの高度化と産業分野への応用拡大

同社は今回のシリーズA資金をもとに、プラットフォームの大規模スケーリングを進める計画だ。AIによる材料探索と検証の統合をさらに高度化し、より多様な物性や用途に対応する。これにより、研究段階にとどまっていた成果を実産業の材料開発サイクルへと組み込み、実験から市場投入までの時間を劇的に短縮することを目指している。

今後、パートナーシップの深化と新領域への応用拡大を進める方針を示している。自動車、半導体、気候テック、化学などの既存分野に加え、エネルギー変換素材や環境浄化技術などへの展開も想定。特に、CO₂吸着やPFAS除去といった地球規模課題における実証プロジェクトを通じ、AIによる材料発見の社会実装を加速する計画だ。

事業面では、米国とアジアを中心に拠点とオペレーションを拡大し、グローバル展開を加速する。科学者・企業・AIモデルが連携する新しい研究基盤を構築し、持続可能な素材開発の世界標準を形成することが最終目標とされている。CuspAIは、材料発見を産業変革の起点とする「次世代マテリアル・エコノミー」の確立を見据えている。


参考文献:
※1:Securing our $100M+ Series A to Revolutionise Materials Discovery with AI(リンク

※2:同社公式HPリンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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