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米核廃棄物処理のDeep Isolationが48億円を資金調達。カナデビア系などが投資

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核廃棄物処理スタートアップの米Deep Isolationは2025年7月24日、$33m(約48億円)の資金調達の完了を発表した。

同社は2016年、Elizabeth Muller氏により設立。現在、Muller氏はエグゼクティブチェア(取締役会の中心で、なおかつ、執行部にも近い立場)のポジションに就いており、CEOはかつてWaste Control Specialistsという放射性廃棄物処理企業を立ち上げプライベートエクイティー(PE)ファンドに売却した経験を持つRod Baltzer氏が務める。

本社はカリフォルニア州バークレー。

最大10年稼働分の核廃棄物を貯蔵可能な技術

Deep Isolationは、核廃棄物の最終処分場を設置する技術を有する。地上数百メートルまで垂直に穴を掘削し、目的とする岩層に到達すると掘削の方向を緩やかに水平方向へと変えていく。Deep Isolationによると、この岩層は「過去数百万年にわたって安定性を維持してきたことが確認されている」「飲料水帯水層よりはるかに下」であるとしている。

掘削してできる処分場は、長さが1.5キロメートルに及ぶ。この長さがあれば、沸騰水型原子炉 (BWR)の廃棄物であれば6年分、加圧水型原子炉 (PWR)の廃棄物では10年分、保管できるという。

また、掘削の段階から貯蔵の作業まで、人は地中に入らない。掘削孔の幅も、およそ45センチメートル程度に過ぎないものとなっている。さらに、使用済み核燃料を収めるキャニスターの他、掘削孔のシーリングも人工のバリアとして機能。これら人工バリアは、数十万年が経過すると機能不全に陥る可能性が考えられ、Deep Isolationはその後の廃棄物の隔離は「ホスト地質に依存する」と説明する。

こうした狭く深い場所での最終処分により、もし何らかの理由で放射性粒子が地表へ向かったとしても到達前に崩壊する。さらに人が侵入することも防げるため、核不拡散の効果があるという。

Deep Isolationの技術紹介動画

Deep Isolationはできるだけ資産を持たず、技術のライセンスを顧客に販売するアセットライトビジネスモデルを採用。そのため、実際の最終処分場を保有するのは、顧客になると見られる。一方、この点での不安を払拭するためか、Deep Isolationは公開討論への参加など地域社会との連携もアピールしている。

なお、2025年5月23日にDonald Trump米大統領が、使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物の処分を促す大統領令に署名した。直後に、Deep Isolationはこの大統領令を歓迎するステートメントを発している。

資金調達とともにOTCQB市場への上場申請も発表

2025年7月の資金調達には、カナデビア(旧日立造船)の米子会社であるNAC Internationalなどが参加。資金の使途についてBaltzer CEOは「技術実証」に資本を投入するとしている。

また、同じくBaltzer氏は「AIデータセンターや産業プロセスの電力需要の高まり、そして炭素ベースの電源からの転換に対応するために原子力エネルギーの需要が加速する中で、$155b(約23兆円)規模の世界の核廃棄物処理市場が、2050年までに倍増すると予測されて」おり、この分野でのリーダーとしての地位を築くと、コミットした。

さらに、資金調達とともにOTCQB市場への上場申請をすると発表。米証券取引委員会に必要書類を提出すると明らかにした。OTCQB市場はいわゆる店頭銘柄の市場で、NASDAQを目指す企業が準備段階で株式公開する場と見なされている。




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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