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遺伝子発現データを AI で生成・予測する基盤モデルを開発するSynthesize Bioが1,000万ドルを調達

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Synthesize Bio は、2025年に米国で創業されたバイオテック企業である。「Generative Genomics」と呼ばれるアプローチを掲げ、遺伝子発現データを AI で生成・予測する基盤モデルを開発中だ。同社の「GEM-1」は大規模に整備された RNA-seq データを学習し、実験条件から発現を予測できる。研究者は R や Python の API を通じて利用可能で、創薬プロセスの高速化を目指している。

2025年9月、同社はシードラウンドで 1,000万ドルを調達した。ラウンドは Madrona が主導し、AI2 Incubator、Sahsen Ventures、Inner Loop Capital、Point Field Partners が参加した。資金は GEM-1 の改良、実験データ基盤やシミュレーション環境の拡充、創薬企業への提供体制強化などに活用される予定だ。

創薬の新しいアプローチ

生命科学研究の現場では、実験コストやデータ取得の偏り、希少サンプルの扱いなど多くの制約が存在する。特に創薬領域では、実験を回して結果を検証するまでのプロセスに時間と資金がかかり、効率化が強く求められてきた。また、既存の手法では実験データが十分でない状況下での仮説生成が難しく、研究のボトルネックになっている。

これに対し 同社は、「Generative Genomics」という概念を掲げ、AI で遺伝子発現データを生成・予測できるプラットフォームを提供する。公式サイトによれば、同社の旗艦モデル GEM-1 は高精度なバルクおよびシングルセル RNA-seq データを、実験条件の記述から出力できるレベルを目指しており、限られた実験データしかないケースでも仮説検証を迅速に進められるよう支援する構想である。

遺伝子発現をシミュレーションする GEM-1

同社の基盤モデル「GEM-1」は、創業者 Jeff Leek と Rob Bradley が Fred Hutch(※米国シアトルに拠点を置く世界的ながん研究機関、Fred Hutchinson Cancer Center)で得た着想から生まれた。二人は LLM の仕組みに着想を得て、「実験条件の記述から新しい遺伝子発現データを生成できるのではないか」と発想。既存データをヒートマップ化して画像生成モデルに入力した初期プロトタイプが、実際の実験結果に近い出力を示したことが原点となった。

その後開発された GEM-1 は、大規模に整備された RNA-seq データを学習し、入力条件に応じて発現をシミュレーションできるまで進化した。研究者は R や Python の API から利用でき、自前のデータや公開データと組み合わせて解析可能。これにより限られた実験リソースに依存せず、多数の仮想条件を試せる環境を提供し、研究効率と創造性を大幅に高めている。

次世代モデル開発と研究環境の拡充 

今回調達した資金は、同社のコア技術である Generative Genomics をさらに進化させ、実用化に向けた取り組みを加速するために活用される見込みだ。今後は GEM-1 の改良に加えて、次世代モデルの研究開発を進めることで、より幅広い実験条件や疾患領域に対応できる予測精度を追求していく。

あわせて、実験データや臨床データの統合を進め、研究者が日常的に生成データを活用できる環境の整備にも力を入れる。API やクラウド基盤を拡充し、誰もが容易に仮想実験を試せるようにすることで、創薬研究における標準的な手法のひとつとして定着させることを目指している。



参考文献:
※1:Synthesize Bio Launches with $10M Seed Round to Accelerate Generative Genomics(リンク

※2:同社公式HPリンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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