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希土類磁石製造スタートアップの米Vulcan ElementsがシリーズAで96億円を資金調達。10年後には数千トンの生産目指す

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米国内でネオジム・鉄・ボロン磁石を製造するスタートアップ、Vulcan Elementsは2025年8月11日、シリーズA資金調達ラウンドでの$65m(約96億円)の確保を発表した。

同社は2023年、John Maslin CEOとPiotr Kulik CTOにより設立。本社および工場は、ノースカロライナ州に置く。

安全保障面の懸念から国防総省も支援する企業

Vulcan Elementsが製造するネオジム・鉄・ボロン磁石は、電気自動車(EV)のモーターで使われることがよく知られる。一方、防衛装備品でもドローンやミサイルなど、多様な用途がある。

また、ネオジムは多くが中国で産出され、いわゆる旧西側諸国にとって安全保障上の懸念事項だ。Vulcan Elementsも自社の存在意義を、「米国と同盟国の安全保障の向上」であると、はっきりと明言している。

Maslin CEOは米海軍の元補給将校であり、原子力空母や原子力潜水艦の機密資材の調達を行っていた人物。共同創業者であるKulik CTOは、Vulcan Elementsの説明によると「米国で4人いる磁気科学教授の1人」であるといい、同社の仕事と並行してセントラルフロリダ大学准教授を務める。

さらに、Vulcan Elementsの「Chief of Staff」の職にあるJonah Glick-Unterman氏は、Condoleezza Rice氏・Bill Perry氏の両国防長官の議会活動に携わっていた人物であり、政官界との結び付きも見られる。実際、今回の資金調達を周知するプレスリリースにも、国防総省の支援を受けていることを明らかにしている。

製品は、米国および英国、オーストラリア、日本などに所在する企業とのパートナーシップがあってつくられるもの。特に資源確保の面では、オーストラリア企業の存在が大きいものと見られる。

資金調達後の8月26日には、米国の希土類酸化物メーカーであるEnergy Fuelsと覚書を交わしたことを発表。Energy Fuelsがネオジム・プラセオジム酸化物とジスプロシウム酸化物をVulcan Elementsに供給する。

ジスプロシウム酸化物(Energy Fuelsプレスリリースより)

「サプライチェーンを米国で再構築する」とCEO

シリーズAは、ベンチャーキャピタル(VC)が主導した。調達した資金について、「今後数年間で年間数百トン、10年後には数千トンの磁石生産へと規模を拡大していく予定」としており、生産拡大が主要な用途であるようだ。

Maslin CEOは、次のようにコメントした。

「シリーズAにより、Vulcan Elementsは時代と国家が求めるスピードと真剣さを持って事業を拡大できる。

投資家の皆様との支援は、Vulcan Elementsが創業以来、信じてきたことを裏付けるものだ。それは、規律を持って事業を遂行すれば、21世紀で最も重要なサプライチェーンの一つを、米国という地で再構築できるということである」




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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